廃棄物のささやき
ギルドを後にした。
エリザベスは静かに歩いていた。見ているようで見ていない。ただ足だけが、心とは別の意思で動いているかのようだった。街の喧騒は彼女の周囲で震えていたが、水の中にいるように、遠くの世界の出来事のように感じられた。声も、笑いも、吠える犬も、商人の叫び声も、すべてがぼんやりと響く。
無意識に、鍛冶屋へと向かっていた。
その店は、新しくもなければ、完全に崩れているわけでもない。扉を開けると、錆びたベルが鳴った。中は金属の熱気と油の匂いに包まれていた。壁には擦り減った鎧、くすんだ兜、輝きを失った盾が吊るされていた。奥では、退屈そうな鍛冶職人が片手で顎を支え、ハンマーをリズムのない拍子で振っていた。
彼は彼女をちらりと見た。
「また金のない冒険者か」と思った。
エリザベスは何も言わなかった。ただ棚を眺めていた。特に目的はない。ただ、世界から離れるための言い訳のように。
鎖帷子は重すぎる。プレートアーマーは高すぎる。革の鎧は何度も修繕され、かつての戦いの傷跡を語っているようだった。でも、どれも彼女を惹きつけなかった。
それを見つけるまでは。
店の奥。埃をかぶった樽。壊れた棚の陰にひっそりと置かれていた。
【廃棄品:銅貨10〜50枚】という札が下がっている。
彼女は近づいた。
中には名もないがらくたが詰まっていた。かつて誰かを守った破片たち。その中に…黒い布のようなものがあった。
だが、それは布ではなかった。
慎重に手に取ると、見た目以上の重さを感じた。光を吸い込むような、深い漆黒。触ると柔らかいが、握ると金属のように固く、冷たく…生きているようだった。
その瞬間——
視界が崩れた。
男の姿。壊れた笑い声。血。炎に包まれて叫ぶ金髪の女性。剣を掲げる貴族たち。怒号。怒り。理不尽な運命。処刑台。鉄鎖。仮面の死刑執行人。そして、最後に響いた声。
「世界にも、この痛みを——」
エリザベスはよろけながら後ずさった。
息が乱れる。心臓が暴れる。頭の中に響く映像は消えず、まるでガラスの爪で内側から削られているようだった。
その物は——呪われていた。炎も毒も見えないが、純粋な痛みによって呪われていた。絶望に沈んだ魂の最後の叫びが染みついた、そんな気配だった。
けれど、彼女は手を離さなかった。
なぜなら、それが自分と同じように傷ついていたからだ。物語ではなく、感情として理解できた。
鍛冶屋はちらりと彼女を見て、ひげを掻いた。
「それ、買うのか?」
返事はなかった。ただ、銅貨を十枚、机の上に置いた。
「呪われたガラクタだがな…」と彼はぼそりとつぶやき、再び退屈そうにハンマーを振った。
エリザベスは静かにその場を去った。
黒い欠片は、まるで彼女の一部のように、手に馴染んでいた。ひとつの傷痕として。




