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04 奄美剣星 著 『エルフ文明の暗号文 29』

【梗概】甲殻虫が襲来し新大陸植民地辺境部が蹂躙される。港湾都市ダンケルクに集結した将兵33万を対岸にある要塞島ドーバーに脱出させることにシナモン少佐は成功する。そこへ飛行船でやってきた本国・ヒスカラ王国のオフィーリア女王が、新たなる勅命をレディー・シナモンに下す。

    29 優雅


 軍事要塞ドーバー島にある飛行場には、副王が乗船する〝アクロン〟と同型の飛行船が並んで係留されていた。ヒスカラ女王御召飛行船〝メイコン〟だ。

 シナモンと私は、侍従武官に案内され、そこの広間に通された。

 床には赤絨毯が敷き詰められ、壁には燭台風ランプ、天井にはシャンデリアで飾られている。

 大テーブル奥の席に座り、私達を迎えたオフィーリア女王は青い髪で、見た目こそ十五歳の少女に見える、だが、落ち着いた口調からは明らかに、その倍以上の風格を感じた。横には、従兄にあたるドンファン副王も、控えている。

 優男の副王が、

「レディー・シナモン。貴女がダンケルクで見せた知略、そして甲殻虫を操る〝旋律〟のレコード盤発見は、新大陸統治にとって、大いなる功績である」

 女王の低く、重みのある声が響いた。しかし、その言葉に賞賛の色はない。

「だが、三十万の兵を救っただけで満足されては困る。我が国が求めているのは、恒久的な支配だ。貴女が解析したあの『周波数』……それを用いれば、甲殻虫を意のままに操る『神の軍隊』となるだろう」

「陛下、それはあまりに危険な賭けです」

 シナモンが珍しく声を荒らげた。彼女の肩が微かに震えているのが、隣に立つ私にはわかった。

「あの〝旋律〟は、あくまで序曲に過ぎません。無理に外部干渉を強めれば、甲殻虫の絶対支配者である休眠中の〝王女〟の逆鱗に触れることになりましょう。ひとたび彼女が目覚めれば、新大陸にいる同胞をすべて焼き尽くす災厄となる可能性が高いのです」

「案ずることはない、少佐」

 女王は冷やかに、

「この飛行船〝メイコン〟には本国の科学者たちが、貴女の発見した甲殻レコードから周波数パターンを解析した〝音響装置〟初号機を運んできた。これは、エルフのレコードを上書きし、新たな命令を刻むための楔だ。貴女にはこれを持って、再びダンケルクへ向かってもらう」

 私は絶句した。王立アカデミーの傲慢な科学者たちが、安全な本国で、少佐のお手を早速〝毒〟に変えてしまったのだ。

「ドロシー博士、どう思われますか?」

 シナモンが私に視線を投げた。その瞳には、学友としての助けを求めるような色が混じっていた。

「……科学は、扱う者の『意図』によって刃にも薬にもなる。だが、この装置はあまりに『意図』が剥き出しだ、少佐」

 私の答えを聞き、シナモンは深く息を吐いた。

 その時、沈黙を守っていたドンファン副王が一歩前へ出た。

「陛下、装置の運用には、現場での微調整が不可欠。レディー・シナモンにはまだ、あの地で解読すべき〝扉の秘密〟が残されております。私が彼女たちを護衛し、全権を持ってダンケルクへ戻りましょう。」

 女王は、細い指で肘掛けを叩いた。

「いいでしょう。ドンファン、貴方に全権を預けます。……シナモン少佐、貴女には〝失地奪還〟のための鍵を持ち帰って欲しいのです」

 御召飛行船を出た後、その人は燃えるような夕日を見上げて呟いた。

「ドロシー博士。私たちは〝狭き門〟を自ら火を放つこともあり得るかもしれませんね」

 なんのフラグだろうか。私は胸騒ぎを覚えた。


  続く

【登場人物】


01 レディー・シナモン少佐:王国特命遺跡調査官

02 ドロシー・ブレイヤー博士:同補佐官

03 グラシア・ホルム警視:新大陸シルハ警視庁から派遣された捜査班長

04 バティスト大尉:依頼者

05 オスカー青年:容疑者。シルハ大学の学生。美術評論家。

06 アベラール:被害者。ジャーナリスト。洗濯船の貸し部屋に住む。

07 エロイーズ:被害者。アラスの寄宿学校教師。アベラールの妹。

08 シャルゴ大佐:シルハ副王領の有能な軍人。

09 フルミ大尉:ヒスカラ王国本国から派遣された連絡武官。

10 トージ画伯夫妻:急行列車ラ・リゾンで同乗した有名人。

11 サルドとナバル:雑誌社〈ラ・レヴュ〉報道特派員。記者とカメラマン。

12 フランクリン将軍(大将):ヒスカラ王国海外領土シルハ副王国駐留軍総司令官。

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