93.ありがとう
しばらくすると俺は普段の状態に戻っていた。ローガンとロビンは俺を見て呆れているが、ロンとニアはずっと手を繋いで声をかけていた。
「はぁ、本当に面倒な子だわね!」
「ああ、あいつは異常なほど落ち込みやすい体質らしいからな」
「迷惑かけてすみません」
以前から同じようなことは何度もあるが、落ち込んだ時の俺は記憶が曖昧なことが多い。
「まずはベットに寝ている冒険者で試してみましょうか」
俺達は初めに治療した冒険者の元へ向かった。
さっきより冒険者は落ち着いて寝ているがお腹から出ている触手は相変わらず動いている。
「ほんと気持ち悪いわね」
「少しずつ体の自由を奪い取っているんですかね」
鑑定を使うと状態のところには今も吸収中と表示されていた。
「それじゃあやってみて」
「わかりました」
ニアは匠の杖のスキル玉を氷属性に切り替えると呪文を唱えた。
「アイスダスト」
ダイヤモンドダストより小さな魔法陣が冒険者のお腹の真上に展開されるとすぐに触手は凍りついてきた。
「ニアちゃんいいわよ! その調子!」
ニアはさらに魔力を込めると次第に触手は動きを止めて氷漬けになった。
「ウォーレンちゃんどうなの?」
《ステータス》
[名前] スライム
[種族] 魔物/転生者
[能力値] 力E/A 魔力E/S 速度E/A
[スキル] 吸収、分離、擬態
[状態] 本体から分離した個体。現在凍結中のため吸収困難。
「一応吸収は止まりましたが倒したことにはなってないです」
鑑定を冒険者に使うと吸収は止められたようだ。ただ、スライムに関しては倒したわけではない。
「ということは大元のスライムを倒さない限り変わらないということか」
ロビンの言うようにスライムを倒さない限り完全に触手を除去することはできないようだ。
「それでも止める手立てがわかっただけいいわ。 ニアちゃんもまだ魔力は大丈夫かしら?」
「あと少しなら大丈夫です」
「ならポーションを持ってくるわ」
ローガンはポーションを取りに行くと俺達はそのまま次の部屋に移動することにした。
「やっぱりニアはすごいな」
「へへへ、少しでも力になってるならよかったね」
――パキン!
咄嗟に振り返ると氷は割れ始め、凍っていた触手は再びピクリと動きはじめた。
触手は勢いよく動き出すと尖った先がニアに向かった。
「ニア危ない!」
「えっ?」
ニアを庇うように抱きかかえた。背部から走る衝撃に視界がチカチカと点滅している。
「ぐはっ!?」
「お兄ちゃん?」
「ちゃんとニアを守れてよかった」
俺に刺さった触手は逸れ、ニアの体には当たらず無事のようだ。
「くそ!」
異変に気づいたロビンは俺を刺している触手を切り落とした。
だが俺はそのまま力尽きるように倒れた。すでに体の力が入らないのだ。
「お兄ちゃん! お兄ちゃん!」
心配するように見つめるニアの顔は涙でぐちゃぐちゃになっている。そんな顔をさせるつもりはなかったのに……。
「ニア……泣き止んでくれ」
胸に刺さった触手のせいで息がしづらく声が掠れてうまく話せない。
「みんなそんなに叫んで……ウォーレンちゃん!」
ポーションを持ってきたローガンも異変に気づき何か指示をしていた。
「ロン……ニア……」
「にいちゃ!」
「お兄ちゃん!」
俺は出せる声で必死に2人の名前を呼んだ。自分の限界を体が感じていたのだ。
「家族になってくれてありがとう」
2人の頬を優しく撫でるとそのまま腕の力も抜け意識を失った。
「お兄ちゃんー!」
「にいちゃー!」
2人の声は冒険者ギルドに響き渡っていた。
「スキル【限界突破】が発動されました。 生命の限界値が上昇します」
「対象物、スライムを吸収します」
俺の脳内でかすかに声が響いてた。
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