第二部 第99話 王の裁き
「……王様」
◇
小さな声だった。
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震えていた。
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でも。
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確かだった。
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ユースが止まる。
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聖剣を握る手に、少しだけ力が入る。
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頭を下げる民。
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泣きそうな顔。
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助かった安堵。
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まだ消えない不安。
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全部。
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自分を見ていた。
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怖い。
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重い。
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逃げたい。
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でも。
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逸らせなかった。
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士郎が横で少し笑う。
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「見られてんな」
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静かな声。
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ユースが苦笑する。
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「……無理だろ」
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掠れた声。
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「俺なんか——」
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士郎が顎で示した。
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商人。
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神官。
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地主。
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顔面蒼白。
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さっきまで威張っていた連中が、今は震えている。
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「で?」
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静かな声。
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「こいつらどうする」
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空気が止まった。
◇
商人が真っ先に崩れる。
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「ま、待ってくれ!!」
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額を擦りつける。
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「金は返す!!」
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「倉庫も出す!!」
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神官も慌てて叫ぶ。
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「私は必要だ!!」
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「秩序が!!」
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地主も続く。
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「土地もある!!」
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「働く!!」
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必死だった。
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さっきまでの余裕は。
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もうない。
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ユースは黙った。
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怖い。
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迷う。
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殺した方が早いのか。
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許していいのか。
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聖剣が少し重い。
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だが。
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逃げなかった。
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「……奪った物は全部返せ」
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静寂。
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商人達が止まる。
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ユースは続けた。
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「金も土地も倉庫も」
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少し間。
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「全部だ」
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神官が恐る恐る顔を上げる。
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「そ、それで終わりか……?」
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ユースの目が向く。
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静かだった。
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でも。
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前より強い。
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「終わらない」
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少し間。
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「働け」
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風が吹く。
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「民の前で」
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「飢えた奴のために働け」
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地主が唇を震わせる。
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「こ、殺さないのか……?」
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ユースは少しだけ考えた。
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そして。
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静かに言った。
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「逃げるなら斬る」
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少し間。
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「隠すなら斬る」
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聖剣を少し握る。
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「また奪うなら」
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静かな声。
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「今度は許さない」
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商人達が崩れ落ちた。
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涙。
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汗。
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震え。
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みっともなく何度も頷く。
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「や、やります!!」
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「返します!!」
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「働きます!!」
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翔が煙を吐く。
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「甘い」
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静かな声。
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少し間。
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「でも嫌いじゃない」
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士郎が少し笑った。
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「俺なら殺してた」
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少し間。
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ユースを見る。
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「でも」
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静かな声。
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「お前の国なら、それでいいのかもな」
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風が吹いた。
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さっきより少しだけ。
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民の顔が上を向いていた。
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そして。
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今度ははっきり。
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「……王様」
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と、誰かが言った。




