<C11> ドワーフはちっちゃい
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なんでこうなった。
街での滞在が、アリスの都合で数日伸びた。俺としてはさっさと行きたかったが、辺境伯の館から戻ったアリスがどうしてもとお願いするので、あと5日、この街に滞在することに渋々同意した。
ニトロにしても金を貰っている手前、無碍に断ることも出来ず、俺とアリスの板挟みだったし、何よりアリスもまた俺同様に訳ありの旅でもあるのに、それがどうしてもというのだから俺が折れるしか無かった。
結局俺は城下町をだらだらと散策して過ごすことになった。
ルミと仲良く手を繋いで、頭にコッペル載せて。
どこに行っても笑いもんだな。可愛いのに。
あちらこちらに建ち並ぶ露店をみて、ルミがたーっと走って行って覗きこむ。その都度俺は引っ張られるのだが、なんか力が強いな。
「コレーッ」
アクセサリーの店で綺麗な首飾りや指輪何かを、楽しそうに見ている。
「欲しいのか?」
尋ねるとくるっとこちらを向いて、ニコッと歯を見せて笑う。めっちゃ可愛いけど、牙がちょっと怖いぞ。
そういえば、アマンダには何も買ってやれなかったな。せいぜい花で造った首飾りぐらいだった。それでもアマンダは愛くるしい顔をして、本気で喜んでくれていた。
──アマンダ。
俺はぐっと歯を食いしばり、ルミを見つめる。何故お前はこれ程にているんだ。そっと頭をなでてやると、なんか不思議そうな顔をして俺を見ている。
「あまり高いのはダメだけど、安いのなら買ってやるぞ。」
優しくいうと、凄くいい笑顔になって、夢中でアクセサリーを見つめてた。
アマンダの代わり、アマンダに出来なかった事をしてやるための人形。
頭の中でいろんな思いが渦巻く。
アマンダの代わり、代替え品、そうかもしれない。だが、だけど……
「コレがいいー。」
ルミがネックレスを掴んで、俺に見せた。
「お、決まっ──」
俺は声をつまらせた。
嘘だろ、なんでそんなものが有るんだ。ルミが持っていたのは楕円形の金属質のプレート──認識票だった。
なんでこんなものがある、俺は思わずルミが持つ認識票を引っ手繰るように取り上げて、見つめた。
プレートには文字が書かれている、それを凝視すると
『永遠の愛を誓う』
は、ははは、何だりゃ、あはは、そうだよな。コイツは偽物だ。
よくよく見れば何種類かの認識票が売られていた。書かれている文字も様々だ。
なるほど土産物店とかによくあるあれか。少し胸を撫で下ろした。
「コレをくれ。」
中から1つ選び、露天商に告げた。
「ありがとうね、半銀貨1枚だよ。」
結構高いな。まあいいか。
金を払い、チェーンの長さを調整してから首に掛けてやると、ルミが小躍りして喜んでいる。
「ダイジにするーっ」
俺に抱きついてスリスリするルミを見ると、ただ頬が緩んでしまう。
ちなみにフライの街は辺境伯の武勇が浸透している街であり、強き事が誉れとされる街なんだそうだ。
まあ、辺境を守っている人だからな。グルームもかなり心酔していたし、余程の戦人なんだろう。
それじゃそんな強き事は良き事かな、なんて言っている街の武器屋はどんな武器があるのかと覗いてみた。
一応雷神剣は返してもらった。だがあの時のアリスの様に使えるかは解らない。寧ろアリスに渡した方が戦力は上がるんじゃなかろうか。
うん、やっぱそうだな。ニトロ達には悪いけど、雷神剣はあいつにあげてしまおう。ただそうなると俺の剣がちと問題なんだな。
使い慣れた双剣もかなりガタが来ている。今までは研ぎ直ししたりして、騙し騙し使っていたが、そろそろやばい。
グルームの話しによると、フライの街から少し行くとグランダム王国の国境外となるらしい。そこは中立地帯で何が起こっても不思議ではないとか。
魔獣も強いのがゴロゴロいるし、盗賊やら野盗のアジトも多いとかで、港町への警備はなかなか大変だとか。
それにまた魔族の襲撃も有るかもしれない。アリスを狙うなら、恐らく中立地帯は最も狙いやすい地帯だろう。
それにこの数年、中立地帯の魔力が高まっているとか。界隈では魔王が現れたとか、上位魔族が出没するとかも聞いている。ルミネスのような吸血鬼がゴロゴロでてくるなら、武器をしっかりと治すか、買い換えておくべきだな。
てことで武器屋だ。
店先には樽に置かれた安くて雑多な剣が、人目を寄せる。ぶっちゃけかなり安くて、つい手がでるが、こんな剣じゃちょっと強い魔獣に会ったら一発でオシャカだろう。金のない初心者向けといったところか。
しかし店の中へと脚を向けると、それなりの高価な武器がずらりと並んでいた。
受付には顎鬚を蓄えた、背の低く、それでいてやけに体つきががっしりしている小僧?がいた。いや違うな。背の割に顔が老けて見える。30代、いや40代くらいかな。大体髭面の小僧なんて居るわけがない。
「いらっしゃい。」
低い嗄れ声、まさか。
「なあ、違ってたら済まないが、あんた、ドワーフかい?」
俺が尋ねると、ニンマリ笑ってコクリと頷いた。
「どうした、ドワーフが珍しいか?」
「あ、いや、すまん。田舎者なんでね、ドワーフ族を見たのは初めてなんだ。」
俺が恐縮していうと、ドワーフはにやにや笑って頷いた。
「そっかい、まあ気にすんな。ゆっくり見て気に入った武器があったら買ってってくれ。」
割りとサバサバとした気持ちいい性格なんだな。
「ルミ、ちょっと待っててくれないか。飾ってある武器には触るなよ」
「はーい。」
ルミに言うと、元気に手を上げてコッペルを頭に載せたテケテケと店内を見て回っている。
「ちょっと聞きたいんだけど、ドワーフは、工芸品とか武器を作るのが得意なんだよな?」
前世の知識と、この世界に来てから聞いた逸話を元に少し質問してみることにした。もちろん答えてくれればだが。
「ああ、ここにある武器は全部うちの店の手作り品だぜ。」
「手作りか……あんたが造ったのかい?」
「あんたじゃない。俺の名はランバートだ。造ったのは俺のオヤジだ。俺はまだ若造だからな、俺の銘の付いた品はない。」
なんか手伝ってるだけなのにドヤ顔されたが、それって普通なのか?それに若造というより、オッサンに見えるんだが。
「そっかランバート。ドワーフ製の品なら、安心して命を預けられそうだな。」
「へっへへ、嬉しいことを言ってくれるね。あんた剣士っぽいけど、うちの剣はもちろん安心安全で、切れ味抜群だぜ。」
なるほど。
「そのドワーフを見込んで、聞きたいだ。神の武具、そんな名の武器や防具があると聞いたんだが、知ってるかい?」
ニトロ達に聞きそびれていた武具だ。ドワーフならより詳しく知ってるかと思ったが、どうかと聞いてみた。
「………はぁ?」
ランバートが変に顔を歪ませた。なんか変な聞き方したかな。いきなり機嫌が悪くなった様に見えるんだが。
「あ、いや知らないなら良いんだ。」
もしかしたら知らないのか……ニトロ達だけの伝説なのかもな。
「いや、まて。」
「知ってるのか?」
「……その前に尋ねたいが、目的はなんだ。」
「目的?」
「ああ、神の武具に付いて知って、あんたはどうするつもりなんだ。」
「あ、あ~、そうだな。」
おいおい、使う目的なんて、神の武具ってのは武器や防具だろ、料理に使うわけもないだろ。亜人や魔族を倒すために決まってる。
「だいたいあんた、背に背負ってるのは雷神剣だろ。」
ん、見ただけで解るのか。さすがドワーフだな。
「ああ、よくわかるな。」
「それが神の武具だって知らんのか?」
険しい顔で俺を見つめるランバート。
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