この世界はバラ色じゃない (2)
エリザベスは、しばらくの間、森をじっと見つめていた。呼吸は荒かったが、徐々に落ち着きを取り戻していった。彼女の心は自然と一体化し、まるでその一部になったかのようだった。
そして──
ついに見えた。
山賊たちの姿が、はっきりと。
傷だらけの顔。腐敗した臭いを放つ身体。まるでゴミの山から這い出てきたかのようだった。錆びた刃、欠けた刃、乾いた血がべっとりとこびりついていた。鎧と呼ぶにはお粗末な、血に染まったぼろ布を身にまとい、どこか狂気じみた笑みを浮かべていた。
その瞬間、彼女は理解した。
彼らに情けなどない。
命を救う価値も、きっとない。
――これは人間の皮を被った「屑」だ。
彼らの会話の断片が、耳に届く。
「へへ…見つけたら、俺のモンだ。」
「前回もそう言って、殺しちまっただろ?ははっ、クソ野郎が。」
その言葉は、あまりに腐っていた。吐き気が込み上げる。
でも、その奥底では──
何かが燃えていた。
怒り。
純粋で、原始的で、抗えないほどの怒り。
心の奥底で、問いが渦巻く。
こいつら、本当に人間か?
どうしてこんな奴らが、平然と眠れるんだ?
罪の意識ってものが、ないのかよ?
エリザベスは、力強く鉈の柄を握った。指先は血の気を失い赤黒く変色し、その圧力により今にも血が滲みそうだった。
冷静になろうと深く息を吐き、敵の中で孤立している一人を探す。仲間に囲まれていない標的を。
見つけた。
孤立した山賊。油断しきった顔。
彼女は両手で鉈を高く掲げ、息を吸い込み、そして──
心に迷いはなかった。あるいは、怒りが全てを上書きしていたのかもしれない。
振り下ろした。全身の力を込めて。
ザシュ。
その男は、声を発することもできず崩れ落ちた。
エリザベスは──
自分の手で命を奪った。
だが、もう遅い。
後戻りはできない。
彼女は理解していた。
元の世界の倫理や道徳を、この世界に持ち込めば──それは自らを滅ぼす種になる。
これはゲームのようなファンタジーではない。
敵を倒せば改心するなんて、幻想だ。
この世界は、バラ色じゃない。
殺さなかったからといって、彼らが変わるわけではない。
ただ、生き延びさせて、次の犠牲者を増やすだけだ。
深く息を吐く。
もう、手は震えていなかった。
生き残るには──手を血に染めるしかない。




