<C14> お風呂で洗いっこです
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フライの街での滞在4日目。
食事の後、いつもどおりに繁華街に繰り出すというニトロ達を見送り、俺はルミを連れて部屋に戻った。
奴らの酒に付き合うのはゴメンだ。レヴィが名残惜しそうな顔をしていたが、お前が一番酒癖が悪い。なんど襲われかけたことか。
で、部屋に戻りさっさと風呂に入っていた。
もちろんルミも一緒だ。コッペルもいたりする。
ルミはコッペルを泡だらけにして遊んでいるが、コッペルはそれがお気に入りのようだ。気持ちよさそうな顔をして、ルミの手に身を委ねている。
コッペルの泡を落としてやったら、ここからが大変。
「クゥーーッ」
体を思い切り震わせながら回転させ、風呂場全体に水が飛ぶ飛ぶ。まるで脱水機だ。
「きゃーーあはははぁぁ」
ルミが喜んでるし。俺は背を向けて知らんぷり。
そしてすっきりしたところで、コッペルだけ出してやる。
さて次はルミの番だ。幼児体型そのもののルミの身体に石鹸で泡立てて洗ってやる。
吸血鬼ってのはそもそも体を洗う必要があるのだろうか、と思うのだが。吸血鬼の出てくる映画では、あまり入浴シーンを見たことが無いし。
まあ本物を見たのはこの世界が初めてなんだから、とりあえず洗ってやる。
肩まで伸びた髪を石鹸で洗ってやり、体も石鹸をつけて洗ってやる。
全身泡だらけにしたルミを洗ってやると、やたらジタバタくねくねとしている。
「くちゅぐったぁぁぁ」
「だーめ、ちゃんと洗わないと体が臭いから、ね。」
何せタオルもスポンジもないから、たっぷりと泡立てて手で直接洗うもんだから、かなりくすぐったいようだ。
暴れるルミを抱きしめて、2人して泡だらけになって………ほんとこんなときって昔を思い出す。アマンダとも一緒に風呂に入って、洗いっこした。
ダメだな~、目に石鹸が入ったのかな、ぽろぽろ涙が出てくる。
ちゃんと隅々まで洗ったあと、シャワーで石鹸を落としてから、ルミを湯船にいれてやる。
最後に俺も身体を洗い、ルミと湯船に浸かって、のんびりとしたひと時だ。
風呂から出るころには、すっかり眠くなって、ふらふらとしてるルミを拭いてやる。
流石に血も吸ってるし、風呂で温まったしで、眠気が最高潮のようだ。
コッペルはすでにベッドの上で丸くなってる。
服を着せたルミにベッドまで行こうかと誘い、コッペルの横に寝かせ、頭を優しく撫でてやる。
「うふ~~」
可愛らしい顔をして、気持ちよさそうにしているので、鼻歌を歌いながら背中をとんとんとしてやると、瞼が閉じていき、口が少し開いて寝息を立ててしまった。
うん、幼児は容易いぞ。
「コッペル、頼むぞ」
「……クゥ。」
こいつもほとんど寝てるが、まあ大丈夫だろう。
俺はルミを起こさぬように、そぉっと部屋を出て、階段を降りていった。
「何処に行くの?」
ふと視線を向けると、宿のロビーに設けられたカフェテリアでアリスがくつろいでいる。向かいにはクリフも座っており、2人で食後のお茶を楽しんでいたようだ。
いつも一緒に居るはずのマリアの姿が見えないが、部屋で片付けでもしているのかもしれない。または風呂の用意だろうか。
「このあいだ話したドワーフの店にいくんだ。」
「ルミちゃんは?」
「もう寝かしつけた。コッペルもいるから平気だよ。」
「そう……」
アリスは思い出した様に頷くと、席を立った。
「クリフ、ちょっと所用を思い出しました。」
「……ジュンヤについていくのかい?」
ちょっとクリフが不服そうな顔をしている。なんか気まずいなぁ。
「良ければご一緒に参りますか?」
アリスはあっさりと言うと、クリフがちょっと気まずそうな顔をした。
俺と良からぬことを、等と疑ったのかもしれないが、それをあっさり同行を許したアリスに、どうにも気まずいようだ。
確かにここのところ、互いに転生者とわかってからは、会話の頻度も増えているしな。わりと砕けた物言いをしてるからな。余計に親密に見えるんだろう。
疑われるようなことも、多少は否めないところだ。アリスも俺に対して気やすいのもあるか。
俺もアリスのことは言えないかな。
「行き先だけ教えてくれるか、何かあったら……」
「それもそうですね。ドワーフが経営している武具の店です。そのドワーフに興味がありまして、ジュンヤが今日約束しているので、同行させてもらおうかと。」
「ドワーフの店か、なるほど、アリスが興味を持ちそうな店だね。気をつけて行っておいで。」
クリフが快諾し、アリスはにっこりと微笑んだ。
「ジュンヤ、お待たせしました。参りましょう。」
俺は首肯し、クリフに軽く一礼してからアリスを連れ立って宿を出て行った。
「なんか気まずかったぞ。」
「なーにいってんの、構わないわよ。」
店を出るなり、アリスがいきなりぶっちゃける。俺と2人の時は現代的というか日本的な話し方に戻ってる。
「それに1人じゃないしね。」
「え?」
俺は意味がわからずに聞き返すが、アリスはくすっと笑ってそれ以上答えてはくれなかった。なんか隠してるのか?
まあいいや。別にやましいことは無いんだしな。
流石に大きな街だけ有り、街路には街灯が照らし、それほど暗いことはない。
治安も悪くないのか、人通りもあり、また時折街の警備兵の巡回も見受けられた。
やがて特に何事もなく、ドワーフの店に到着する。
「こんばんわ。」
俺は店に入ると、受付に座っているランバートに向かって手を上げた。
「おっと約束通り来てくれたか、オヤジが待っているぜ……とその人は?」
ランバートが笑顔で迎えてくれた。だが、俺の後ろに立つ仮面の少女を見て不思議そうな顔をする。やはり仮面は珍しいよな。
「ああ、この人は俺の知り合いでね。ちょっと訳ありで仮面を被ってるが、変な奴じゃないから」
「アリスと申します。」
アリスが軽く頭を下げて挨拶する。
「ああ、そうか。まあいいや、来てくれ。」
ランバートはちょっと変な顔をしているが、とりあえず俺とアリスを通してくれた。
案内されて奥の間へ行くと、ランスがまっていたが、やはりアリスの仮面を見てぎょっとした。当然なように何だこいつは、みたいな顔をしている。
例の和室に通されたアリスは、ランスに挨拶をしたあと、部屋の中を見て、呆気に取られたかのように、ぼーっとしていた。
俺も少し伝えはしたが、やはり自分の目で見るとそうなるだろうな。こんな異世界で現代日本でも滅多にお目にかかれない、純和風の室内だ。流石に驚いているようだ。
──まるで昔の日本の和室見たい……
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