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ドジな女神に不死にされました  作者: 無職の狸
第二章 運がなかった私は皇女になったけど、戦闘系で行きますっ
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<K26> エリーザに包まれて

アリス編(第二章)最終話です。


※ 4/23 ジュンヤ編(第一章)とアリス編(第二章)を再構成しています


††


「ぎゃあぁっぁあぁぁぁぁぁぁああああああ」


 公爵令嬢とも在ろうものが見っともない声を張り上げて、とは言わないであげて欲しい。


 廊下を這いずってくる、片手で両脚が無い血塗れの男なんて、どう見てもホラーでしょ。


 都市伝説でなんかそんなのが有ったかもしれないが、忘れた。そんな冷静じゃいられないって。


 私だって心臓を鷲掴みにされて、小さな悲鳴を上げましたよ。


 それにシチュエーション最悪。


 まだ夕方なのに黒雲が空を覆って、雨は土砂降りを超えてゲリラ雷雨状態。


 そんな状況で稲光と共に姿を見せるとか、マジモンのホラーですよ。


 しかもあの野郎、血が目に入ったのかも知れないけど、真っ赤な目で私を睨みつけてるし。


「ザック、何しに来たっ!」


 私は勇気を振り絞って怒鳴りつけた。


 本来なら重篤な怪我人何だから、抱き上げてベッドに連れて行くとかがベストなのだろうが、こいつにはそんな気は起きない。

 

 ここで叩き切ってやりたくなる。残念ながら校舎内においては、武器の所持や帯剣は禁止されている。せいぜい身を守るための小型のナイフ程度だ。

 

 しかし侍女達が持つのは禁止されては居ない。基本的に彼女達は主人を守るのが仕事だ。だからこそ許されている。


 マリアも同じく常に帯剣している。マリアの武器はショートソードより小ぶりの武器だ。


 這いずるザックは、それだけ見れば不気味なだけだ。だがそれがまるで危険であるかのように、マリアは剣を構え睨みつけている。


 それは当然だろう。奴の身体から発せられるどす黒い闘気、何よりもこの禍々しさはなんだ。たとえ相手が重篤な状態であろうと、決して油断など出来るわけがない。


「ありぃぃぃいすううう、ぎゃはははははぁぁぁ、貴様、きさまぁぁぁ、ころしてやるぅぅぅ。」


 ザックは怨嗟の声を上げ、霧の様に迸る黒き闘気を巻き上げながら浮かび上がった。


「ひぃぎゃあぁぁぁ、浮かんだ、浮いたぁぁぁ」


 だから貴女たちは一応公女なんだから、ね?いや私もね、はい、ちょっとチビリそうになりましたよ。


 2人は腰が抜けた様にその場にへたり込んでしまった。そして彼女たちの声に、生徒たちが集まってくる。


 途端に生徒達の絶叫とも悲鳴ともつかない声が前後で響き渡り、稲光の中でザックが血を垂らしながらニタリと笑う。


「ザック、その黒き闘気はなんだ?」


 私はザックを睨みつけ、静かにいう。


 称号のせいなのか?

 

 【勇者】の称号が奴の憎悪で変質しているのか。

 

「このバケモノっ!」


 マリアが跳んだ。


 剣を振りかぶり、ザックに向けて振り下ろす。だがマリアの剣が届くことは無かった。


 ザックは腕を一振りした。失ったはずの右腕で。


「ぎゃぁっ!」


 マリアが廊下の壁に叩きつけられ転がった。


「マリアッ!」


 私は動いた。


 武器は小型のナイフしかない、しかしそれでも勝つ自信はあった。あいつがザックなら……


 身体強化術で身体を強化し、ナイフに魔力を注ぎこむと、跳躍し思い切り振りかぶる。


 だが奴は私の初撃を躱した。有るはずのない脚を使い、私の背後に回った。


 有り得ない。


 腕も脚も、無いはずのものが生えていた。浮かび上がりながら避けてくれた方がまだ現実的?だ。


 私の背後を取ったザックの黒い腕がうなりを上げ、私に向かう。


「ちぃっ!」


 すぐさま避けようとするが、僅かに遅かった。斬撃の音が空気を斬り裂き、奴の爪が私の背中を斬り裂いた。


「ぎゃぁ!」


 激痛に声が漏れた。焼ける様な痛み、そして衝撃が襲い、私は飛ばされた。


「アリス様っ!」


 転がったマリアが立ち上がろうとした。しかし支えがなく、そのまま転がり床に蹲ってしまった。


 背中の激痛に苛まれながら私は見た。マリアの利き腕から血が溢れていた。マリアの右腕が無かった。


「マリアァァ!」


 激痛も忘れ私は叫ぶ。マリアの腕が、マリアが!


 それでもマリアは腕が無いことなど気にもせず、残った腕で転がった剣を握りしめて立ち上がる。


「ゲギャギャギャギャギャギャッ!」


 この世のものとも思えない笑い声が響いた。


 怪物の様な顔に変貌したザックが、私を見下ろしている。


「アリス様!」


 マリアが走り寄った。


 剣が振られるが、金属質の音が響いて止められた。ザックの黒い腕の先に、禍々しい爪が生え、それがマリアの剣を止めたのだ。


 すぐにそれを察したマリアが、感情のない顔で剣を引き、更に剣戟を向けた。


「糞が、糞煩い毟がぁぁ。ギャァッハハハハハッ」


 歪んだ笑い、そしてまた血飛沫が廊下に舞い上がった。


 マリアが斬撃を受け床に転がった。奴の鋭い爪を受け、胸を斬られたのか、夥しい血が床を染め、口から血を吐き、びくびくと身体を震わせていた。

 

「ま、マリア、まりぁあぁぁ!」


 私は這いつくばり、立ち上がってマリアの傍に走り寄った。


「あ、、りす、さま、、」


 口から血を吐きながら、虚ろな目で私を見るマリア。


 黒い傷が肩から胸を斬り裂いていた。


「酷い……」


 直ぐにでも治療が必要な重篤だ。


 私は歯を噛み締め、ザックを睨みつけた。


 背中の傷が痛むが、これしきの傷など直ぐに治る、私のスキル超速再生ならすぐに……


 治らなかった。


 いつまで経っても傷が塞がる気配がない。血が流れ続けている。


──馬鹿な、超速再生が効かない。


 目眩いがした。


 理由は解らない、確かな事は奴から受けた傷が塞がらないことだ。血が止まらず、徐々に力が抜けていく。

 

 このままではまずい。どうする。

 

「アリスぅ、さぁぁぁてぇ、どうしようかぁぁ?まずは貴様からかぁ?それともそっちの女どもからかぁ?」

 

 不気味な歪んだ笑みを湛え、ザックの真っ赤な目が床でへたり込んでいる公女たちへと向かう。

 

「俺の復活を記念して、犯してから殺してやるぜぇぇ!」


 不気味なモノが奴の股間から直立した。大人の腕ほどもありそうなモノ。それが歪な形をした先端から体液を滴らせながら蠢いていた。


「ひぃっひっひっひ、コイツで串刺しにしてやるぜぇぇ!」


 奴が一歩踏み出した。


 公爵令嬢達は、恐怖のあまり立ち上がることも出来ないようだ。床が濡れそぼリ湯気を上げている。


「させるかぁぁぁ!」


 私は疾走った。


 奴はザックなのか、あの腕や脚はなんなのか、人間じゃない。怪物だ。


 奴と戦って、今の私に勝機はあるのか。いやまだまだ勝てる。さっきは奴の動きに油断しただけだ。


 血が足りない、頭がくらくらする。


 それがどうした、奴を倒さなければならない。あのとき止めを指していれば、そうだ、マリアが傷ついたのは私のせいだ。


 背中の痛みを痛覚遮断ペインオフし、身体強化を最大限に掛け、怪物となったザックに踊りこんだ。


「ぎゃはははあはは、待ちきれねぇかぁぁ!!」


 奴が振り向き腕を横薙ぎにした。


 ナイフでそれを受ける、だが奴の膂力に圧された。馬鹿な。試合で奴の膂力は知っている。いくら小型のナイフとはいえ、私の魔力を込めたナイフなら、十分に受け止め、剰え断ち切れるははずなのに。


「弱すぎるぜぇぇぇ、アリスぅうう!」


 奴の笑い声の中、私の体が飛ばされた。だがまだだ。

 

 吹き飛ばされたところで、床に手をつき弾いて一回転し、着地とともに奴を見た。


「クハァァァァァァァァッ!」


 奴のオドロオドロしい声が真上から零れ落ちてきた。


「おめえの両手両足をもいで、達磨にして犯し尽くしてやるぜぇ」


 湾曲し、耳まで裂けた、まるでこの世のものではない、奇怪な顔があった。そして奴の爪が、まるでスローモーションの様に迫ってくる。


 反射的に身体をうごかそうとするが、間に合わない。


 やられた、そう思った瞬間、私の身体を何かが覆った。そして温かい液体が私の身体を濡らす。

 

「アリス……様」


 エリーザの顔が私に重なった。


「なんだぁ?」


 ザックは不服そうに私を見つめている。


 私はエリーザに庇われた。そしてエリーザは。


 私に覆いかぶさったエリーザは……


「逃げて……下さい……」



 胸から下が無かった。


††

4/23

 当初ジュンヤ編(第一章)とアリス編(第二章)が混在し、わかりにくく有りましたのを、章分けをして並び替えを行いました。

 小説家になろうの機能に、投稿済み文書の並び替えが無いため、一度アリス編を全削除したうえで、再投稿しなおしました。このため一時的にアリス編が見れないという事がおきてしまい、皆様にはご迷惑をお掛けしたことをお詫びします。



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