第二部 第59話 異名
沈黙。
◇
街へ。
◇
静けさが落ちていた。
◇
空を覆っていた巨大術式は消えた。
◇
黒い輪も。
◇
もう残っていない。
◇
ただ。
◇
傷付いた街だけが、そこにあった。
◇
誰も動かない。
◇
住民達は呆然と立ち尽くしていた。
◇
理解できない。
◇
生きている。
◇
街が。
◇
まだ残っている。
◇
支配者の男が、空を見上げたまま呟く。
◇
「……止まった」
静かな声。
◇
「本当に」
◇
「止めやがった……」
◇
笑う者が深く息を吐く。
◇
『終わった……』
◇
『ほんと終わった……』
◇
『街ごと消えると思った……』
◇
士郎が少し笑う。
◇
「大袈裟だな」
静かな声。
◇
「壊すならもっと派手にやる」
◇
笑う者が本気で顔を引き攣らせた。
◇
『怖ぇよ!!』
◇
『安心材料になってねぇ!!』
◇
翔が煙を吐く。
◇
静かな目。
◇
街を見る。
◇
そして。
◇
小さく呟いた。
◇
「一本」
静かな声。
◇
「まだ残ってる」
◇
笑う者が数秒止まる。
◇
『まだ競争してたの!?』
◇
士郎が吹き出した。
◇
「ハハッ!!」
◇
「じゃあお前の勝ちか」
◇
翔は気怠そうに肩を竦める。
◇
「どうでもいい」
静かな声。
◇
その時だった。
◇
煙草屋の店主が。
◇
震えながら前へ出る。
◇
そして。
◇
深く頭を下げた。
◇
「……ありがとう」
静かな声。
◇
「街を」
◇
「守ってくれた」
◇
余韻。
◇
住民達も。
◇
一人。
◇
また一人。
◇
頭を下げ始める。
◇
恐怖はある。
◇
だが。
◇
感謝もあった。
◇
支配者の男が静かに問う。
◇
「……あんたらは」
◇
少し間。
◇
震えた息。
◇
「何者だ」
◇
士郎が少し笑った。
◇
獰猛に。
◇
「通りすがりだ」
静かな声。
◇
「煙草買いにな」
◇
沈黙。
◇
笑う者が本気で頭を抱える。
◇
『締まらねぇぇぇ!?』
◇
だが。
◇
街の誰かが小さく呟いた。
◇
「……災厄の王」
◇
波紋。
◇
別の誰かが続く。
◇
震えた声。
◇
「白煙の死神……」
◇
噂が広がる。
◇
静かに。
◇
確実に。
◇
恐怖。
◇
畏怖。
◇
感謝。
◇
全てが混ざり合い。
◇
一つの名前になる。
◇
異名になる。
◇
そして。
◇
遥か遠く。
◇
世界のどこか。
◇
黒い観測窓。
◇
静かな声が響く。
◇
「秩序執行者消滅確認」
◇
少し間。
◇
「秩序破壊因子」
◇
「移動監視対象へ更新」
◇
暗転。
◇
世界が。
◇
初めて。
◇
二人を敵として認識した。




