<C24> アリスを狙う理由
††
現実の殺し合いとゲームは違うなんて、わかってた事なのにそこまで気が回らなかった。何年も戦ってきてるのに、情けない。
と適度な反省をしつつ、作戦会議ですぐに動けず、ちょっとイライラしていると、レヴィがルミを連れてやって来た。
「ジュンヤ……」
ルミがしょぼくれた顔をして俺を呼び、俺に抱き着いてきた。
「どうした、ルミ。」
「お腹ダイジョブ?」
俺を見上げて悲しそうな顔をしている。目にはうっすらと涙さえ溜めて。
俺は優しく頭を撫でてやり、こくりと頷いた。
「ああ、だいぶ治ってきてるよ。」
「そう、良かった」
ほっとしたように俺を力強く抱きしめてくる。
可愛すぎだろ!
それはそれとして、レヴィがなにか眉を顰めている。
「──どうした?」
俺が顔を上げると、レヴィは重い口を開く。
「この子さ、やばくないかな。」
「………」
俺は言い返せなかった。
ルミは記憶が戻り始めているのかもしれない。ゼクスフェスは事故がどうのとか言っていたが。
今は俺に懐いてくれているルミが、いずれ完全に記憶を戻し俺に牙を向ける日が来るのかもしれない。
まあ毎日一回は牙むいてるけどな……
「気になるのは、さっき使ってた能力がさ、うちらと戦った時と違うかな、ってさ。」
「ああ、そういえば」
「なんだろう、すごく気になってるんだ。」
レヴィが心配そうに言うが、それは俺も同感だ。
俺達と戦った時は爪だったのに、今回は赤い剣を出してきた。あれはおそらく、あまり考えたくないが……血の剣だったのかもしれない。
うーん、吸血鬼っぽいなぁ。
ゼクスフェスと剣を交わらせた時だって、6本の剣を相手に対等に戦っていた。あんなの俺だって無理なのに。まあ俺はそれほど強いわけじゃないけどな。
「最悪の時は俺が差し違えても責任はとるよ。」
抑えられる自信なんてないけど、ルミの頭を撫でると、レヴィは納得いかない顔をする。解ってるんだろうなぁ、ルミが俺より強いって。
それでも不承不承に頷ていくれる。
「わかった。責任とりなさいよ。」
そういって納得いかない顔のまま、踵を返してニトロの方へと向かう。その入れ替わりにアリスがやってきた。
俺ににっこり笑いかけ、そしてルミを見ると優しく頭を撫でる。
「ルミちゃん、さっきはすごかったね。」
「ジュンヤを守るの~。」
いやそれどうかな。幼女に守られるってどうなの?嬉しいけどあまり嬉しく無いぞ。
俺の気持ちを知ってか知らずか、ルミが笑みを浮かべて応えるのに、アリスも優しく笑いかけてる。
「話は終わったのかい。」
俺の問いかけにアリスは顔を上げると、こくりと頷いた。
「すっかり暗くなっているけど、流石に死体の近くで野営はまずいから、少し移動するわ。」
「そうか。」
辺りには亜人と魔族どもの死体がごろごろして、血の匂いで蔓延している。
こんな場所で野営なんて、いくら何でもごめんだからな。それに死肉を求めて魔獣や獣が寄ってくるしな。
「それよりジュンヤはゼクスフェスとかいう魔族に、ずいぶん気に入られていたわね。魔族になるの?」
アリスが笑みを浮かべていう。
途端に俺の顔つきが変わる。おふざけだろうが、冗談でも言って欲しくない言葉だ。あいつらは仇、俺の村と両親の仇なんだ。なんで奴らの仲間になどならなきゃいけない。
「わかってるよ、そんな怖い顔しないの。」
「二度というな。」
ふざけすぎたかと頭をぽりぽりしているアリスに向けて、念を押した。
「でもさ、そんなに魔族が憎いなら、なんで魔族を連れてるの。」
切り返された。やっぱわかってたか。まああんな戦い方を見せられちゃ、嫌でもわかるよな。だがルミの前でそれを話すのはどうなのか。
「ルミ、ちょっとアリスと話しがあるから、ニトロ達のところにいっててくれるか?」
「はーい。」
ルミはちらっとアリスを見ると、元気に手を上げ、コッペルを連れてニトロの方へと向かった。
「ふ~ん、ほんと良く懐いてるね。」
「まあな、ルミはお前の言う通り、元は吸血鬼だ。俺達を襲ってきたんで、倒した。」
「倒しても復活か、吸血鬼らしいね……で安全なの?」
「多分……」
アリスは複雑そうな顔をして俺を見ている。やっぱ聞いただけじゃ懐疑的なのも無理は無いよな。
「ゼクスフェスもルミネスとか呼んでいたし、元はあいつの仲間ってところじゃないの?」
「奴の言葉を取れば、そんな感じだったな。」
「それがなんでジュンヤを守っているの?」
もっともな質問だ。
「ぶっちゃけ、俺にもよくわからん。復活したら記憶を失ったらしい。名前はおろか、魔族としての記憶も何もかもな。」
「ふ~ん……記憶障害か、魔族にもそんなの有るんだ。で、ああいう子が趣味なの?」
ちょまてぇぇぇ!
それを今ここで言うか、言うのか?いや言い方を考えろよな。あらぬ誤解が生じるだろうがぁ。
「何考えてんだ、ルミは俺が探してる幼馴染のアマンダに、そっくりなんだ」
途端にアリスが目を見開いて一歩下がった。
「髪の色も顔立ちも、違うところは目の色くらいか。それを抜かせば、アマンダそのものなんだよ。」
「アマンダってあんな幼女なの?……まさか貴方、やっぱ真正ロリ──」「ちがぁぁぁぁ!アマンダが『小さかった時』だ、アマンダは俺と同じ年だ、判るか、アマンダが小さかった時だ、小さかった時にそっくりなんだ!」
「解ったわよ、しつこく云わなくても解ったから。」
食って掛かる俺にアリスは若干引いている。いやしかしだな、くれぐれも間違えないでくれ。絶対にだ。
「なるほどね。じゃああの子を毎晩抱き枕にしてるとか……いくらこの世界に青少年保護条例が無いからって……ないよね?」
アリスの仮面の向こうの目が、悍ましいモノを見るような目つきで見てくる。
「ないっ!」
いやそれは嘘かな。いやいや俺が望んでるわけじゃないぞ。ルミがコッペと一緒になって抱き着いてくるんだからな。
俺は断じて自分から抱き枕にしてないからな。
「まあいいか。それなら多少安心できるし。」
「安心?」
「ん~、性犯罪者が近くにいると嫌でしょ?」
「あほぉぉぉっ!」
思わず刀に手をかけてしまったぞ。
今の声が聞こえたのか、ツェザーリとクリフが俺をみて睨んでいる。皇女に対して無礼な言葉を、なんて思ってんだろなぁ……
マリアはなんか「我関せず」と素知らぬ顔をしているし、この毒舌皇女を何とかしてくれぇ。
ルミやニトロも俺の大声に驚いたように見ている。
悪いが見ないでくれ。
「ねぇ、ルミちゃん?」
アリスが手を振ってルミを呼び寄せてる。余計なこと言うんじゃないぞ。
「んぁに?」
アリスがちょこちょこと走ってくる。ん~可愛いなぁ。頭の上のコッペルが揺れて更に可愛いぞ。
「これからもロリなジュンヤの味方でいてくれるかな?」
「うんっ!」
「まて、ロリはいらん。」
アリスの問いかけに、ルミはすごくいい顔で返事をしてくれる。俺の味方がいた!いや、なんか違う。
「そっか。ありがとうね。」
アリスが再びルミの頭を撫でると、ルミがますます可愛らしい顔になる。
可愛いなぁ……
「そういえば、ゼクスフェスはアリスを狙ってるみたいだけど、あいつと会ったことがあるのか?」
「ううん、アイツの事は知らないし、王都を出てから何度か襲われたけど、アイツに会うのも初めてかな。」
なるほどね。こないだも翼の有る魔族だけだったし、今までは幹部みたいな奴は出てこなかったわけか。
「私をザックに会わさない為に必死なのかもね。あとは私の称号かな~。」
「天臨王か。」
「うん。わからないけどね。」
アリスが大したことじゃないみたいな顔してるが、ぶっちゃけ同行する俺たちにとっては疫病神だぞ。
††




