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ドジな女神に不死にされました  作者: 無職の狸
第二章 運がなかった私は皇女になったけど、戦闘系で行きますっ
63/109

<K23> 負けたら奴隷になろう

掃除が大変そうですね……


※ 4/23 ジュンヤ編(第一章)とアリス編(第二章)を再構成しています


††


 私は目を見開き、ザックを睨みつけた。


 貴様いま、なんと云ったぁ!


「女神……だと?」

「ああ、ん~、皇女様にゃかんけーねーよ。それよか約束だぜ?」

「いや、約束は変更じゃ。」

「なにビビってんだよ?最初は優しくしてやるぜぇ?」


 どこまで行ってもこいつはゲスだな。


「いや、妾が負けたら其方の好きにせい、なんなら其方の奴隷になってやろう。」


 私は剣を掲げ、声を大にして告げた。それがコイツを無事には練武場から降ろさないという、自分への宣言でもあった。


「おほ~~、いうねぇぇ。」


 ザックは顔を醜く歪めて、舌をだして唇を舐めた。


「アリス様っいけませんっ!」


 途端にエリーザの絶叫が聞こえた。うわってあそこまで聞こえてしまったか。


 既にその傍らではマリアが今にも飛び込んできて、ザックを殺しそうだ。お父様も眉間にシワを寄せてらっしゃる。隣でお母様もオロオロしている。


 やばい、すいません、ごめんなさい、お父様、お母様。でもどうしてもはっきりさせたいの、絶対負けないから、許してください。


「だが妾が勝ったら──女神とやらの事、全て話してもらおう。」


 私は少し声を低めにしていった。私が出した条件にザックは怪訝な顔をする。だが直ぐにまた厭らしい顔で私を見つめた。

 

「はぁ?そんなことでいいのかよぉ、いいぜ、話してやるよ。」


 条件は決まった。




 センセが合図を出した。

 

 私は剣をだらりと下げて、ただ睨みつけている。

 

「あれぇ、もう負け宣言かい?よっぽど俺に抱かれてぇのかぁ?」


 ザックがにたにた笑いを顔に貼り付け、両手剣を地面と水平に構える。

 

 そのまま突くか、横薙ぎにするか、上段に構え直すか、下段に構え直すか。

 

「さっきみたいに縮地でも使うつもりか~い?」


 ザックが笑う。

 

 こいつ縮地を知っているか。とすれば使えるということか。こんな時は鑑定眼が欲しい。

 

 努力でスキルを手に入れたか、それとも【陽炎】の称号を手に入れたのか。もしや【剣聖】もか?

 

 だが、私のように【天臨王】を持っていなければ、普通の人間には不可能なはず。

 

 ちがう、考えを改めろ。此奴は女神と会っているかも知れぬのだ。つまり彼奴は転生者。どのような称号を与えられたかも知れぬ。


「このまま俺が縮地を使ってもいいんだぜぇ?」


 何故縮地を持っている事を言うのか。云わなければ勝負は決まっていたかも知れぬのに。

 

 奴はここまで圧倒的な膂力と剣技で勝ち進んできた。しかし奴の武器はそれだけではない、ということか。

 

「来ないならいっくぜぇぇ。」


 奴が目を見開く。

 

 途端に奴の姿がぶれる。そして背後に気配。

 

「もらったあぁぁ」


 上段に構えた奴が、私の背後から斬りかかる。


 ガキーンッ!

 

 激しい金属音。奴が私の頭部に斬りつけ、私はそれを剣で受けた。

「てめぇ、予見をもっているのかっ!」


 ちっと舌打ちをして、直ぐにバックステップで跳ぶザック。はっきりした、奴は【陽炎】を持っている。


「ザック、貴様は今、妾に殺意をもって斬りつけたなっ!」


 私は奴に対して怒鳴りつけた。

 

「は?練武場にあって、殺意なんてあろうがなかろうが関係ないだろう?」

「その刃引き剣で頭頂部を撃ち、防具を通して頭蓋骨を砕く。其方の膂力であれば可能であろう。」

「だとしたら、どうした。」

「何のことは無い。これで妾も遠慮なく其方の命を刈り取りにゆける、というものだ。」


 私は残忍な笑みを浮かべていたのだろう。


 ザックは後退った。瞬間、私は奴を縮地で追いかける。


 直ぐに振りかぶった両手剣が向かってくるが、あっさりと弾き、懐に入る。だがそれを読んでいたかのように、横に避ける。


 ザックが【陽炎】を持つのははっきりした。恐らく【剣聖】ももっていると思っていいだろう。


 だがそれは私も同じ、奴の動きは読んでいる。すぐさま縮地で追い、再び奴の両手剣を弾く。

 

 あとはどちらがレベルが高いか、どちらが使いこなしているか。

 

 重い剣が弾かれる。私の長剣と比較すると、攻撃に廻るにはどうしてもタイムラグが生じる。ほんの僅かの時間差だが、それで十分だ。

 

 そもそもこの学園で習ってきた神光流剣法では、両手剣は推奨されていない。瞬速の踏み込みと瞬速の斬撃を良しとする剣は、剣も軽さが重要視される。


 風のように振り、風の様に切る、それが神光流の真骨頂。ザックは両手剣を選んだ時点で正当流は放棄している。


 後は手の内の読み合いだ。


 練武場を走り剣を弾き、剣を避ける。


 奴は私の攻撃に翻弄され、思い切った攻め手を出せないでいる。


 実力はほぼ同等か。恐らく剣術も回避も、その他のスキルも同等といったところか。やはりなにか称号を持っているとしか思えない。


 【天臨王】に対して互角に戦える称号、なんだろうか。まあいい、私は負ける気はしない、あとでじっくりと教えてもらうことにしよう。


 私とザックには僅かなレベル差と、そして純粋な身体能力の差がある。


 だが私とザックには決定的な差があった。


 戦闘経験。


 私には学園に入る前の三年間、私以上に強い騎士との、豊富な戦闘経験がある。


 剣を弾き、私はにやりと笑みを浮かべてザックを見た。

 汗をかき、焦りの色が見えているザックが、ビクッと顔を引き攣らせる。


 恐らくクリフ君の実力を見て、学園No.1の剣使いである、私の実力を推し量ったのだろう。


 甘いね、私は普段は実力の殆どを出していないのだから。クリフ君との稽古だって、遊び程度に付き合ってるだけだから。うん、それだけ。


「この糞アマァァ!」


 ザックが切れた。


 それとも勝ちを焦ったか。


 いや私に笑われたからか。


 ザックが無理な姿勢から、強引に両手剣を振る。


「はぁぁぁっ!」


 私は地面を蹴り上げ跳躍した。此処に来て初めて見せる跳躍、奴の身長すら飛び越える跳躍力を見せた。まあ楽勝何だけど。


 ザックは驚いた顔をし、私の姿を目で追う。すぐさま剣を戻そうとするが、反応そのものはいいが、悪いが反応速度が僅かに遅い。


 私は宙で身体を捻り、防具がない顔面を拳で強打する。


「がぁっ!」


 鼻が潰れ血を吹き出して仰け反るザックを確認し、奴の背後に着地して屈みこむ。


 瞬間に剣を突き出し、奴の太ももを突き刺した。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ」


 ザックの悲鳴が迸り、会場が騒然となった。


 正面には強固で堅牢な防具が付いているとはいえ、背面にはついていない。本来騎士とは正面から堂々と殺り合うもの。だから背面を守る防具は少ない。せいぜい背中と頭位だ。

 

 試合用の防具も然り、特に脚は裏側には何も付いていない。

 

 刃引きしてある私の長剣は、あっさりとザックの右足を貫いた。途端に大量の血が流れ出し、練武場が染まっていく。動脈でも切れたかな。格闘を扱った専門書(マンガ)によると動脈を切断すると、10分くらいで意識不明になるらしい。


 会場のあちらこちらから悲鳴が聞こえ、ざわめいた。悪いねごめんね、血を見せちゃった。でも反則じゃないからね。


「き、きさまぁぁぁぁぁあ!」


 呪いの声が聞こえた。


 ザックも執念なのか、両手剣が私に向けられる。しかし遅い。動きが遅すぎる。

 

 私は右足を引き裂くように剣を上げると、奴の右腕を防具もろともに叩き斬った。

 

 刃引きして有る剣であっても、私が剣に魔力を流し込み、本気で斬れば大木程度なら切り倒すことができる。太ももを貫き、防具ごと腕を叩ききるなら、造作も無いことだ。今までは遠慮してたのだが、貴様には一切の遠慮はしない。

 


「みたかザック、これが妾の実力じゃ。」

「あ、が、あああああああああ」


 両手剣と共に右腕が床に落ちて、血しぶきを舞い上げながら跳ねる。


 私の身体にも奴の血が掛かり、防具を染めていった。


 血の海となった練武場に倒れこみ、のたうち回るザックを私は、涼やかな目で見下ろしていた。

 

 私は初めて人を斬った。それも故意に。だが何の感慨も、後悔もない。


 生徒の右脚と右腕を斬り落とした。これは学園での試合だというのに、明らかにやり過ぎだ。

 

 だが決して後悔はしていない。信じたくはないが、私の推測が正しければ、ザックはアイツなのだから。


††

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