東欧からの転校生
盆休み中に一作書けるかチャレンジ開始。
17日までに完結させられたら自分に勝ったと言う事で、皆様は新作を楽しんでいただければとても嬉しいです。
――というわけで、今日からクラスの仲間になるアレクサンドラさんだ。みんな、仲良くしてやってくれ」
担任の冴えない声とともに、ざわめいていた教室がふっと静まり返った。
窓際の自分の席で、僕、結城奏は数学の教科書から目を離し、前方に視線を向けた。
教壇に立つのは、背筋をピンと伸ばした一人の少女。
透き通るような銀髪に、ガラス細工のように冷たいサファイア色の瞳。整いすぎたその顔立ちは、日本の高校の制服さえもどこかヨーロッパの高級な制服のように錯覚させる。
彼女の名前はアレクサンドラ。
東欧の歴史ある公国にして、旧ソ連の崩壊や大国間の思惑の狭間で一度は滅びかけ、近年になってようやく独立を果たした「ポーンランド」の王位継承権を持つ公女だという。
国の立場を強固にするための「留学外交」の一環として、この日本の普通の高校にやってきたらしい。
「……アレクサンドラです。余計な干渉は求めていません」
流暢な日本語ではあったが、棘のある冷え切った声音だった。クラスの男子たちがその美しさに息を呑む一方で、彼女の纏う圧倒的な「近寄りがたさ」に誰もが気圧されている。
担任が困ったような笑みを浮かべながら「じゃあ、席は……奏、空いてるか。そこの一番後ろ、窓際の席へどうぞ」と指示を出した。
――よりによって、僕の隣か。
内心で小さく息をつきながら、俺は再び手元の数学の予習に戻った。
特別に目立ちたくない。学年で一応上位五位以内をキープしてはいるが、それはただ無駄な波風を立てずに静かに高校生活を終えたいためだ。前髪を少し長めに伸ばして目元を隠しているのも、周囲の視線から身を隠すための防壁なだけ。
コツ、コツ、と硬質な足音が近づいてくる。
隣の席に座ったアレクサンドラは、座るやいなや周囲を一切無視して、真っ直ぐ前を見据えたままピタリと動きを止めた。その横顔からは、一瞬たりとも隙を見せないという強烈な緊張感が漂っている。
(……大変だな、あの子も)
一国の未来や大国の思惑を背負って、こんな極東の島国まで「外交」の駒として放り込まれている。彼女が常に氷のような塩対応で周囲を拒絶しているのは、お高くとまっているわけではなく、そうしなければ保てないほどの重圧と孤独の裏返しなのだろう。
そんなことをぼんやりと考えながら、僕は授業のチャイムが鳴るのを待った。
お読みいただきありがとうございました。
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