第二部 第85話 器
「……一歩だな」
◇
士郎の声が。
静かに落ちた。
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若い男が少し止まる。
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息が荒い。
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怖い。
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膝も少し震えている。
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それでも。
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逃げていない。
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鎧の男が顔を歪めた。
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「な、何を偉そうに!!」
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怒声。
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剣を握る手が震える。
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怒り。
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恐怖。
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全部が混ざっていた。
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「平民風情が!!」
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「王を語るな!!」
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若い男が止まる。
◇
少し間。
◇
そして。
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前を見る。
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今度は。
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逸らさない。
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静かな声。
◇
「王?」
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少し間。
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民を見る。
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子供。
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母親。
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老人。
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痩せた顔。
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全部を見る。
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そして。
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鎧の男を見る。
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「怖がらせるだけで」
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「腹も満たせない奴が」
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少し間。
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声が少し強くなる。
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「王ぶるなよ」
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広場が止まった。
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鎧の男が顔を真っ赤にする。
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「き、貴様ァ!!」
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怒号。
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剣を振り上げる。
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若い男が止まる。
◇
怖い。
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動けない。
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だが。
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次の瞬間。
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士郎の声。
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静か。
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だが。
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重い。
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「止まんな」
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若い男が目を見開く。
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士郎が少し笑う。
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獰猛じゃない。
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試す目。
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「王様やるなら」
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少し間。
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「そんくらい真正面から見ろ」
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風が吹いた。
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若い男が息を吸う。
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怖い。
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それでも。
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逃げない。
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そして。
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初めて。
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一歩。
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前へ出た。
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鎧の男へ。
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震える声。
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だが。
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逸らさない。
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「剣振るうなら」
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少し間。
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「まず俺を黙らせてみろ」
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民達が止まった。
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笑う者が数秒止まる。
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『お?』
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『ちょっと王っぽくなってきた?』
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翔が煙を吐く。
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静かな目。
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少し間。
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「まだ弱い」
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煙が揺れる。
◇
「でも」
◇
静かな声。
◇
「少しマシになった」




