生きるための代償
エリザベスは一晩中、泣いていた。
止めようとしても、止まらなかった。望んでいたわけじゃない。ただ、体が壊れてしまっていた。
一滴一滴の涙が、彼女の心の残りを絞り出すかのようだった。
言葉も、叫びもなかった。
ただ、かすれた呼吸と、身体にも心にも染みついた痛みがそこにあった。
時間はまるで永遠のように引き延ばされ、
宇宙が彼女の痛みを嘲笑っているかのようだった。
けれど、世界は容赦なく進み続けた。
血と灰、壊れた瞳を無視して、朝日は空を照らし始めた。
なぜなら――
彼女はただの少女だったから。
戦士じゃない。冒険者でもない。英雄でもない。
この世界に迷い込んだ、愛された記憶を持つ、ひとりの無力な少女。
魂が凍りつくように感じた。
痛みは現実で、逃げられないものだった。
体ではなく、目に見えない何かが深く傷ついていた。
そして、不意に――彼女は笑い出した。
息を呑むような、途切れ途切れの笑い。
そこに喜びはなかった。
それは偽りの笑いであり、涙の仮面だった。
心が叫び、口がそれを隠す。
魂がささやくように――
「笑って。笑わなきゃ、叫んでしまう。壊れてしまう。」
――私は…エリザベス。
――私は正義の味方じゃない…殺し屋なんかじゃない…
――わたしは…わたしは……ハ…ハハハハハハハハ……
笑いは強まり、
中身は空っぽだった。
彼女は袖で顔を拭った。
泥、血、乾いた涙の跡。
そして、顔を上げた。
笑っていた。
完璧な笑顔。
綺麗でさえあった。
誰もがそれを「勝利」の笑顔だと勘違いするかもしれない。
けれど、それは――
仮面だった。
見えない鎧。
心を守るために生まれた本能の産物。
選んだわけじゃない。
ただ、そうするしかなかった。
身体が言っていたのだ――「こうしなければ、生きられない」と。
それは勝利の笑顔ではない。
生き延びるための、笑顔だった。
「私は大丈夫」
そう言う代わりに、微笑んだ。
彼女は立ち上がった。
準備ができたからじゃない。
強くなったからでもない。
もう選択肢がなかっただけ。
太陽は昇り続ける。
世界は回り続ける。
そして彼女は、壊れたまま、平然を装って歩き出した。




