第二部 第100話 王の仕事
「……王様」
◇
小さな声が。
◇
今度は一人じゃなかった。
◇
怯えながら。
◇
迷いながら。
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でも。
◇
確かにユースへ向いていた。
◇
ユースは少し困った顔をする。
◇
慣れない。
◇
重い。
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怖い。
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逃げたくなる。
◇
さっき人を斬ったばかりだ。
◇
まだ少し。
◇
手が震えている。
◇
士郎が鼻を鳴らした。
◇
「情けねぇ顔してんな」
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ユースが苦笑する。
◇
「急に無理だろ……」
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掠れた声。
◇
「人殺したばっかだし」
◇
少し間。
◇
士郎はバルドの亡骸を見る。
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興味なさそうだった。
◇
「死ぬ方が悪ぃ」
◇
静かな声。
◇
少し間。
◇
ユースを見る。
◇
「ただ」
◇
風が少し止まる。
◇
「一回やったら」
◇
少し間。
◇
「もう躊躇しねぇだろ?」
◇
沈黙。
◇
ユースが止まる。
◇
聖剣を見る。
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自分の手を見る。
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まだ少し震えていた。
◇
でも。
◇
否定できない。
◇
士郎が鼻を鳴らす。
◇
「良くも悪くもな」
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翔が煙を吐く。
◇
「慣れる」
◇
少し間。
◇
「多分」
◇
笑う者が、少し止まる。
◇
『多分!?』
◇
『雑!!』
◇
翔が商人達を見る。
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土に這いつくばり。
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泣きそうな顔で震えている。
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「で」
◇
少し間。
◇
「働かせるんだろ?」
◇
ユースが顔を上げた。
◇
少し考える。
◇
もう。
◇
逃げない。
◇
「今日からだ」
◇
商人達が止まる。
◇
神官も。
◇
地主も。
◇
顔を上げる。
◇
ユースが続けた。
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「食料配布」
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「倉庫整理」
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「壊れた街の修復」
◇
少し間。
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今度は逸らさない。
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「全部お前らがやれ」
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地主が顔を引き攣らせる。
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「わ、私達が……?」
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初めてだった。
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ユースが少し怒っていた。
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「当たり前だろ」
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静かな声。
◇
「奪ったんだから」
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風が吹く。
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「返せ」
◇
静寂。
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商人達が崩れ落ちる。
◇
神官も。
◇
地主も。
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もう逆らえない。
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「や、やります!!」
◇
「働きます!!」
◇
「返します!!」
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士郎が少し笑った。
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「王っぽくなったな」
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ユースが困った顔をする。
◇
「まだ分かんないよ」
◇
小さな声。
◇
「王って何すればいいのか」
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士郎が少し考える。
◇
少し間。
◇
「知らねぇ」
◇
静かな声。
◇
ユースが止まる。
◇
士郎が鼻を鳴らす。
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「俺も祀り上げられただけだしな」
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少し間。
◇
民を見る。
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短く。
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「でも」
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静かな声。
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「腹減ってる奴放っとく王は」
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少し間。
◇
「クソだと思うぞ」
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翔が煙を吐く。
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「あと」
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少し間。
◇
「長い奴」
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静かな声。
◇
「面倒」
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静寂。
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ユースが。
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少し吹き出した。
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民からも。
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小さく笑いが漏れる。
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さっきまで死にそうだった空気が。
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少しだけ。
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軽くなった。
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その時だった。
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遠くで。
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鐘が鳴る。
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低い音。
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嫌な響き。
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兵が走ってくる。
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顔面蒼白。
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息を切らし。
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叫ぶ。
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「報告!!」
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広場の空気が止まった。
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「東の砦が……!」
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少し間。
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震えた声。
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「奪われました!!」
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ユースの顔が変わる。
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士郎が。
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少し笑う。
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試す目。
◇
「ほら」
◇
静かな声。
◇
「王の仕事だ」




