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男女と馬鹿にされた女騎士はもう自分を偽るのはやめます〜泥を落とした宝石は輝く〜従順で献身的な幼馴染はもうやめます  作者: ユメミ


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3. ライスフィールド


「おい。なんでこの防具手入れされてないんだ?」

「あれ。おかしいな。模擬刀の補充………」

「なあ。なんか養護室の薬の在庫がないんだけど」


「淑女科何してるんだ?」


騎士科での最初の異変は些細な日常生活の《ちぐはぐさ》だった。


いつもあったものがない。

快適に過ごせていた時間が足りないもの探しの時間に潰される。

ケアレスミスの怪我人が増えた。


「なあ。ライスフィールド。お前淑女科のハルリッサと仲いいよな?抗議してこいよ」

「………ああ」


ライスフィールドはためいきをついた。

何故こうなる事を皆が予期できないのだろうか。


騎士科の雑事は本来淑女科が回すのが慣例だった。何故か。

淑女科は将来領地を統べる旦那の元領地経営の補佐をするのも大事な仕事だからである。

見目麗しくし社交を熟すことも大事だ。

だがそれ以上に大事なのは《貴族の仕事を熟すこと》だった。


 彼女達は領地を富ませ、戦があれば一人で切盛りし、領民も育て上げねばならない。

勿論後継者である我が子の跡取り教育を仕切ることも仕事だ。

全てを文官や家臣にやらせるのはリスキーである。

そんな前時代的な貴婦人教育は王都貴族学院では課されない。

男と女の得意不得意領分はあれどお互いの仕事を尊重しあうこと。

それがこの国の教育方針だった。

だから騎士科と淑女科は交流を持つ。

騎士科が野営をすれば淑女科は後方支援を行うのだ。

物資の管理、地形の陣取りも学ぶ。

騎士科と淑女科は運命共同体だった。

実際お互いの婚約者がいることも多かった。

将来の領主候補や貴婦人候補と言えた。


だから。


この数日の淑女科の怠惰は目に余った。

聞くと他学年は機能していた。

異変があるのは一学年のみだ。

ライスフィールドはウェストを探した。

単身よりも淑女科受けの良いウェストを引き連れて淑女科に急ぎたかった。


「あれ。ウェスト、しらね?」

「休暇届出てるな」

「ああ………。ナリッサのとこか」


ナリッサがここ最近姿を見せないのだ。

いつもウェストにまとわりつく犬のようだった彼女がだ。

流石にいつもそっけないウェストも心配になったらしい。

やっと子爵家のタウンハウスに赴いたらしいのだ。


大事ならもっと早く囲うなり気持ちを示すなりすれば良いものを。


やっとウェストは行動したことに、ライスフィールドは内心それを喜ぶべきか悲しむべきか分からなかった。

間近でその姿を見るのは不愉快だったからだ。




「致しかねます」


「は?」

「どういう意味………です?」


ライスフィールドは耳を疑った。

意味を汲み取れなかったのだ。


「ですから。致しかねますと申しました。

貴方は紛いなりにも次席様。

貴族のご令息でしょう。察してくださいませ」



ライスフィールドが通されたのは庭園だった。

ハルリッサの名を出すと彼女は不在で。

代わりに案内されたのは殿方がなかなか入らせてはもらえない花園。

淑女科が誇る《楽園》だった。

ただそこは見た目の華美さや麗しさに反した絶対零度の空気に満たされていた。


淑女科筆頭。アマリリス公爵令嬢マララは優雅にお茶に興じていた。

ライスフィールドは高位の令嬢に向けた騎士の礼をした。

だがマララ公爵令嬢は彼を一瞥もせず返しの挨拶もしなかった。

その場合。

騎士は着座を赦されず礼のまま佇むしかないのだ。

発言も赦されなかった。


その時間たっぷりと茶一杯分。


ライスフィールドの顎から汗が滴りだしたのを確認したのかようやく赦しがおりた。


そこは温室だ。

騎士の正装制服で小一時間佇むには苦行を伴った。

侍女から氷菓子が促されたのをがっつきたくなる気持ちを抑えて訴えた。


最近の騎士科の雑事の不備を。

淑女科の怠慢を。

今は些細だがいつか大事故が起こる不協和音を。

ギスギスした空気を。


「雑事………ね」


公爵令嬢マララのか細い呟きは聞こえなかった。

彼女は話は最後まで聞いた。

微笑みを絶やさず。

でも。

そこからでたのは完全なる拒絶だった。


「私達淑女科は。

《敬愛する》騎士科在籍のナリッサ・マークブック子爵令嬢の指揮下の元でないと活動致しかねます。

これらは。

一部淑女科の生徒以外の総意です」


ライスフィールドは。

とうとう来たなと内心ためいきをついた。


ただわかりきったことでもライスフィールドに何ができただろうか。


「………私も。ナリッサ子爵令嬢の騎士科での扱いに懸念はありました」


「………親友の想い人の前に一人の人間としてあの方を尊重しまして?」

「私が表立つと要らぬ波風が彼女にかかりました」

「その影の献身は………彼女を救いまして?」


ライスフィールドは自嘲した。

親友を好いている乙女に己が特別に何が出来ただろうか。

親友を焚き付け、仲間の軽口を諌め、彼女への当たりが強い勘違い女の視線を遮ってみたりもした。


この間の仲間うちでの会話は酷かった。

ウェストの軽口は度を超えていた。

ナリッサをなんてことないように扱うがあれは小心者のそれだ。


いつも中立派のライスフィールドも物申してしまうくらいだった。

俺だったなら。


気持ちがないならもっと突き放すし、礼を欠かない。

仲間と扱うなら人格否定など以ての外だ。


更に。

ナリッサの献身は騎士科一学年全体が享受していたのだから。


いくら好きな男に振り向いてもらえない様が哀れだったとしても。

それを馬鹿にする風潮はいかがなものか。


いつもおちゃらけた雰囲気のライスフィールドが物申したからだろう。

空気はしっかり白けた。

ウェストも機嫌が悪かった。


「なんだ?お前。ナリッサに惚れてるのか」

「………そう思われても俺は恥ずかしくもないし誇るね。

小心者のお前なんかよりは」


あの時。

明らかにライスフィールドとウェストの何かは分かたれた。

でも。

好きな女を防波堤にする男なんかに負けている。

こればかりは恋愛はままならない。



そこまで思考が傾きかけてライスフィールドは考えをやめた。

彼女と仲間以上に接することを諦めた自分が何が出来ただろうか。

予感がしたのだ。

彼女は。

もう帰ってこないのではないか。と。


なら。

ライスフィールドにはやるべきことがある。


「貴方も取り繕うの辞めましたの?」

「好いた女を蔑ろにする組織などクソ喰らえとは思ってます」

「まあ………。騎士様は苛烈ですけど」


次席も見捨てたか。

マララは扇の内部で口元を綻ばせた。

ライスフィールドの緑かかった瞳の奥の意思を認めてから。そっと扇を閉じた。


「首席殿は?」

「………遅すぎるとは思いますが。違和感には気付いたかと」

「それは察しが悪い男の典型ね」


「淑女科は《静観》でよろしいですね」

「騎士科は《再編》ですか?

他学年への根回しが必要でしょうね………」

「《抜本》が正しいかもしれませんね」


ライスフィールドは。

その大本の男が事態の異常さに気づいていないだろうことにためいきをついた。


過ごしてきたはずの方だ。


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