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ドジな女神に不死にされました  作者: 無職の狸
第三章 巻き込んだ男と巻き込まれた少女
92/109

<C25> 餞別

††


 戦闘地点から30分ほど移動し、右手の森が晴れて海に面した平原が現れた。

 

 移動時によく使われる平原なのだそうだ。


 何度も使われているのか、そこかしこに野営の後が残っている。またそれ以外にも、多少の施設が残されている。


 騎士達が早速テントを張り、夕食の準備が始まった。あちらこちらで、大きな焚き火が焚かれて、その上にやたらとでかい寸胴を載せてお湯をわかしている。


 長机の上では様々な野菜やら肉やらを調理担当の者が切りまくっている。さすが騎士だけあって包丁の使い方が上手い?


 なにせ大勢居るのだから大変だ。ちなみに負傷者のうち、重症者は街に帰された。いまならまだ街から遠くはないし、馬車と馬に乗せて帰還となった。

 

 あの襲撃で動けないほどの重傷者は60人程。付き添いで戻ったのが20人。つまり約半数が戦線を離脱したようだ。


 その殆どがゼクスフェス一人にやられたんだから、奴の強さが並じゃないってこと。それに対抗するルミにしてもアリスにしても、人外の域に到達してるよな。

 

 クリフがアリスに勝てる日なんて来るのかね。


 飯作りに忙しく動いてる騎士達だが、俺の方は特にやることもなく、ルミとコッペルを連れて崖近くまで歩き、広大に広がる海を見ていた。


「海だ~~」


 ルミがぴょんぴょん跳ねてるけど、落ちるなよ。


 俺はルミに気を取られながらも、この世界にも海はあるのかと、当たり前のように感心してる。


 いやね、魔大陸まで船で渡るわけだから、当然海もあるはずなんだけどね。


 んなこたーガキでも解る事だけど、やっぱこの目で見ると感無量なんだな。何せこの世界に来てから13年、ずっと山やら森やら内陸で暮らしてたからな。


 といっても、あれ、俺ってば海を見たのっていつだっけ。


 ここに来てから一度も見てないのはいいとして、前世で見たか?小学校かな、中学?20年近く前かもしれない。合わせると30年以上かな。


 はは、ほんと引き籠りって、なんなんだろうな。自分の活動範囲を狭めて、部屋の中だけにしてしまって。


 だが今はこうして世界を駆け巡っている。遥か彼方の地平線、微かに聞こえる波の音と、潮の香り。海だね~なんて感動してみたよ。


 そして左に視線を向けると、月明かりの中に浮かびあがる巨大な大陸があった。

 

「あれが魔大陸ノスフェラトゥかな。」


 俺がぼーっとして見ていると、レヴィが隣に来た。


「ああ、そうみたいだ、長かった。やっとここまで来たよ。」


 遠かった。ここに来ると決めてから、数か月以上が掛かった。その遠い旅路も、あと少しで終わり──あとは修羅の道だけだ。


 待ってろよゼクスフェス。貴様らを皆殺しにしてやるからな。


「全部は上げないからね。」


 背後から声が掛かる。振り返ると、アリスとクリフ、その背後にマリアの姿があった。

 

「ザックは私の獲物。それに首なし騎士デュラハンも。」

「ジュンヤにはやらんからな。」


 アリスが唇を吊り上げ云うと、クリフも続けて言う。


「クリフはいいの。」


 すぐにアリスが窘める、クリフが「それはないだろ」とばかりに泣きそうな顔でアリスへ顔を向けた。

 

「ふん、俺はアマンダを取り戻すことが最優先だ。」

「わかってるよ、ローリー」

「ちげぇっての。」


 いつかぶん殴ってやる。


「言っとくけど、見つかってもジュンヤと同じ年なんだから、小さくないからね?」

「わかってるわーーっ!」


 ああもう、ほんと殴りたい。

 

「ジュンヤって、小さい子がいいの?」


 突然レヴィががぶっ込んでくる。


「ち、ちがうっ!」

「そっか……」


 レヴィがなんか肩を落としてるのは何故だ。


「ジュンヤ~、ルミの事は嫌い?」


 ルミが下から悲しげな視線を向けてる。


「あ、いやそうじゃなくて、ルミは好きだよ。大好きだよ。」

「「やっぱり!!」」


 わーもーどうしたらいいねん!

 

「いや小さいのが好きとか嫌いとかじゃなくて、てかなにを俺は、俺にはアマンダが全てなんだからな。」

「──だよね。」


 また寂しそうな顔をするレヴィ。


 ああもうわけわからん。



◇◇



 様々な思いと誤解を乗せて、俺達は無事にミスティの街に到着した。


 ぶっちゃけ街の雰囲気はあまりよくはない。噂通りに街には一般の人の数は少なく、訳ありの連中が多そうだ。


 120人の騎士団が入場しても、特に人目を引くこともないのは、慣れているということかもしれない。


 ただ宿は充実している。数百人規模の騎士団の駐留を考慮しているのか、十数件の宿があり、収容規模は千人を超えるらしい。

 

 収まりきらない場合は、街の様々な施設を使ったり、また広場などが臨時のテントを張って使われるとか。


 そんなわけで、今も隣国から来た数百人規模の騎士と数十人の商人が駐留してるとか。


「ジュンヤ、俺達はここまでだ。」


 夕食をとりながらニトロがいう。


 うん、わかっていたことだけどな。ここまで送ってくれるっていう約束だ。


「ありがとうな。」


 ニトロが差し出すジョッキに、俺もジョッキを持ち上げて打ち付ける。同じようにグルームもゴレムもリリスも、そしてレヴィもジョッキを打ち付けてきた。

 

「絶対に彼女を見つけろよ。」

「死ぬなよ。」

「生きて帰って、また酒を酌み交わそう。」

「必ず生きて帰って、また会いましょう。」


 様々な言葉にちょっとこみあげてくるものがある。短期間だけど、いろいろな思い出があった。仲間っていいもんだ。


「必ず成し遂げる。きっとまた会おう。」


 明日の朝には船が出る。これがニトロたちとの最後の別れの酒だ。だけどなぜかレヴィは俯いて黙っている。


 不意に顔を上げると、少し涙ぐんだ目で俺をみると

 

「頑張って。」


 とだけ言って無理に笑顔を作った。


 なんだろう、悲しんでくれているのか、やっぱ短期間でも一緒に生死を潜り抜けてきたからかな。

 

「ああ。」


 俺も笑みを作り返した。



◇◇



 早朝、波止場にはやたらと大きな戦艦と、人員移動用の船が停泊していた。


 小型と大型の魔導砲台が装備された戦艦が6艦、百人以上の騎士を乗せられる大型ガレオン船が5隻停泊している姿は、なかなか圧巻だ。

 

 何よりもその周囲には百人余りの騎士と魔導士が警護に当たっている。


 これもまた魔族の襲撃を気にしての事らしい。

 

 ファルコンがあるのに、魔族は何故大陸を渡ってこれるのか、単純に翼を持っていたり、隠蔽スキルだったり、理由は色々らしい。それでもファルコンが建立される以前より、格段に減ったようだ。


 ガレオン船の前に整列した、騎士や魔導士が次々に乗っていく。その多くは隣国のエグゾス帝国の騎士と、南に位置する神聖アリストラ法国の魔導士だそうだ。

 

 ちなみに神聖アリストラ法国ってのはやたらと魔術に特化した国家だそうで、宗教的にもグランダム王国とは異なる独自の神を信仰しているとか言ってたな。


 昔は国境紛争とかで争ってたらしいが、魔族の件で共闘するようになってから、紛争も減ったとか。


 魔族がいる限り、人同志で争ってても仕方ないってことだろうが、完全に紛争がなくならないところは、やっぱ人間なのかねぇ。


 あれ、それって魔族が民族間の紛争を減らしてるってこと?


 エグゾス帝国とグランダム王国も辺境地帯、いまの中立地帯で結構争ってたらしいし。小国とも割と争ってたとか。

 

 やっぱ救われないな。

 

 ま、俺には関係ないか。

 

 やがて俺達の乗る船となり、120人の騎士と魔導士、そしてアリス、クリフ、俺、ルミが乗り込み始めた。

 

「ジュンヤァァァァ!!」


 レヴィの声に振り向くと、桟橋近くでこちらに手を振っていた。

 

「無事に帰ってこい、絶対帰ってこい、死んでも帰ってこい、帰ってきたら、アタシの処女やるからなぁぁぁ!!!」


 ぶぼぉっ

 

 おおおおおお、おいい。

 

 みてるみてるみてる。みんなが見てるぞ!

 

 ルミも俺見上げて「処女ってなに?」てな顔してるぞ、いやいやいや。

 

「いいかぁぁぁ、必ず帰ってこいぃぃ!!」


 顔を真っ赤にして叫んでるのはいいから、もうやめてくれ。

 

「もてるねぇ。ジュンヤさん?」


 アリスがポンと俺の肩に手を当てて、とっても良い笑顔してる。

 

「モテル男は辛いね。」

「さすがロリ殺し。」


 やめてくれぇ!だいたいレヴィは背は小さいけど、俺より年上だぁ。厳密には違うが、この世界では年上なんだぁ。


「絶対絶対、かえってこい~、帰ってきたら、むがぁ────」


 これ以上はとニトロとグルームがレヴィの口を塞ぎ、押さえつけてくれた。

 

 さ、さんきゅ……



††

第三章の終わりでございます。

三章のタイトル、完全に間違えてますね。後ほど修正いたします、申し訳ないですm(_ _)m


次回より第四章として始まりますが、またしばしお時間を頂く予定です。

魔大陸での魔族との攻防、本来の想定ではここで最終章となる予定でしたが、もうちょっと掛かるかと。

最後まで続けられるよう、頑張ります

m(_ _)m


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