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ドジな女神に不死にされました  作者: 無職の狸
第二章 運がなかった私は皇女になったけど、戦闘系で行きますっ
65/109

<K25> ホラーですか?

ちょっと……夜一人で読むと怖いかも?


※ 4/23 ジュンヤ編(第一章)とアリス編(第二章)を再構成しています


††


 雲ひとつ無かった空は、にわかに曇り始め、夕方過ぎには一面を黒雲が覆ってしまった。


 大粒の雨が降り始め、まだ途中だった魔術の試合は中止された。


 観戦に来ていた貴族達は、子供の晴れ姿を見れずに残念そうに帰宅していく。遠方からきている貴族は客間で一泊することになっているが、殆どの者が明日には帰宅しなければならないものばかりだ。



 治癒室の前。


「あの様な痴れ者は、当家の関係者ではない。縁を切る。」


 治癒室の前では、貴族風の中年の男女が怒鳴り合っていた。一人はザックの父ウルフスタン子爵、一人は年老いた侍女のようである。

 

「しかし、まだザック坊ちゃまが目覚めておりませんが……」


 年老いた侍女が狼狽えながら言うが、子爵の憤慨は止まらない。

 

「黙れ、あやつに構うな。私が自らこの手で殺してやりたいわ。いいか、下手をすれば我が家の家督もこれまでとなるかも知れぬのだ。早く領地に戻って準備をするぞ。」


 言い放つと子爵は踵を返し、廊下を早足で去っていった。年老いた侍女もオロオロとしていたが、直ぐに子爵の後をおって小走りに去っていった。




 少しして突然治癒室から絶叫が漏れた。


「ギャガァァァァッ」


 この世のものとも思えぬ叫び声を発するその主は、ベッドの上にいた。


 両足は無く、片手も無く、体中に包帯を巻いた、まるでダルマのような状態のザックが、睡眠魔法が切れたのか、痛みで起きてしまったのか。


 明かりも無く、誰も居ない治癒室のベッドの上で、狂ったようにのたうちまわっていた。


 無くなった腕を掻きむしり、腰の包帯を剥がし、脚も性器も睾丸も無くなった下半身を掻き毟っている。


 しかし驚いた事に、ザックの手や脚が少し再生していた。再生スキル、それもランクの上の超速再生を持っているのだろうか。断ち切られた腕の傷跡にうっすらとピンク色の肉が盛り上がり、骨が伸びてきている。


 しかしそのまだ完全に再生しきっていない皮膚を掻き毟るものだから、傷口が開き血が溢れ出ていた。ザックはそれを構わず、狂乱したかのように叫びのた打ち回っていた。


「ゆるさねぇぇぇぇ!あの売女ぁぁ、糞牝犬がぁ、絶対、絶対許さねぇぇ。」


 体中を掻き毟り血を溢れさせながら、ザックはのたうち、転がり、ついにベッドから落ちた。


 グチャッ


 何かが潰れた様な音が響き、床に血が広がっていく。

 

「ぢぐじょおおおぉぉぉ、殺してやる、殺してやるぅぅ、アリスぅ、貴様を絶対に殺してやるぅぅぅ!」


 床に血の跡を付けて這うザック。やがてドアに辿り着き、扉を爪でガリガリと掻き毟り、開け放った。

 

「ぜったぃぃぃ、ころぉぉおぉす」


 生まれて初めて惜敗を舐め、無残な身体にされたことへの怒りか、憎悪か、ザックの身体から闘気が放たれていた。


 だがその闘気は黒く、禍々しささえ窺えた。


「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」


 黒き怨念の様な闘気を発しながら、ザックは廊下をズルズルと這っていく。


 その声を聞きつけたのか、治癒師が小走りにやってきた。


「な、なにごと……ひ、ひぃぃぃ!!!」


 凄惨な姿を見た治癒師が驚き立ち止まり声を詰まらせる。しかしそれはすぐに悲鳴に代わる。


 ザシュッ!!


 窓から漏れる雷光の中で、治癒師の身体が床に倒れこみ、真っ赤な血の花を咲かせた。



◇◇



 校舎内食堂の一角に設けられたカフェテリア

 

「嫌な日ですね。」


 公爵令嬢ベルティユが赤い巻き毛ロールをフリフリして、窓に打ち付ける雨を眉を顰めて見ていた。

 

「そうですねぇ、急に大雨になるなんて。」


 同じく公爵令嬢リリアーヌが頷いた。


 その傍らにはアリスが物思いにふけっている。


 魔闘大会の武器術で優勝がきまり、本来なら練武場にて祝賀会をするのだが、それもこの雨で無しになってしまった。


 原因の一つはアリスがやり過ぎたこと。皇族への無礼な振る舞いもあり、致し方なしとはなったが、血塗れとなった会場の清掃や、直後に降ってきた雨もあり、祝賀会は明日以降に流れてしまった。


 アリスの父ヴィクリーヌ=アマディス2世にしても、明日まで政務から離れる事もできず、残念そうに城へと戻っていった。


 それが残念だったのか、それともやはり人を初めて傷つけた事が気になっているのか、アリスは少々落ち込んで居るように見えた。

 

「アリス様、まだ試合の事をお気にしてらっしゃるのですか?」


 リリアーヌが尋ねると、アリスはハッとしたように顔を振った。

 

「大丈夫です。もう忘れましたから。」


 嘘だった。


 やはりまだ気にしている。怒りからザックの片手と両足を奪ったこと。奴が再生スキルを持っていなければ、自分はザックの人生を奪ったことになる。


 殺しこそしなかったが、ザックはこれから半身不随で一生を過ごすのだ。


 いやあれで良かったのか。


 あいつが普通に動けたら、多くの人が悲しむだろう。悲劇が繰り返されるだろう。しかも【勇者】の称号など持っているのだ。下手をすれば国が傾きかねない。


 数十数百どころではない、数万数十万の悲劇が生まれるかもしれないのだ。


 あれで良かったのだ。


 アリスはそう思うことにした。そしてザックが再生を持っていないことを祈った。奴が再生で復活したなら、自分は再び奴の身体を破壊するか、いや今度こそ奴を殺すだろう。


 国家安寧のためにも、生かしておいては行けない。


「そろそろゆきましょうか。」


 リリアーヌとベルティユを促して立ち上がるアリス。


 2人はコクリと頷き、アリスの後に付き従っていく。


 カフェテリアをでると廊下は薄暗かった。まるで夜のように暗く、仄かな灯りが点っている。

 

「まるで夜のようですね。」

「雨雲が厚いせいですわ。」


 窓から外を見ると、黒雲が空を埋めている。


 激しい濁流のような雨脚に伴い、稲光が光っていた。時折悲鳴が聞こえてくるのは、稲光と落雷の音のせいだろうか。

 

「こんなひどい雨、これでは明日の魔術試合も無理かもし………」


 ベルティユが窓の外をみると、空一面を覆う様な稲妻が横に疾走った。


 大地を引き裂くような、とてつもない音が辺りに響く。


「きゃーーっ、」

「ぎゃぁぁぁぁぁ!」


 寄宿舎の中から悲鳴が聞こえてきた。


 ベルティユも堪らずリリアーヌに抱きつき、2人で震えている。


 アリスは凄まじい雷鳴を気にもとめず、窓の外で荒れ狂う雷を見て、ふとあの女神を思いだした。


 あの馬鹿の為になんでこんな苦労をするのか。全く迷惑な話だと、嘆息した時だ。


「あ………りぃぃぃ………」


 掠れた様な低くオドロオドロしい声が聞こえた。


「ん……?」


 しかしアリスは聞き逃さなかった。薄暗い廊下から聞こえる声を。

「……今なにか………」

「雷です、雷が落ちたのですぅぅ!」


 ベルティユとリリアーヌはアリスの言葉を意に介さず、抱き合って震えている。

 

「違う。それじゃない。」


 アリスが否定する。雷の音などではない。なにか、悍ましい物の声だ。

 

 ベチャ、ズ、ズズズ、ビチャッ、ズズ、ズ……

 

「あぁぁぁぁ…ぃぃぃ……ううう」


 なにか這いずる様な音、そして恨めしげな声、地の底から響くような声が暗い廊下の向こうから聞こえてきた。


「何者だ。」


 アリスはとっさに小さなナイフを取り出して構えた。


 そして何処に隠れていたのか、異変を察知したマリアがアリスの前に姿を現す。


 ビチャッ、ズズズ、ベチャッ、ズズズッ


 不気味な音に気づいたのか、公爵令嬢達も抱き合いながら、薄暗い廊下の先を見つめた。


 ピシャッ!!ガラガラガラガラガラッ


 再び雷が落ち、雷鳴を響かせ雷光が廊下を照らした。


「ひ、ひぃぃぃぃぃ!」


 公爵令嬢が背を震わせ、固く抱き合って悲鳴を上げる。


 雷光に照らされた廊下には、片腕で這いずる血塗れのザックが、目を爛々とさせていた。


「あぁぁりぃすぅぅぅぅぅ、ころしてやるぅぅ、ころしてやるぞぉぉぉ」


 怨嗟の声が響いた。


††

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