第216話 導いた女
深夜。
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王都地下最深部。
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誰も入ることを許されない、 封鎖区画。
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古い祭壇。
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崩れた魔法陣。
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そして。
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赤い蝋燭の光だけが、 静かに揺れていた。
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その中心。
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エレノアは、 一人で座っていた。
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赤い瞳。
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静かな表情。
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だが。
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その目には、 初めて疲労が滲んでいる。
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その時。
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黒い重力が現れる。
静寂。
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エレノアは笑った。
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「来ると思っていたわ」
静かな声。
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西園寺士郎。
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黒いコート。
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黒い瞳。
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世界の王。
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神殺し。
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魔王。
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その怪物が、 静かにエレノアを見下ろしていた。
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「で?」
静かな声。
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「お前の目的は、 結局なんだったんだ?」
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エレノアは、 少しだけ目を細める。
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「気になるの?」
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士郎は鼻で笑う。
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「暇潰しだ」
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エレノアは、 小さく笑った。
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「……ほんと、 最後まで変わらないのね」
静寂。
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赤い瞳が、 士郎を見る。
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世界を踏み潰した怪物を。
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そして。
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静かに口を開いた。
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「私は、 原初が嫌いだった」
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「神も」
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「この世界も」
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「全部」
静寂。
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「最初から、 壊れていたのよ」
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「この世界は」
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「強者だけが、 好き勝手に蹂躙する」
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「なのに弱者は、 それを運命だと受け入れる」
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「反吐が出たわ」
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士郎は黙って聞いている。
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興味なさそうに。
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エレノアは続ける。
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「だから、 壊したかった」
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「神も」
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「原初も」
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「世界の理も」
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「全部」
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赤い瞳。
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そこに初めて、 狂気が滲む。
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「だから、 あなたを導いた」
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「原初すら殺せる、 怪物を作るために」
静寂。
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士郎は数秒、 黙っていた。
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そして。
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「くだらねぇな」
静かな声。
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エレノアの目が揺れる。
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士郎は、 興味なさそうに言った。
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「壊れてるなら、 壊せばいい」
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「気に入らねぇなら、 踏み潰せばいい」
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「そんなもんに、 理由いるのか?」
静寂。
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エレノアは、 言葉を失った。
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理解してしまう。
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自分は。
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復讐だった。
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怒りだった。
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憎しみだった。
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でも。
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目の前の怪物は違う。
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西園寺士郎は。
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もっと単純で。
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もっと危険だった。
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壊したいから壊す。
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踏み潰せるから踏み潰す。
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そこに。
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理由すら存在しない。
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エレノアは、 初めて薄く笑った。
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敗北を認めるみたいに。
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「……やっぱり、 あなたは化け物ね」
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士郎は鼻で笑う。
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「今さらか?」
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その瞬間。
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黒い重力が、 静かに揺れた。
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そして。
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西園寺士郎は、 闇の中へ消えていく。
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残されたエレノアだけが。
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静かに呟いた。
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「私ですら、 理解できなかった」




