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7.アリスと神託

本日二度目の更新です。

前回のは読み飛ばしても問題ありません。




「貴女がアリス・ステラフィールド伯爵令嬢ね」


 ウィルフレッドとアリスが案内されたのは、王城の中でも特に厳重な謁見の間だった。

 そこには既に当代聖女と大神官を始めとした神殿の重鎮や有識者が揃い踏みしていた。ウィルフレッドの胃がおかしな悲鳴を上げる。


「私はエリス。当代聖女の称号を司る神の代弁者です」

「初めまして」


 そしてアリスは些か不機嫌だ。

 大方、初対面の人間からタメ口を利かれたのが気に食わないのだろう。

 メーデーメーデーしないだけよく耐えているとウィルフレッドは少しだけ妹を見直した。


「では、アリス・ステラフィールド伯爵令嬢。件の報告書に記載されていた動物達をここへ」

「はい、陛下。いでよ、ポチ!」


 片手を腰に当て、もう片方の手を天に向かって突き上げながらアリスが厳かな声を発する。

 人々が緊張を高める中、緊急時に備えいつでも逃げられるよう開け放たれていた扉から、ポチがてってこ歩いて室内へ入った。


「わふっ」


 少し間抜け面のハスキーの登場に一同が言葉を失う。

 普通に呼べば良かったじゃん。何あのポーズ。


「せ、聖女様……これは……」

「紛れもなく神ですわ……」

「そんな馬鹿な……」


 間抜け面のハスキーが困った顔をしている。思っていたよりも床が滑るようだ。上手く歩み進められていない。

 悲壮感たっぷりの愛犬の表情を見て思わずウィルフレッドはポチを抱き上げてカーペット部分まで連れて行った。ここなら滑らない。


「ポチ、爪で歩くのはお止め。肉球を使うのだと何度教えたら分かるの。肉球よ、肉球」

「わふっわふっ」


 なんちゅー会話だ。人々の困惑は深まった。


「え、えー……次を」

「はい、陛下。いでよ、ミケ!」


 まるで何かの体操第一のように両手を広げ天を仰ぐアリス。


「にゃー」


 ポチと同じように普通に扉から歩いて入ってくる猫。


「………………」

「………………」


 まじであのポーズ一々何なの?


「聖女様、どうですか?」

「ま、間違いなく魔王です……」

「なんてことだ……」

「んにゃにゃ」


 ミケもつるつるした床に苦戦している。今度もやはりウィルフレッドが助けた。


「次」

「はい、陛下。かもん、ロバート!」


 仁王立ちでアリスが指をパチンと鳴らした。


「はい、御者ロバートです」


 普通にウィルフレッドの後方に控えていたロバートが一歩前へ進み出た。


「………………」

「………………」

「あー……、如何でしょうか、精霊の愛し子様」

「た、確かに精霊王様ですわ……」

「そ、そんな……まさか……」

「ロバート、何故あの方が愛しいの?」

「いえ。別に特に愛しくも何ともないです」

「そうなの?」

「はい」

「そんな……精霊王様……」


 驚愕の事実が発覚してしまった。誰も知りたくなかった、こんな事。


「次」

「はい、陛下。アマンダ〜〜」

「しゃーっ!」

「余の鯉を丸呑みにした鮫!」

「え、なんか苦しんでない?」

「そりゃ鮫なのに陸に上がるから……」

「アリス、アマンダだけ水中に居られるようにしてやれないか?」

「良いのですか? フカヒレですよ?」

「良いから!」

「でも、びちびちしているの面白くないですか?」

「面白くない!」

「アマンダ、なんてつまらない子! 次までに面白い芸を習得してきなさい」

「しゃー……」


 アリスにダメ出しされてアマンダは落ち込んだ。


「陛下、鮫の周囲にだけ水で満たしても良いでしょうか?」

「どのようにして?」

「アマンダだけを水で囲って移動式水槽のようにします」

「うむ。やってみよ」

「はい、陛下」


 アリスがすいっと指を空で滑らせると、アマンダの周囲だけが水で満たされた。

 びちびちしていたアマンダがスイスイと泳ぐ。室内を。

 人食い鮫が室内を縦横無尽に泳ぎ回る様はあまりにも異常だった。


「こ、これは……ステラフィールド伯爵令嬢は何者だ!?」

「神と共にあるのなら巫女ではなかろうか」

「いやいや、魔王とておるではないか」

「魔女ではないか!?」

「いや、でも精霊王もおるではないか」

「この中で一番力があるのは……神か?」

「それならやはり巫女ではないか」

「いやー……あれが巫女というのは……」


 人々が困惑を深める中、突如としてエリスの耳に神聖な声が響いた。


『聖女よ』


「ああっ! 神の声が、神の声が聞こえます!」

「おお!!」


 ようやく神託が下りたと人々は喜んでいるが、ウィルフレッドは知っている。

 その神託を述べているのは、今そこで毛足の長いカーペットに爪が引っ掛かって取れずに苦戦しているハスキーだと。

 ポチの口がパクパクしている。


『聖女よ、その者は巫女ではない』


「アリス伯爵令嬢は巫女ではないとのことです!」

「やはり! では、きっと魔女なのだろう」


『いや。魔女でもない』


「えっ!? あ……魔女でもないそうです」

「何だと!?」

「わたくしは魔女ではありません。魔女はマチコです」

「マチコ?」

「マジェスティックチャームコンテンポラリー」

「えっ?」

「えっ?」

「えっ?」

「陛下、マチコをお呼びしても良いでしょうか?」

「あ、ああ……」

「マーチコ〜〜〜〜」

「ききっ」

「え、猿!?」

「マチコ」

「マチコ……」

「では、やはり聖女なのか?」


『違う! 聖女などではない!! 』


「聖女ではないと力強く否定しておられます!」

「おおお!」

「では何なのだろう……」

「普通の人間ではないよな?」


 私の妹です、とウィルフレッドは心の中だけで唱えた。

 確かに自分の妹の筈なのに何故こんなことになっているのだろう。これまでのアリスとの日々が走馬灯のように脳裏に浮かんだ。

 基本的に胃痛のことしか思い出せなかった。思い出さなくても今現在も胃は十分に痛いので、ウィルフレッドは思い出すのを止めた。


『彼女は……』


「アリス伯爵令嬢は……」


『ご主人様だ』


「ご、ごしゅ!? ……えええええええっ!」

「ごしゅ?」

「ごしゅ……御守? おまもりか?」

「ご主人様だそうです……」

「誰の!?」


『我のである』


「か、神の……」

「うええええええ!?」

「なんでったって神と魔王の主人なんて……」

「物理的に叩きのめしたからです」

「物理的に」

「文句があるのならロバートを追加します」

「御者ロバート、追加されます」


 話に飽きたアリスは部屋の一角でアマンダの一本釣りを始めた。




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