<K21> ザックとクリフとアリス
三者三様というのでしょうか?
※ 4/23 ジュンヤ編(第一章)とアリス編(第二章)を再構成しています
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試合は順当に進んでいく。
第2練武場に視線を向けると、次はクリフ君の順番だ。
きっと順当にクリフが勝ち上がるはず、私はそう予想していた。
しかし────
「はぁっはっはっはっはっはっ、待ちかねたぜぇクリフよぉ!」
そいつは練武場で高笑いした。
クリフ君の対戦相手、ウルフスタン子爵の嫡子ザック。
12歳にして身長170センチを超える巨漢だ。かと言って太っているわけではないが、まるで大人のような体つきをしている。
嫌悪感が込上げてくる。この場で飛び出し、私が奴を打ちのめしてやりたい衝動を抑えこんだ。
「ザック、貴様の噂は耳に挟んでいる。ここで貴様の性根を叩きなおしてくれる。」
やはりクリフ君の耳にも届いていたのか、彼は鋭い目つきでザックを睨みつけた。
「へへへ、こりゃまた大公様のご子息だぁ、正義感があるねえ。だけどいいのかぁ?遠慮はしないぜ、なんせ皇女様が身分に関係なく、全力で戦う事を許可してくれてるからなぁ。」
金色の髪をかき上げ、顔を歪ませ笑みを浮かべるザック。
「望むとろこ、我が全力で貴様を叩き潰す。」
クリフ君が闘気を放ち両手に剣を構えると、ザックも両手剣を構えた。
「せいぜい気張りな?遊んでやるからよぉ!」
奴の憎々しい言葉にセンセも眉間に皺を寄せ、早々に試合を開始した。
「はじめっ!」
クリフ君が素早く奔り攻める。
両手に左手の剣がザックの両手剣を跳ね上げ、隙をつくったところを右手の剣が斬りつける。
しかしザックはその大柄の身体からは、信じられない程に軽やかに動いた。
バックステップからの横薙ぎ、さらに袈裟懸けにと自在に両手剣を操り、クリフ君を翻弄する。
しかしクリフ君も負けては居ない。両手剣の剣戟の合間をぬって攻め立てた。
だがザックは次々に繰り出されるクリフ君の剣戟を躱し、さらに両手剣を片手にもって、ショートソードでも使っているかのように攻めてくる。
早い斬撃を受け止めるクリフ君、その都度顔が歪んだ。
「ほらどうしたどうしたぁ、大公様ぁ?こちらへおいでよ、アンヨは上手かなぁ?」
クリフ君を愚弄する言葉を吐き、嘲笑い、クリフ君を翻弄した。
クリフ君がバランスを崩したところを、ザックは上段から打ち下ろす。クリフ君は重い斬撃を、剣をクロスさせて受け止めた。
ぎりぎりと剣が噛みあう音を発し、ザックは嘲笑う様にクリフ君を見下ろす。
「へっっへっへ、悪いけどよ、俺があのお転婆皇女を頂いてやるから、安心しな?」
「な、なにっ!」
「あの女を組み敷いて、ひぃひぃ鳴かせてやるって言ってんだよ、アイツはどんな鳴き声を出すか楽しみだぜ!ぎゃははははっ!」
ザックの暴言にクリフ君の心が揺れた。そして信じられない事が起きた。
クリフ君を突き放したザックは、両手剣を両手で握ると、ツェザーリ君以上の膂力で振り回し、クリフ君を吹き飛ばしたのだ。
「うそっ。」
私は思わず声を上げた。
凄まじい膂力から繰り出された両手剣、空気を切り裂き、斬りこんだクリフ君に向かったのだ。
クリフ君は辛うじて2本の剣で受け止めたが、奴の両手剣を停めることができず、剣もろとも弾き飛ばされてしまったのだ。
「うわぁぁっ!」
弾き飛ばされた剣が練武場に転がり、クリフ君は床に転がった。
「はっはっはっはっ、だらしねぇなぁ。上級貴族クラスのNo.2というからもっとやるかと思ったが、大したこたぁねえな。クリフさまぁあ?」
ザックの傲岸不遜な態度にクリフ君はぎりっと歯を噛み鳴らし、両手剣を肩にのせてニヤつくザックを睨みつけた。
「ほれほれ、待っててやるからよ~~、とっとと剣をとりな。」
ニヤニヤと笑うザックを睨みつけ、クリフ君は剣を取り構えた。
ザックは強い、確かに強いと認める。だが──
奴の言う通り、私は今回の試合は、身分は関係がないと告げた。だが貴族として、騎士として品性も嗜みも無いザックに、腸が煮えくり返る思いだった。いやもう我慢できない。
私はゆらりと立ち上がり、腰の得物に手をかけた。
「そこまでだ。」
センセが2人の間に割って入った。ちょセンセ、なんで止めるの。クリフ君まだ戦えるのに。
「先生!俺はまだっ!」
クリフ君も食って掛かった。確かに怪我をしたわけじゃない。
センセは何故停めるのか。停める意味が解らない。
「この試合、クリフ様の負けです。」
センセはクリフ君へ視線を向け、毅然とした態度で言葉を放つ。
「何故です!私は傷ついておりません。」
「はい、ですが仮にこの場が戦場であれば、剣を離し地に這った所で、貴方は止めを刺されていたでしょう。」
センセが言うとクリフ君は何かを言い返そうとするけど、二の句が出ないのか、顔を伏せた。
確かにそうだけど、納得出来ない。いや納得したくない。
「ざ~んねん、もうちょっと甚振ってやりたかったのになぁ。」
ザックは悪びれた様子もなく、ゲラゲラと笑っている。あああ、ムカつく。
「ザック様、言葉をお改め下さい。試合は終わっています。これ以上はクリフ様は大公のご子息、言葉遣い一つ貴方の首が跳びますことをお忘れなく。」
センセがザックへと顔を向けて、それもかなり厳しい顔つきで告げた。先程からの振る舞いに、相当頭に来ているようだ。
「へーへー、わかりましたよ、せ・ん・せ」
ぐぬぬぬぬ、この場で強権発動して~~お父様の手前では難しいか。でもムカつく、まじで殺してやりたい。
でも、センセが止めたのは、正直に見れば正しかったと思う。
クリフ君は剣を飛ばされ地面に這いつくばり、剰え罵声で頭に血が登っていた。
クリフ君には悪いけど、ザックは強い。クリフ君との実力差を考えれば、正解だったかもしれない。
あのまま続いたら、本当に嬲られていたかも知れないのだから。
実力は認める。でも、ザック。
貴様は私が──ぶっ飛ばす。
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