第二部 第70話 王の覚悟
「覚悟見せろ」
◇
士郎の声だけが。
街道へ沈んだ。
◇
領主が。
止まる。
◇
震えていた。
怒り。
恐怖。
屈辱。
全部。
顔へ浮かぶ。
◇
だが。
次の瞬間。
怒鳴った。
◇
「ふ、ふざけるな!!」
◇
絶叫。
顔を赤く染める。
◇
「余は王となる男だ!!」
◇
「次の王となるのは余だ!!」
◇
士郎が、少し止まる。
静かな目。
笑わない。
◇
「王候補、な」
静かな声。
◇
領主が叫ぶ。
唾を飛ばしながら。
◇
「民など道具だ!!」
◇
「税を納め!」
◇
「働き!」
◇
「余を支えるためにある!!」
◇
風が。
止まった。
◇
老人が俯く。
母親が子供を抱く。
◇
誰も。
何も言わない。
◇
諦め。
慣れていた。
◇
それが。
普通だった。
◇
士郎が。
止まる。
◇
沈黙。
◇
そして。
少し笑った。
◇
違う。
冷えている。
◇
怖い。
ただ。
怖い。
◇
「……終わってんな」
静かな声。
◇
翔が、煙を吐く。
少し間。
領主を見る。
◇
「弱い上に」
静かな声。
◇
少し間。
◇
「中身もない」
◇
笑う者が、数秒止まる。
◇
『辛辣!!』
◇
『でも正論!!』
◇
領主が、顔を真っ赤にする。
◇
「ころ——」
◇
言い終わる前。
◇
重力が落ちた。
◇
領主が。
地面へ叩き付けられる。
◇
悲鳴。
土が割れる。
◇
宝石。
豪華な服。
泥まみれ。
◇
士郎が、ゆっくり近付く。
◇
静かな目。
冷たい。
◇
笑っている。
なのに。
怖い。
◇
「王ってのはな」
静かな声。
◇
少し間。
◇
老人。
子供。
痩せた民。
◇
全部を見る。
◇
「民が腹減ってる時点で」
静かな声。
◇
少し間。
◇
冷たく。
◇
「失格なんだよ」
◇
領主が震える。
◇
初めて。
恐怖していた。
◇
士郎を。
怪物を見る目で。
◇
翔が、煙草を指で弾く。
灰が落ちる。
◇
「長い」
静かな声。
◇
「飯」
◇
少し間。
◇
「冷める」
◇
笑う者が、頭を抱えた。
◇
『まだそれ言う!?』
◇
『飯の執着すげぇな今日!?』
◇
士郎が、少し吹き出した。
◇
「確かにな」
静かな声。
◇
そして。
領主を見下ろす。
◇
「最後に聞く」
静かな声。
◇
少し間。
◇
「王になる気あんのか」
◇
風だけが。
静かに吹き抜けた。




