2-15
「ちきゅう?」
つい幼い子どものような発音でそう言ってしまった真広は慌てて咳払いで誤魔化そうとするが、メイの言葉に聞き入っていて誰もそのこと気づかない。
「お前ら、地球の集合的無意識を知っているか?」
そんなもの、分かる訳がない。
「って知る訳ないよな。地球の集合的無意識。それはな、生命を育むことだ。その表面やら内部やらに住んでいる奴ら全員に、神の加護並みの安全で快適な空間を提供する。この星は生まれた瞬間に満々と水を貯めて空気を纏い、あらゆる場所を生命で埋め尽くすことを望んだ。
地球のこの望みは、少なくとも地球の上においては最も強力な呪いだ」
『呪い』という言葉だけが、やけに固い質感を伴って真広達の耳に届く。
「そう、呪いだ。なぜならこの星は、生命を育むにあたって常に王者を必要としているからだ。常に何か一つの種族に絶対的な保護を与えて、この惑星上でのゆるぎない繁栄を約束する。例えば、かつての恐竜のように。この惑星は自らが見定めた王者とその集合的無意識をあまねく地上に押し広げる」
「あれ? でも人間ばっかりエコヒイキしてたんじゃ、地球が自分で定めたっていう集合的無意識に、違反してるんじゃない? 恐竜のせいで滅んでいった生物なんか、たくさんいるでしょう? 人間も、大昔の環境汚染とか、私たちが引きこもる原因になった戦争なんかでもたくさんの生き物を絶滅させたって聞いたけど?」
「それは違う。地球の側からすれば、その表面に住んでいる生き物が勝手に争ってその帰結として滅んでいったとしても、知ったことじゃないんだ。生物たちに対して多様な環境や資源を提供し、生存可能な環境を維持する。最低限これだけをやっておけば、少なくとも積極的にルールに反したとは言えないだろう?
ただし、地球の場合はここからがややこしい。この最低限の環境を維持するというやり方は、元来地球が望んだものではない。むしろ、妥協の結果としての、受け入れがたい着地点ってところだ。
この惑星が本来求めたものは、全ての生物に積極的な庇護を与えることだ。地球上に住まう生物全てに神の恩寵を与えて、全ての生物が幸福に生きられる、宇宙空間を漂う楽園を作り上げる。
例えば、地球的な規模での大繁栄を約束したり、より幸せに生きられるように生物学的な進化を加速させたり。そういったものを提供して、文字通りの母なる星として存在することが、この惑星の原初の願いだった。
だが、この惑星の規模ではそれは不可能だった。大体からして、全ての生物がぶつかり合うことなく生活すること自体が不可能に近いのに加えて、この惑星は小さすぎた。単純に、あらゆる資源が足りなかったんだ。
小惑星が無数に衝突して出来たマグマの塊が冷えて固まって、海が出来て生物が誕生して。しこまでは良かったんだ。原初地球で少数の生物が生きていた時代は、地球の願いは問題なく果たされていた。
それから時代が下って、地球上に爆発的な生命の誕生が起きてからが問題だった。海から地上に生き物が進出したタイミングで、ふっと気づいたのさ。どこをどうひっくり返してみたって、全ての生物にとっての天国を作るのは無理だってな。
その時に、あたしたちが住んでいるこの惑星は変わったんだ。自ら望んだのか、それとも逃れようのない、必然的な成り行きだったのか知らないがな。この星は確実に、歪んじまった。
全てが無理なら、せめて一つだけでも。そう考えるのは、当然だ。だから、地球はある時を境にして、一つの生物種だけの味方をするようになった。そしてこの時から、この星は叶えられなかった自らの集合的無意識の代償を求めるように、自らが選んだ生物の集合的無意識に固執するようになった。生物の繁栄を約束すると同時に、選んだ生物種に集合的無意識の徹底的な行使を強要したんだ。ちょうど、冒険譚の主人公が死ぬまで冒険を強要されるみたいにな。だからこの星は宇宙の中でもある一つの生物種の集合的無意識が特に集合的無意識が強く現実に影響を与える、宇宙の特異点ともいえる存在になった。
例えば、恐竜なら爆発的な繁栄と多様化を促し、他の生物を歴史の舞台から消し去って、ただの食物に貶めるだけの力を与えられた。人類で言うなら、アフリカ原産の頭のいい猿に過ぎなかった人類に圧倒的な思考力を与え、それによって強化された価値や意味の力によって、地球の支配者としての地位を与えた。それから……いや、ここから先は後にしよう。
その一方で、そこからあぶれたものは地を這いずりまわって危険に身をさらして泥に塗れ、選ばれたものたちの踏み台にされるしかなかった。絶対的な勝者が決められていたせいで、そこからの反対解釈で絶対的な敗者たることが運命づけられちまっていたんだ。例えば、恐竜の時代に他の生物が日陰に甘んじて、生物進化の歴史の脇役に過ぎなかったようにな。
でもな、それが今の世界に対して、決定的な結果をもたらすことになったんだから、皮肉なもんだ。あたしらは、確かに世界の脇役だった。だが、脇役だということは、物語を遠くから眺めることが出来る、つまり、物語の観客たることが出来たってことだ。そんな傍観者の立場から言わせてもらえば、お前ら人間は、間違いなく、世界に呪われた。だがそれは、世界で最も幸福な呪いだ」
気づいたら一年ほど続けているみたいですね。
おかしい。もっと早く書き終わっているはずだったのに。
おかしい。起承転結の「承」が永遠に書き終わらない。
おかしい。書いても書いても先に進まない。
おかしい。世界観の説明は、サラッと終わるはずだったのに。
おかしい。キャラ表が二人分足りない(うっかり忘れてました。これから作ります)。




