<C15> 神の武具に選ばれたようです
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私はしばし部屋の中を見ていた。
江戸時代の様相をすら思わせる室内は、ランスの父、トールのデザインだという。
もしこれが何の情報もなく、トールの記憶から再現されたものだとしたら、トールという人──ドワーフは現代人とは思えない。
または余程昔の家屋が好きだった、ある種のマニアなのかな。
「気に入っていただけましたかな?」
ランスが微笑みながら、なんと急須を使って湯呑にお茶を注いでいる。
なにからなにまで古風な日本式。
「は、はい。すごく落ち着きます。」
「まあ、どうぞ立ち話もなんですから、お座りください。」
ランスが井草の座布団の前に湯呑をおいてくれる。
お茶も本物だ。ちょっと独特な風味を持っているけど、ちゃんとお茶の味がする。
ジュンヤは茶畑もあるとか言っていた。
「私の父は、この部屋のデザインを、《ワソウ》と言ってました。」
ランスの言葉に私とジュンヤは顔を見合わせた。ジュンヤもそれを聞いたのは初めてなのか、目を見張っている。
「なんでしょうな、私にはわかりませんが、父の故郷……だそうです。」
「こ、故郷なんですか?え、でも日本というのは、他の国なんでしょうか。」
私は態とらしく尋ねた。
もちろん日本が他の国であるわけがない。ドワーフの故郷はグランダム王国とエグゾス帝国に挟まれた小さな国の1つだ。
少なくともこの世界、地図に載る世界の中に、日本という国は存在していない。
ちゃんとイグリーズ学園で地理を勉強したんだから間違いない。
「いえ、父は少し変わったところがありましてね、まあお恥ずかしい話、変わり者でした。」
「変わり者、ですか?」
「ええ」
ランスはフォッフォと長い顎鬚を撫でて笑った。
「なんでもニホンというのは、とても遠い場所にある国だそうです。果てしなく遠く、たどり着くのは困難な、遠い国。」
「……はぁ。」
「時折懐かし気に何処かを見ていましたよ。変わった人でした。ドワーフの故郷といえば、聳える山々に囲まれた国だというのに、何故でしょうね。母に聞いても父は聳える山々に囲まれた国で生まれ育ったというのに、いつも故郷はニホンだと言っていたそうです。」
やはりそうなんだ。
女神と会ったかどうかは、今となってはわからないけど、でもトールは日本人で、ドワーフとして転生したんだ。
「まあ、夢の話なんでしょうが、父はそのニホンでも鍛冶師だったといっていました。サムライの為にカタナをつくっていたとか。」
「「えええええ!」」
私とジュンヤがハモるように声を上げた。侍の居た時代といえば、江戸時代。明治政府に変わる前だから、私が生きていた時代から200年位前だ。
そんな大昔から転生があった、いやそれはそうかもしれない。女神が転生を昨日今日始めたとは思えないし、そもそも神に年齢などあるとは思えないし。
「ふぉふぉふぉ、儂もよくは知りませんが、父は幼い時より鍛冶の天才と言われ、様々な武具を作り、15歳の時には魔術を武具に取り入れる手法を見出したそうです。」
「それが神の武具ですか?」
ジュンヤが尋ねると、ランスは首を振った。
「神の武具と呼ばれる、いわゆる完成品に到達するには、かなり試行錯誤していたようですね。儂が20歳の頃、父が80歳の頃、完成いたしました。」
「それが100年前?」
私の問いかけにランスは首肯した。
「ふぉふぉふぉ、私も父の手伝いをしておりましたが、鬼気迫るものがありました。なぜそこまで神の武具に拘ったのか、鍛冶師の本能とでも云うのでしょうかね、より良いもの、より最強に近づきたかったのかもしれません。」
「最強……か」
ジュンヤはゴクリと固唾をのんだ。私にまで聞こえてきたぞ。
ていうか~、男ってなんでそう拘るのかな?私にはよくわからない。でもより高見を目指すのはわかる。私だって陸上で最高位を目指したんだから、より早く、より高見へ。その気持ちは多分同じなんだと思う。
「拘りに拘って、拘り過ぎた結果が、神の武具です。ですが、それは非常に危険な武具となりました。」
「それは、強くなりすぎたということですか?」
私が尋ねると、ランスが首肯した。
「父は出来上がった神の武具を倉に仕舞いました。誰の手にも触れさせないため。まあ壊してしまえばよかったのでしょうが、流石に丹精込めた武具を壊すなど、我が子を殺すようなものですからね、できなかったのでしょう。ふぉふぉふぉ」
ランスは優しい目をして笑っている。鍛冶師にとって作品は我が子のようなものなのか、私はそうした製造の分野はよくわからないけど、そうなのかなと頷いた。
「ランバート」
ランスが部屋の外に声をかけると、ランバートが手に何かをもって入ってきた。
ランバートは布に包まれた物をランスの横に置き、また店に戻っていき、ランスは布を外し、中身を見せてくれた。
「これは……」
ちょっとハシタナク、しげしげと見つめるそれは、日本刀のような刀が1つ、ガントレットとブーツがあった。
「父の残した神の武具には、5種の武器と、鎧一揃えがあります。これらは、盗賊どもに盗まれなかった神の武具のです。」
そういってランスは刀を手にとり、すうっと鞘から抜いて私たちに見せてくれた。
ネットで見たことがある、湾曲した日本刀独特の形状、鍔には何か文様が描かれ、刀身にも何か文字が書かれている。
私もこれまでいろいろと戦闘経験はあるけど、その刀身をみつめ、たまらずに固唾をのみこんだ。
見ているだけで引き込まれそうになる、なんというか、自分から斬られてみたくなるとか、おかしくない。
「これは斬龍丸です。この世で最も強固だといわれる、古代龍の鱗をも切り裂く剣です。」
「……ドラゴンを?」
「ドラゴンなんているんだ……」
「魔族がいるし、なんでもいるだろ?」
「それもそうね、勝てるの?」
「わかんね、会ったことないし。」
「でもそういえば、魔法の授業で黒龍からとった魔石がどうとか言ってた記憶がある。」
「黒龍って、黒い龍?」
「100年くらい前だって言ってけど」
「こほんっ。」
「「あ」」
つい話し込んでしまった。失礼しました。
「──研ぎ直しておきました。ジュンヤさん、どうぞこれをお持ちください。」
「で、でも、これはその……」
いきなりのことに、ジュンヤは少し戸惑っているようだ。
「それにこちらは、皇龍の籠手と皇龍の具足です。古代龍の鱗を加工して作られた防具です。きっと貴方のお役に立つでしょう。」
「え、ジュンヤ話したの?」
つい聞いてしまったが、ジュンヤは慌てて顔を振った。
「い、いや、ただ雷神剣を渡しただけだよ。」
言い訳するが、どうも怪しい。
「いやいや、なにやら訳ありの旅のようでもありますしね。それにこの斬龍丸が、ジュンヤさんに使われる事を望んでいる、そんな気がしましたので。」
「へ……」
にこにこしてるランスさんに、思わずアホな声で返してしまった。
恥ずかしいぃ、顔真っ赤かも、いいや仮面で隠れてるし。
でも意味が分からない。刀が所有者を指定するなんてあるの?なに、じゃあジュンヤは神の武具に選ばれたっていうの?
なんかそれって、ワクワクしてくるんだけど。あたしもなんかないかな~♪
ないですか、あそですか、それは失礼いたしました。
ケチィッ!
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