<C12> 鍛冶の神トール
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ドワーフのランバードが怪訝な顔をして俺を見ている。
きっと神の武具を持っている癖に、なんでわざわざ聞いてくると、訝しんでいるのだろう。
「ちっと見せてくれないか。」
ドワーフがカウンターの中から出てきた。俺はまあいいかと剣を降ろして渡した。
「ふむ、本物の雷神剣、神の武具だ。あんたは、こいつを………どうやって手に入れた?」
ドワーフの眼が厳しくなる。どこか怒っているような、疑っているような、猜疑的な、なんとも言えない感情が入り混じっている。
「オーガウォリアーが持っていた。」
「ウォリアーか、何故亜人が……で、そいつは倒したのか?」
「じゃなきゃ死んでる。」
ランバートは俺の言葉に頷き、くしゃっと顔を綻ばせると雷神剣に目を落とした。
「そりゃそうだな。」
「そうだ。」
「こいつはな、遥か昔にうちで造られたもんだ。」
「ほう?」
こりゃ驚いたな。見て直ぐ解るわけだ。
「100年前に祖父が造った。」
「100年前?」
「多分そんくらいだ。」
随分大雑把だな、おい。
「それが50年前に盗まれた。」
「売れたんじゃなくて、か。」
「いや売りもんじゃない。殺傷能力が高すぎるってんで、祖父が倉庫に仕舞っておいたんだ。」
「そうか……んじゃ返そうか?」
俺がというか、俺たちのパーティがオーガウォリアーから奪ったのだから、俺たちのものだと言えばそれまでだが。
なんか祖父の形見みたいな品となれば、ちっと心が痛む。
「返す……だと?」
俺が返すといったら、ランバートが驚いた顔をした。
「いいのか?」
「ああ、もともとはオーガウォリアーが持ってたもんだ。」
「そうか……ちょっと待ってろ。」
ランバートはそう言って店の奥へと引っ込んでいった。
しかしあいつって何歳なんだろな。
ドワーフはどちらかと言うと長命種らしいが、さっきから100年前とか50年前とか、なんか凄い年齢に感じるのだが。
背が低いから──150センチくらいかな、アリスといい勝負だ──どうしても太った子供に見えてしまうが。
待つ間、ルミを相手に剣やその他の武器をみていたが、そうこうしているとランバートが戻ってきた。ドワーフのおっさん、いや髪も髭も真っ白の年寄りを連れて。
「待たせたな。」
ランバートが俺に手を上げていうと、白髪のドワーフが片手に雷神剣をもって近づいてきた。
「あんたがこの雷神剣を取り戻してくれたのか。」
白髪のドワーフが俺の顔をまじまじと見上げた。
「いや、俺だけじゃなく、一緒にオーガウォリアーを倒した仲間が居る。」
「そうかそうか。ありがたいことじゃ。ようやっと父の形見が戻ってきた。感謝するぞ。」
白髪のドワーフは俺の手を握り、ぶんぶんと振る。
なんかめっちゃ感謝されてる……てか、痛てえ、まて、すげー腕力だな、おいぃぃ!痛ってえぇ!
「おお、これは失礼。つい嬉しくて加減を忘れてた。」
慌てて手を離すが、恐らく俺の顔が引き攣っていたのかもしれないな。
ほんとに痛かったぞ。いったい握力いくつ有るんだ?下手な枝ぐらいなら握り潰せるぞ、普通の奴の手なら握り潰されてるところだぞ。
ドワーフが強いのか、このドワーフが異様に強いのか、どっちか知らんがとにかく凄い握力だった。
「ささ、こちらへどうぞ。」
俺は白髪のドワーフ──ランスに店の奥へと招かれ、俺はそこで驚くべき光景を目の当たりにした。
店の奥は鍛冶場と居間となっていた。そう居間だ。畳敷きで囲炉裏があって、掛け軸まであって……まるっきり古風な日本の居間じゃねーか。
「ふぇふぇふぇ、驚いたか。」
ああ驚いたぜ。ランス、お前まさか……
「ちっと色々あってな、まあ、この佇まいが馴染むんだよ。」
なんかさもわけありっぽく顔をニヤつかせる。
まあいきなり転生者か、なんて聴くのもあれだ。とりあえず俺は囲炉裏の前に座った。もちろん座布団というか、なんだこれ。御座か?時代劇とかに出てきそうな、丸い……ああ、イグサってやつか。イグサの座布団か。
そう思うと、この部屋ってのはどことなく古いな。まるで時代劇っぽくもある。
そして出されたのは、紛れも無いお茶。味は判らないが色合いはまさにお茶だ。
一口飲んで見ると、うん、お茶にかなり近い。というかなんでこの世界にお茶が有る。どこかに茶畑でもあるのか。
やっぱこいつ、日本人だろ。
茶を飲んで目を剥く俺を、ランスはニコニコしてみている。
「これは……」
俺は敢えて聞いて見る。
「お茶という飲み物だ、近くにチャ畑を持っていてな。」
「チャ畑、だと?」
「ああ、オヤジが造ったんだ。今では手広くやっておってな、人を雇って栽培してチャの販売もしておる。貴族連中にも結構うけておる。」
鍛冶屋がお茶の販売とかなんか変だが、それってつまり、このドワーフの父親が日本人だったということか。
「それじゃ……この部屋は……」
「もちろんオヤジのデザインじゃ。なんぞ故郷がどうの言ってたな。」
やはり……
「それで……」
「おお、雷神剣はワシのオヤジ、トールが造ったんだ。」
「トール?」
ランスの言葉に俺は首を傾げた。どっかで聞いた名前だな。
「風説に寄れば神の武具を造った鍛冶の神、なんて奉られているよ。」
ああ、思い出した。ニトロが言っていた鍛冶の神だ。てか、おい、ドワーフが鍛冶の神ってことか?
「……余程の名工だったってことか?」
俺が尋ねるとランスがにやりと笑った。
「そうだな、雷の魔法を封じた魔剣、雷神剣やら大地を刳り溶岩を吹き出させる槌矛、全ての魔力を弾き返す魔封じの盾、そんな想像も出来ん魔武具を研究し造っておった。オヤジにずっと付き添っていた儂でも、未だに無理じゃ。」
「なるほどな。」
溶岩を吹き出す槌矛に魔封じの盾か、とんでもねぇな。ランスの口ぶりだと、他にも色々造ってそうだな。
「もっともそれらの武具は、全て盗まれちまったがな。」
「はぁ?」
おいおいい、そんな危険な武器が世に出てるってのか?
て、何故俺にそれを話す。へんなフラグ立ててんじゃねーぞ。
「盗んだのは……魔族だ。」
なに?
「50年前、店が盗賊団に襲われた。父はそんときに殺された。盗賊団は人間だったが、背後に魔族がいたらしい。まあ噂に過ぎんがな。」「盗人は捕まえたのか?」
「ああ、人間は捕らえた……というよりも、全員死んで見つかった。」
「神の武具は?」
ランスは俺への回答に肩をすくめた。非常にわかりやすい回答だ。盗んだ人間は殺され、武具は盗まれたまま、ということか。
「なあどうだ、あんたがもし神の武具を取り戻したら、全てくれてやる。」
はぁ?
「頼む。雷神剣を持つオーガウォリアーを倒せたあんただ。父の創造した武具を全て取り戻してくれないだろうか。」
ガバッときたよ、THE土下座。やっぱお前も日本人だろーっ!
オヤジに教わった?あそですか。
「はぁ……まあいいか、どうせついでだ。」
同じ日本出身者だ、これこそ同郷のよしみってやつだな。
「ついで?」
「ああ、俺は有る目的の為に魔大陸へ向かってる。」
「ノスフェラトゥへだと?」
「あんたの祖父の仇はとれるか判らんし、武具も全部取り返せるとは思えない、だがやるだけやってみるよ。」
「だ、だが、魔大陸へ行くなんざ……」
「もちろん生きて帰れるとは思ってねぇよ。」
もちろん嘘だ。死ぬことはない。だけどどう有るかまでは想像もつかないからな。
「だからまた武具を奪われたら、スマンが諦めてくれ。」
「ノスフェラトゥへいくとは、それはつまり……魔族と戦う気なのか。」
「俺はある大切な人を探している。もし生きているなら、絶対に連れ戻すつもりだ。どこまで出来るか判らんが、俺の身体が、いや精神が消滅するまで、諦めるつもりはない。」
俺はこのとき、また恐ろしげな顔をしてたんだろな。ランスが汗を掻いて見ていたよ。
だが嘘は言ってない。やれるだけの事はする。アマンダが生きているなら、奪い返す。例え肉体が滅びても、何度でも蘇って、必ず。
「そうか、ジュンヤと言ったな、いつ旅立つ。」
ランスに唐突に聞かれてちょっと困った。
あのお姫様の我儘で出発が遅れるわけだが、一応最低5日はこの街に滞在するだろう。
「予定では5日後だ。」
するとランスはコクコクと頷いた。
「それでは4日後の夜、此処に来てくれ。」
「なんでだ?」
「あんたに礼がしたいからじゃ」
ランスはそういってニヤッと笑った。
飯でも奢ってくれるのか?
ドワーフの特製料理ってのも悪くはないが、ありえねぇな。このパターンなら、なんかよさ気な武器でも造ってくれるのかもしれないな。
「わかった。」
4日後を楽しみに待つとしようか。
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