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ドジな女神に不死にされました  作者: 無職の狸
第三章 巻き込んだ男と巻き込まれた少女
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<C18> 襲撃

††


 ツェザーリ様ったらほんとにおせっかい焼きなんだから。

 ううん、それをいうならお父様のアシュレイ=ロレッツオ辺境伯かしらね。


 こんな利にも成らない事に、ご助力頂けるなんて……


──ありがとうございます。


 私は馬車を囲み整然と騎乗して進む騎兵たちを見て、頭を下げた。


 そしてはるかに見える城塞都市に向かって、礼を言った。


 あの日、アシュレイ=ロレッツオ辺境伯から夕食に呼ばれた時に云われた。

 

「アリス様のお父上、国王陛下から書簡を頂きました。」


 30代後半のダンディな男性は、優雅に食事を進め私に優しい笑顔で話しかけた。

 

「お父様からの書簡……」

「はい、アリス様をできるだけ、援助してやってほしいと。」


 私は思わず手が止まった。

 

「政務に追われ、貴女に構えなかった。だからこそ貴女をずっとそばで支えてくれていたエリーザが失われたのは、貴女の計り知れない悲しみは、胸が痛くなる思いだと、書かれておりました。」


 その言葉に、私は呆然として辺境伯を見ていた。


「ヴィクリーヌ陛下とは若いころから懇意にさせていただいております。アリス様のご誕生の際には、ヴィクリーヌ陛下は大変お喜びになられておりました。」


 うそ……

 

 いや、違う……

 

 幼かったころ、覚醒する前は確かにそういう記憶がある。だけど、だけど。

 

 学園に行くときも見送りに来てくれなかったし、その後だって年末年始にお城に戻っても、ぜんぜんお会いになってくれなかったし、5年生の時にあったのが、学園に入って初めてだった。


 ずっとほったらかされていたのに。


 所詮第三皇女だから、所詮政治利用されるだけの存在だから、愛されるわけがない。そう思っていたのに。諦めていたのに。

 

「仇を討つとはいっても、嫡子ならともかく、侍女が殺されたり、また、貴女が傷を負ったとは言っても第3皇女では、国軍を動かすわけにはいきません。ヴィクリーヌ陛下が動こうにも、周囲が許さないでしょう。」

「そ、そうですね。」

「だからアリス様の思うままにさせたい、そして私に手伝ってやってほしいと。」

「お父様……」


 目からぼろぼろと涙が落ちてくる。

 

 お父様のご支援、アシュレイ辺境伯のご支援を受けて、なんだか私の為にみんなを巻き込んでしまったようで、本当に申し訳ない気がしてならない。





 外がオレンジ色に染まり始め、斥候部隊が今日のキャンプ地の安全を測りに出ようとした頃。


「来ました。」


 不意に感じた嫌な感覚に、私は顔を上げた。


 私の反応にマリアとクリフ様の顔に緊張が走る。すぐにマリアが御者台にでると、ツェザーリ様にそれを知らせに走った。


 ツェザーリ様はいったい何事かと驚いていたが、私からの伝言だと知ると、騎兵の行進を止めて、警戒に入ってくれた。


 そう、そうしてくれないと困る。


 馬車の扉を開けて外に出た私は、ツェザーリ様のところまで行くと、マリアがその傍らに走り寄ってきた。そのあとをクリフ様が続く。


「何事ですか、アリス様」


 ツェザーリ様が訝し気な顔をしているが、一応止まってくれただけでも良しとしよう。


「穢れた気配を感じました。」


 簡単に説明する私だが、それだけで十分だろう。すでに魔族は近くまで来ているのだから。


 方向は北西。つまり私たちが向かう方向より若干西の街道を外れた森側。少なくともミスティの街からではない。


 おそらく私たちが通りかかるのを狙って、横から襲撃する予定だったのかもしれない。


「本当なのか?」


 深い森の中は見渡すことは無理だ。逆に待ち伏せを仕掛けるなら、いい条件だろう。

 

 ツェザーリ様は私を訝し気に見る。


「私を信じて。」

「ああ、俺が保証する。」


 ちょっと待てクリフ、なんで貴方が保証するのです。


 じろっと睨むとクリフは素知らぬ顔で、視線を逸らしました。あとで殴ります。


「わかった。」


 ツェザーリ様は私に押されて、騎兵に声を掛け、北西の森の様子を見に行かせた。


「でもなんで……」


 再び不思議そうに私の顔を覗き込むツェザーリ様。きっと危機感知スキルをお持ちなのかと思うけど、それに引っかかってないのかな。うん、いくら何でも不思議だよね。


「内緒です。」


 ごめん、私も不思議なんだ。


 多分これってこの傷を受けた時からなんだと思う。魔族が付近にいるとわかっちゃう。奴らの気配がわかるの。


 数分と経たずに斥候が戻り、およそ100匹前後の複数種の亜人が森に隠れているのが発見された。そして目ざとい奴が斥候を発見したらしく、亜人共が斥候を追ってきているとのことだ。


 彼らは仕切りに謝罪しているが、引っ張る手間が省けましたね。


「アリス様。」


 マリアが傍らによると、私の前に腕を差し出す。腕の近くの空間にはぽっかりと白い円が空いて、剣の柄が出ていた。


 マリアの収納魔法だ。


 私はその柄を掴み、長さ90センチほどの、美しい細身の長剣を引き出した。


「狩りのお時間、ですね。」

「アリス様のお手並み、拝見致しましょう。」


 私がにっこりと笑うと、ツェザーリ様も笑った。



◇◇



 隊列が止まった。


「どうした。」

「あ~、なんか先頭がとまったみたいだ。騎兵たちもざわついてるな………あれ、皇女様が馬車を降りて走ってるぞ。」


 俺の問いかけにニトロが首を傾げた。


 危機感知スキルにはまだ引っかかっていないが、アリスが走っているということは、何か俺の知らないスキルでも持っているのか。


「なんだろうね。」

「おぷっ」


 御者台に向かおうとすると、レヴィが俺を押し退けて前に出やがった。


 あやうくルミを転がしそうになったじゃないか。


「おい、レヴィ酷いじゃないか。」


 ルミを抱き上げて前に出ると、しかしレヴィは俺の方には見向きもせずに御者台に立ち上がった前方を見ていた。

 

「お姫様が剣を抜いた。」


 目を細めたレヴィがぼそりという。

 

「てことは、襲撃か?」

「盗賊かな。」

「ば~か、盗賊ごときに、あのお姫様が出ていくかぁ?そもそも騎士が200も居るんだぞ、そこに突っ込む盗賊なんているかよ。」


 ニトロに馬鹿にされた。まあそりゃそうだ。これだけの騎士団なんだから、並みの盗賊じゃ歯が立つわけもない。騎士団を襲うなんてのは、まともな奴じゃない。


「魔族か亜人どもだな。」

「ったくどこにでも沸いてくるな。」


 やれやれと嘆息し、俺はルミを預けて御者台から飛び降りる。

 

「ジュンヤーっ、」


 ルミが騒ぐのを背に、コッペルをルミに預けた。

 

「コッペル、ルミを守ってくれ。」

「くぅっ。」


 可愛らしい顔をしてこくりと頷く。うん、いい感じだな。

 

「ルミ、コッペルとおとなしく待ってろ。すぐ戻るからな。」

「………はぁい。」


 なんか不服そうに頷いた。ちと我儘になってきたかな。

 

「レヴィ、グルーム、ジュンヤについて行ってくれ。ゴレムとリリスは念のため、ここで待機。」


 ニトロが言うと、承知したとばかりにレヴィとグルームが馬車を飛び降り、俺とともに先頭に向かって走り出す。


 ニトロが残ったのは、全戦力を前に向けると、万が一後方から襲ってきたとき、守りが手薄になるからだとか。


 騎兵たちも道幅いっぱいまで広がり、円陣を組み始めている。


 俺達が先頭にたどり着くころには、騎兵たちが馬を降りて、剣を構え、森の中を走り迫る亜人を迎え撃つ用意が整いつつあった。


「アリス…様。」


 俺が先頭にでると、アリス達もすでに臨戦態勢になっている。

 てかドレスで戦うアリスも、メイド服のマリアもなんか場違い風なんだが。


 アリスは長剣をもっているが、今回は雷神剣を使わないのかな。人が多すぎるか?


「ジュンヤ、亜人だけじゃないからね。魔族も来てるよ。」


 うん、俺には完全にぶっちゃけてるな。ほらほら気安過ぎてクリフがまた変な顔してるし。


 てか魔族が来てるって、何故わかる。


「私にはわかるの。何故かね。」


 俺の心を読んだようにアリスが口角を吊り上げた。


††

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