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雨上がりの空で、傘をさす。  作者: つな△まよ
三章:羽ばたきの峡谷
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第十三話:信じるのは、(前)


《フアン視点》


ビエント峡谷の空でうごめく黒い大群。

遠くでは雷が鳴り、風も轟々と鋭い音を立てている。


鳥人族の大人とネナさんたちが必死に食い止めているが、こんなのはただの消耗戦だ。

このまま続けても……勝機はない。


「ネナさんも、ほかの大人たちも、動きが鈍くなってきてる。

このままじゃ——負ける」


僕の言葉に、二人が息を呑んだ。

ただ魔物たちを斬るだけじゃダメだ。

この群れを封じる、他の方法を見つけ出さないと——



「!」

ネナさんが、体勢を崩した。



まずい!

すぐに立て直したけど、今の隙で攻撃が当たる!!



「ネナっ!」



ちびっ子が叫んだ。


「バカ! 敵に見つかるだろ!」


僕はちびっ子を振り返って、

目を見開いた。



「……えっ?」



ちびっ子の周りには魔力が滲み、

そして——


瞳孔が、変化していた。



大きな丸い瞳に丸い瞳孔。

それがちびっ子の瞳だった。


それなのに、今この子の瞳孔は横に四角を描いている。

——まるで、本物の羊のように。



ちびっ子から放出される魔力が風を生み、優しく髪を巻き上げる。


光を失った瞳。

だけど、その瞳は確かにネナさんの方を真っ直ぐ見据えている。


(一体、今この子には何が見えてるんだ——)

そう思ったのと同時だった。



「眠って!!」



ちびっ子がそう叫んだ。


リィーン……

どこからか、そんな音が聞こえた気がした。


魔力の波がちびっ子を中心にして瞬く間に広がり、

世界に静寂が訪れる。


空にいる魔物たちが、ぴたりと動きを止め、僅かに傾いた。



「?!」

ネナさんは異様な光景に一瞬目を見張った。

しかし、すぐに目を据え、傘を持ち直し——



——ヒュッ



沈黙を斬り裂くように、魔物たちに向かって振り抜いた。



斬撃を受けた魔物たちが、次々と落ちていく。

魔物たちは何が起きたのかも分からず動揺し、統率が乱れ始めた。



——何かが変わる。

互いの陣営が、その確かな“変化”を感じ取っていた。



《フアン視点》 end.



***



《フアナ視点》


ちょっとお!

一体なにが起こってるっていうのよぉ〜??


ちびっこが「眠って!!」って叫んだ瞬間、魔物たちの動きが少しだけ止まった。


その隙を突いて魔物をバサバサ斬るネナはかっこいいけどぉ……。

ちびっこ、あんた一体なにしたっていうのよぉ?!



「ちびっこ!

 いまのっ! 今のなぁに?!」



あたしは肩を掴んでグラグラと揺らす。

さっきまでの奇妙な瞳は消えて、

「あわわ!」と目を回してる。



「わ、わかんない」


「分かんないって、あんたの能力でしょ〜?!」



「でも、わかんないっ」



眉を下げて、困惑したように言い放つちびっこ。

嘘をついている訳ではなく、本当に自分でもよく分かっていないみたい。



「ネナをたすけたかっただけなの……」


「ちびっこ……」



ネナがいる方を真っ直ぐ見つめるちびっこ。

その瞳からは、さっきまでの怯えは消え去っていた。



「あんた……

 小さいのにやるじゃない!」


「わっ」



あたしはちびっこの肩に腕を回した。


ただ守られてるだけのお子さまかと思ったのに、ぜ〜んぜんっ違った!

通りであたしが嫌わないはずよねぇ!


うんうんと、自分の"勘"がしっかりと仕事をしていたことに満足げに頷いた。



「ちょっと、二人とも静かにして。

 敵や大人たちにバレるでしょ」



フアンが呆れた顔をした瞬間、

あたしたちの上から影が差した。



「もうバレてる」



「!!」

あたしとフアンは反射的に振り返り、

ちびっこを庇うように両手で武器を構えた。



「あっ!」



ちびっこが声を上げた。

そこにいたのは——



「トーマ!」



さっきまで岩山にいた、あの男だった。

ちびっこは明るい表情で男に飛びついた。



この男、

いつの間に降りてきたのよぉ?



フッと肩の力が抜けた。

あたしたちは両手の羽根をしまった。



抱きつくちびっこの頭を撫でる男。

すぐにあたしたちへ視線を移すと、



「何で来た?」



低い声で尋ねた。


なぁに? この男。

ネナやちびっこと話してる時と大違いじゃない。


あたしは文句を言いたい気持ちを堪えて、男の目を見た。



「「そうした方がいいと思ったから」」



あたしたちは、一瞬の迷いもなく答えた。



ここに来たことが間違いだなんて思わない。

男の鋭い視線にも、怖気付いたりしないんだからぁ!


あたしはそう意気込んで、睨み返すように男を見た。

どうせ呆れた顔をすると思ってた。だけど、



「そうか」



男はそれだけ呟くと、

魔物たちがいる空を見上げた。



「フアン」



男の落ち着いた呼び掛けに、フアンが目線で応える。

男は上空を見つめたまま続けた。



「——あの中から、

他と違う力を持つ魔物を見つけられるか?」



「力の流れ方でも、色でもいい」


その言葉に、あたしは目を丸くした。


この男、かんっぜんにフアンの能力を分かってる。



「…流石に、範囲が広すぎる」



フアンが悔しそうに呟く。


ぴこーん!

あたしは閃いた。

気づけば口がニンマリ。


弟が困ってる。

こ〜んな時こそ、おねーちゃんの出番でしょ!


「ふっふーん!」


腰に手を当て、胸を大きく張る。



「あたしが範囲——狭くしてあげる!」



そう宣言して、すぐに上空を見回した。

あたしの勘が、

——“心”が波打つ方向を探す。



「——! あっち!!」



あたしが指を差すと、

すかさずフアンが同じ方向へ顔を向けた。


目をカッと見開き、

瞬きひとつせずに瞳を走らせる。



「……っ! いた!

いたよ、トーマさん!!」



興奮したフアンの声に、あたしの胸が高鳴る。



フアンが見つけた!

これで——ネナたちを助けられる!!



「トーマさん、あいつ!」



フアンが男に見つけた魔物の位置を教える。

男はその魔物を見据え——笑った。



「二人とも、でかした!」


「えっ! ちょっとぉ!」

「わわっ」



あたしたちの頭をぐしゃぐしゃ撫でると、男はすぐにネナの方へと視線を移した。



(いきなりなんなのよぉ)



乱された髪を直しながら、心の中で文句を言う。


でも——今の表情。

余裕ばっかりだった男が、こんな顔もできるなんて思わなかった。


全然、何考えてるのか分からなくて気に食わなかったけど……

今見えた“素”に、ほんの少しだけ警戒心が薄れていく。


(すこ〜しだけなら、なかよくしてあげてもいいわよ。

——トーマ!)



《フアナ視点》 end.


——



斬っても斬っても減らない魔物たち。

日も落ち始めたのか、空は益々黒く染まっていく。


足が、腕が——重い。

疲弊していく体に、顔が歪んだ時だった。



「!」



一瞬、足がもたついた。

すかさず崩れかけた体勢を戻す。けれど、



「**っ」「**ー!」


「***!」



今の隙で魔物たちに挟まれた。

攻撃を全て回避するのは、無理だ。


「くっ!」


せめて最小限に。

私は盾の力を発動させようとした。その時——



ふわっ。



草木の香りが、鼻を掠めた。

冷たく吹き荒れていた峡谷の風に、暖かい風が混じる。


瞬間——魔物たちの動きが止まった。

一匹だけではなく、全ての魔物の動きが。



「!」



私は驚き目を見開いた。


一体、何が起こっているの……?


魔物の体が傾く。

その様子にハッとする。


驚いている場合じゃない。


傘を握り直して——



——ヒュッ



目の前の魔物を切り裂いた。


他の魔物たちが体勢を立て直し始める。

完全に立て直される前に、少しでも多くを、落とす——!


急に動きを止めた魔物たち。

何だかよく分からないけど、きっと私たちの味方をしてくれる。

そんな力が働いていた。


(それに、どこか懐かしい香り)


そう、あれは——



〔音凪〕



突如、頭に声が鳴り響いた。

透真の声だ。


(これは、透真の〈思念伝達〉?)


透真の〈思念伝達〉は一方通行だ。

聞き逃せない。


私は魔物の相手をしつつ、透真の声に意識を集中させた。



〔音凪、よく聞け。

 北の方……音凪から見て右側の集団、見えるか?〕



透真の言葉に、私は傘を開いて一度上昇し、戦場から距離を取る。


(右側……あれのこと……?)


ここから少し離れた位置。

他の集団より、少しだけ大きな群れが見える。



〔見えたか?

 あの中心に——この大群の"核"がいる〕


〔そいつがこの群れの司令塔だ〕



「!!」


それって、

"核"を何とかしたら、この群れ全体を無力化できるってこと?



見えなかった突破口が、開かれようとしていた。

差し始めた希望に、胸が高鳴ってくる。



〔"核"は同じ魔物だ。他の奴らの中に混じって身を潜めてる〕


〔よく、目を凝らせ。

 一匹だけ、僅かに違う動きをしている奴がいるはずだ〕



『目を凝らせ』

私はその言葉に、小さな動きも見逃さないように、群れの中の個体ひとつひとつを注視した。



(……あ)



仲間の影に紛れるように、わずかに違う動きをしている個体がいた。

きっと——あれだ。



〔そいつを斬るんだ〕



透真には私が敵を見つけた事なんて分からないはずなのに、

まるで隣で見ているかのようなタイミングで声が届く。


呼吸が、重なっていくのを感じた。



〔音凪。


 お前なら——できる〕



こくん

私は大きく頷いた。



「——!!」



そして次の瞬間、

核のいる集団へと飛び込んでいった。


勢いに体が大きく揺れる。

余計な力は入れず、傘の軌道と風に身を委ねる。


視界の先、

目指すはただ一匹——群れの“核”。



「***!」



こちらに気づいた魔物が、核を守るように立ちはだかった。


「どいて!!」


風の勢いのまま、傘を強く握り——旋回。

刃が走る。——まとめて斬り裂く!


シュンッ!!


肉を断つ感触。舞い散る黒塵。

まるで小さな竜巻が生まれたように、風が背後を駆け抜けた。


斬り伏せた魔物を踏み台に、

傘の柄を強く握り締めて、さらに空を蹴る。



「はぁあああ!!」



風が爆ぜる。

傘が閃光のように走り——核を、捉えた。



「*****!!!」



空を震わすような唸り声。

傘が核へ届く、

その刹那——



ブォオオオオオ!!!



核から爆風が弾け飛んだ。



「うっ!」



真正面から叩きつける風。

視界が歪むほどの衝撃に、体が後方へ弾かれた。


敵も味方も関係なく、一瞬で核の周囲にぽっかりと空間が生まれた。



「くっ……!」



急いで傘を開き、体勢を立て直す。

数メートルも吹き飛ばされた勢いに、体が大きくしなる。

無理に伸ばされた肘が痛い。



(あと少しだったのに——!)



悔しさに、唇をぎゅっと結んだ。


核は、さっきまでとは違う姿に変わっていた。

他の魔物よりも一際大きく、額には紅くぎらついた——

第三の瞳が浮かび上がっている。



縦に裂けた、その不気味な眼が、

ギョロリとこちらを睨みつけた。



周囲にはいくつもの小さな竜巻が渦を巻いている。

核が片翼を大きくしならせると、その竜巻のひとつが弾き飛ばされた。


「!」


傘の軌道を瞬時に変え、間一髪で回避。

頬を掠めた風が痛いほど冷たい。


背後で「*!」と短い悲鳴。

振り向いた視界の端で、魔物が八つ裂きの姿のまま落下していく。


ごくりと、喉が鳴った。

核は次々と竜巻を放ってくる。


私は必死に、

ただひたすらに躱し続けた。



(近づく隙がない——っ!)



繰り返し放たれる竜巻と、周りの魔物の追撃。

一瞬も動きを止めることはできない。


もし隙をついて核に突っ込むことができても、

きっとまた、あの爆風に弾かれる。


一体どうしたら——



ビュオォオ!



「っ!」


竜巻を躱した時だった。



「!」


ふわりと。

再び、草木の匂いが香った。


核を含む魔物たちの動きが止まり、竜巻が収縮していく。



〔音凪、行け!!〕



透真の声が届くと同時に、私は核へと飛び込んだ。



懐かしい香り。

これは——ラウハの森の匂い。



ここで香るはずのない匂い。

ラウハの森に深く関係する人物なんて、一人しかいない。



(——フィン)



ここに、いるの?

ホーマンさんの洞窟に……いるんじゃないの?


困惑と不安。けれど同時に、

"フィンが助けてくれている"

そう確信した瞬間、胸が熱くなった。



——今は、とにかく目の前の敵に集中しよう。



(今度こそ……!)



フィンの想いは背負った。

私は、傘を引き寄せ振りかぶろうとした。



カッッ!!!!!



核が目を覚ました。

再び風が爆ぜる。



ブォオオオオオ!!!



「きゃっ!」



体が回転しながら後方へ飛ばされる。



「ネナ!」



ボスンッ——衝撃。

何か柔らかいものにぶつかって、動きが止まった。


振り向くと、ホーマンさんが支えてくれていた。

深く刻まれた皺の間に、疲労が滲んでいる。



「大丈夫か?!」


「あ、ありがとうございます!

 ——大丈夫です」



ホーマンさんから身を離し、再び核を見据える。

あと少し。あと少しなのに——届かない。



「あやつを斬るんじゃな?

 ——周りの小物はわしらに任せろ!!」



ホーマンさんはそう叫ぶと、灰色の翼を上から下に大きく振り下ろして飛び上がる。



「ピィーーーー!」



峡谷中の空に響き渡る高音。

周りの鳥人たちがわずかに肩を震わす。

——彼らの動きが変わった。


目の前の魔物に集中していた意識が、外側に流れていくのを感じる。

彼らは核の周囲にいる魔物を引き離すように攻撃に転じ、

核の周りの空間は、さらに広がった。


ホーマンさんも、透真も、フィンも……

みんなが私を信じてる。



(絶対に、倒す——!)



「*っ*っ!」



核が嘲笑うように嗤った。

私はそんな嘲笑を掻き消すように、放たれた竜巻を薙いだ——


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