表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/53

25 仰せのままに

「『不死の妙薬』について耳にしたことは?」

「噂程度しか知りませんが。……先日も、『不死の妙薬』を口にした衛士が庚申待ちの後に行方不明になり、中毒で死んだと聞いています」


 中毒性の高い薬で、都中に蔓延している。高位貴族にさえ死者が出た。そのため、帝は禁制とした。

 松緒は、後宮に来るまで人の噂話には疎いほうだったから、市井しせいの者であればもっと詳しいだろう。


「そうだ。あなたにとっては庚申待ちの行事の成功に水を差されたようであまりよい話ではないだろう。主上おかみも残念がっておられた」


 なぜここで帝に話題が及ぶのだろうと思ったのだが、いまさらになって気が付く。

 今回の宿下がりを申し出た際に、何人かの女官から気遣いの文が届いていたのだ。


――行事を主宰せよとの命は、主上おかみの心遣いだったのね。「かぐや姫」が宮中で居場所を作れるように。


 松緒は帝をちょっと見直した。よくわからない思考回路を持つ宇宙人だけでもなかったらしい。と、思ったが。


「申し訳ありませんが、確認したいことが。主上おかみは、この身代わりの件は御存じなのでしょうか」

「いや。この件は一旦、おれのところで留めているよ。報告があったとはいえ、慎重に進めたかったからな。だが、「かぐや姫」に、ある嫌疑がかかっていることは承知されている」


 帝に報告されていなかったことにひとまず安心はするけれど、かぐや姫の嫌疑について話が及ぶとそれどころではなくなった。


「……姫様に、何の嫌疑がかかっているというのですか。不死の妙薬と関わりなんてありませんよ?」


 松緒は不安を押し殺して告げる。

 かぐや姫は深窓の姫君であって、犯罪に関わる余地など何もない。松緒も傍にいたのだから異変があれば気が付くはずだ。

 

「関わりがあるからこうして話しているのだ。現に、内偵の手が身近に迫っていたのを察したのか、かぐや姫はいなくなっている。……なんとかして後宮に呼び出せれば、内々にじっくり話も聞けたのだがな、彼女はそれを拒んだということだ」

「姫様がいったい、何をしたというのですか」

「不死の妙薬の流行を後押ししたと思われる」

「……なんですって」

「かぐや姫。月に帰ったとされる絶世の姫君と同じように評される彼女が、不死の妙薬を都に広めている」


 嘘です、と反射的に松緒は呟いていた。

 目の前の失礼な男は何を言っているのか。虚言で松緒を混乱させようとしているに違いない。

 松緒の「かぐや姫」は心まで美しい人だった。松緒を拾って、松緒とともに育ち、松緒をいつも傍に置いて、大事にしてくれた。


――老後は、椿餅を売りながら姫様と静かに暮らすの。


 かぐや姫は男嫌い。だれの求婚を受け入れなかったから、松緒が最期まで面倒を見ようと思っていた。年をとって、都中のだれも「かぐや姫」を気にしなくなり、しわくちゃの老婆となった「かぐや姫」でも松緒の姫様であることに変わりはないのだから。

 怒りで膝の上の拳がぶるぶると震えた。視界が滲んでいく中、かろうじて狼狽した東宮が映っている。


「私は信じません」


 松緒は一音一音をはっきり区切るように告げた。


「姫様を信じています。姫様が犯罪に加担するはずがありません」


 松緒は立ち上がって、東宮を見下ろした。


「協力が必要なのであれば、従いましょう。しかし、それは姫様の無実のためです。姫様が無実であることを証明するには、真実を見つけるしかないのですから。……それに、私自身、いなくなった姫様を見つけたい」


 松緒は一呼吸置いた。


「今のお話では、姫様が単に「巻き込まれた」可能性もあるかと存じます。ならば、一刻も早く姫様を見つけなければならないのですよね?」

「そのとおりだ」


 松緒は目を伏せた後、再度、その場で座り直して頭を下げる。東宮へ、臣下としての礼を取る。


「承知いたしました。……東宮の仰せのままに」

「よろしく頼む」


 こうして、東宮との密約が成った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ