焚き火と空腹の夜
エリザベスが深い眠りに落ちている間、体力も精神も限界を迎えていた彼女に代わり、召喚されたカード《エル・バリエンテ(El Valiente)》は静かに動き続けていた。
倒したオークたちの武器を一つ一つ回収し始める。使い物にならないほど壊れた石の斧や剣も多かったが、木製の柄や粗末な槍の棒部分は利用できそうだった。
彼はその木材を使って、まるで慣れているかのように擦り合わせ、火を起こそうとした。根気強く擦り続け、やがて小さな火種が生まれ、それが焚き火へと成長した。
炎が静かに揺れる中、エル・バリエンテは自らの短剣を串のように使い、オークの肉の中でも比較的清潔で食べられそうな部分を選んで火で炙り始めた。その光景は、薄暗いダンジョンに不釣り合いなほど穏やかだった。
時間が過ぎ、静けさの中で。
エリザベスの脳裏に、どこか無機質な機械音のような声が響いた。
「レベルアップ!」
すぐには目を覚まさなかった。身体はまだ眠りを欲していた。だが、腹の虫がそれを許さなかった。
どれほどの時が流れたのか──
重いまぶたが開き、目の前に広がったのは、光の粒となってゆっくりと消えていくエル・バリエンテの姿だった。
彼の残したもの、それは地面に敷かれたポンチョ。その上には、丁寧に並べられた焼きオーク肉の欠片。
「……ありがとう」
彼女はかすれた声でそう呟いた。
また一つ、頭の中で思考が浮かぶ。
もしかして、このカードたちは本当に生きているのか? 意志があるのか? 魂すらあるのでは……?
だが、その疑問も空腹に勝てなかった。
肉に手を伸ばし、一口かじる。驚くほど美味だった。少し塩味が効いていて、ジューシーで、煙の香ばしさも加わり、まるで豚肉のような味わいだった。
夢中で食べ続けたが、徐々に胃が重くなってきた。彼女は豚肉や脂っこい食べ物に慣れていなかったのだ。それでも、満腹になるまで食べ続けた。
「ふぅ……」
深く息を吐き、体を後ろに倒す。
少しの休息、そして食事。
それだけで、体の重さも、心のもやもやも、少しだけ軽くなった気がした。
ゆっくりと立ち上がり、左手で以前放り出した魔法の杖を拾い上げる。
大きく一息を吸って、前を見据える。
目の前には、さらに下へと続く階段──
次のフロアが、彼女を待っていた。




