第215話 理解者
夜。
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黒い空。
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世界は、 完全に西園寺士郎へ支配されていた。
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誰も逆らわない。
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誰も戦わない。
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ただ。
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怯えながら生きている。
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その中心。
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旧神都最上層。
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崩壊した神殿の屋上で。
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士郎は一人、 夜空を見上げていた。
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黒いコート。
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黒い瞳。
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神を殺し。
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世界を支配した男。
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なのに。
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その背中は、 どこまでも退屈そうだった。
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その時。
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後ろから、 足音が響く。
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士郎は振り返らない。
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「よく来れるな」
静かな声。
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「俺の近くに」
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返事。
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「今さらでしょ?」
女の声。
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セレナだった。
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紫の瞳。
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いつも通りの笑み。
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だが。
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その目だけは、 少しだけ寂しそうだった。
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セレナは、 士郎の隣まで歩いてくる。
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黒い重力が渦巻いている。
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普通なら、 立っていることすらできない。
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それでも。
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セレナは平然としていた。
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「世界を手に入れた気分は?」
静かな声。
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士郎は、 興味なさそうに空を見る。
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「別に」
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「最初から、 こんなもんだと思ってた」
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セレナは小さく笑う。
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「ほんと、 かわいくない」
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静寂。
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風だけが吹く。
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ふと。
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セレナが呟いた。
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「ねぇ」
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「後悔とか、 ないの?」
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士郎は黙っている。
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神を殺した。
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世界を壊した。
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無数を踏み潰した。
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それでも。
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黒い瞳には、 何も映っていない。
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そして。
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「ねぇな」
静かな声。
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「弱ぇ奴が潰れただけだ」
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セレナは、 少しだけ目を伏せる。
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悲しい。
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でも。
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分かっていた。
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この男は、 最初からこういう怪物だった。
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だから。
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セレナは笑う。
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優しく。
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どこか諦めたみたいに。
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「……ほんと、 最低」
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士郎は鼻で笑う。
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「今さらだろ」
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セレナは、 静かに士郎を見る。
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世界最強の怪物。
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誰にも届かない王。
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でも。
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その背中は、 どこまでも孤独だった。
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だから。
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セレナは小さく呟く。
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「ねぇ、 士郎」
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「あなた、 退屈なんでしょ?」
静寂。
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その瞬間だけ。
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士郎の黒い瞳が、 ほんの僅かに揺れた。
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だが。
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次の瞬間には、 もう消えている。
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「……さぁな」
静かな声。
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夜風が吹く。
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世界は跪いた。
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なのに。
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魔王だけは。
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どこまでも、 満たされていなかった。




