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捨てた王子の首を取るまで  作者: Eit


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7/19

7話

この国には2つの国立の学校がある。まず一つ、貴族たちが通う王立貴族学校、次に王立騎士学校。


貴族学校は、親の爵位が合格基準になる学校のため、努力の有無は関係ない。強いて言えば、どれだけ親が貴族としての地位を確固たるものにして来たかが、己の地位になる。無礼講なんて言葉は一切存在しない世界だ。


そこから、使用人用の学科や、魔法を得意とする学科、令嬢たち向けの花嫁修業を混ぜた学科など多岐に分かれるが、今は関係ないので割愛する。


大事なのは王立騎士学校。ここは難易度が世界一ともいわれる学校である。特に、今現在は、その色が濃い。陛下が、国民に信頼されている時代の騎士学校の難易度は尋常なものではない。倍率は200倍を超すといううわさもある。


平民、貴族、関係なく、実力のみが結果のすべてであり、年齢や性別は関係ないが、それによる優遇もないため、女も同じ試験を受けさせられる。また、王族騎士団という役職に就くためには、私のような特例中の特例以外は、必ずしもこの学校に入らなければならない。


貴族の二男三男の中は、貴族学校卒業後、実家での扱いに不満を持ち、騎士学校に入学しなおし、家督を奪い取ったという話があるぐらい、誇り高い学校だ。


「今年度より、抜本的にカリキュラムを改定する事となる。入学前の説明がなく、その点、申し訳なく思うが、不満があれば辞退してもらって構わない。それにかかる費用については王家が持とう。先日行われた武闘大会の結果により、学校へ戻された者についてもあらためて説明を聞いてもらいたい」


書面から顔を上げた殿下は、演習場の観覧席から下を見下ろした。


「今までは学科による区分がなかったが、今回三つの学科へ再編を行う。まず、剣術科、この科については、現行の騎士学校に似た指導となる。次に魔法科、この科については貴族学校と連携を取りつつ、改めて募集を掛けることになる。最後に、魔道剣術科。今回、騎士学校の合格基準には満たなくとも、魔法適正により合格としたものがいる。キミたちには、魔法の一般化の第一歩として真剣に取り組んでもらいたい」


会場がざわついた。当然だろう。魔法とは貴族だけが許された技術である。平民たちには、使う術がない。本や知識がないという話ではない。魔法には血が必要となるのだ。私の実家、ロス家を含めた、一部貴族の血がないと発動できない。


この、魔法を扱える血を持つ一族をめぐり、戦争すら起きる事がある。


だがその反面、独占化された力は磨かれない。この数百年魔法の進歩はどの国も無いと言ってもいい。だから、戦争などでは騎士たちに後れをとり、戦闘においては補助魔法レベルにとどまっている。風呂沸かす熱魔法やトイレの自動化の水魔法といった生活魔法において、魔法使いは確かに各国が奪い合う価値があるが、その戦争では使われないのが魔法というものなのである。


現に、私が剣を磨いた理由もそこにある。いざというとき、魔法使いは剣士に勝てない。近距離においては、もはやなすすべないレベルである。


それが現状である。


「同時に、新しい第一騎士団の編成をキミたちにも紹介したい。団長、ウイ・スカーレット。副団長、ルイ・カーセル。第一部隊長、アルベルト・ロージー。第二部隊長、ロキ・アラバスター、第三部隊長、ラニス・ロス。現在の7部隊編成を解体し、学校の学科数と同じ部隊数となる。ロキとラニの部隊に、配属となる者たちは、今年度新入生たちと同時に学んでもらうこととなる。同時に、今年度に限り、各部隊長を各学科の教師とする。俺からは以上だ」


ざわつぎが収まらない演習場で、30分後に各学科の教室に来るように指示が出される。私たちでさえ、騎士学校の改定について話を受けたのは、最近だ。殿下がどこまで先を考えているのか到底分かるはずもない。


アレンの傍仕えをしていたため、騎士学校どころか、貴族学校も卒業していない私が教師など、ましてや3か月前に開発を開始した技術をもって、抜本的な改変を行うなど、体は動いているが、頭は何もついて行ってはいなかった。


「ラニス・ロスと申します。今回、魔道剣術部隊の隊長を賜り、」


べちゃ。黒い制服に真っ赤なインクが付いた。


あぁ、これが学校。そういえば、そうだ。アレン王子と聖女と共に通った学校という場所は、何もいい思い出がない。また、これが始まるのか。


「俺は、貴族様に生ぬるい剣術を習うために、騎士団の試験を受けたわけじゃねぇ。お前みたいな男女に、習うもんなんか一つもねぇんだよ」


ばっと、後ろの方の列に座っていた、今回騎士団の中で、私の部隊に配属になった者たちが席を立つ。


「貴様ラニ様になんて口の利き方を」


片手で彼らを止める。今回の騎士団の合格者は平民も多い。そうなれば先日の武闘大会をそもそも見ていない者も多いだろう。そうなれば、実績のない私が教師など、不満だろう。


「第三部隊は、魔道剣術を扱う新設の部隊です。今回、この部隊が成功することを前提に、魔法をメインとする第二部隊の編成が決められました。それはつまり、今後、この国は、戦いにおいて魔法の使用を本気で考え開発していくということです。この部隊の成功とは、貴方たち一般市民が魔法の使用を成功させることにあります」

「は?」


別のものが手を上げる。


「先生は、ロス家の方ですよね」

「そうです」

「ロス家は魔法の名門です」

「そうですね」

「僕たちの家庭にもロス家の紋章が入った、水道技術や台所技術が少しずつですが入ってくるようになりました」

「それは何よりです。魔法技術を一般市民の方にも触れてもらう。それはロス家の目標とすることであり、値段を下げるために量産化する技術を研究してきたところです」

「薪を燃やさなくても火が燃える技術を見た時、風呂の蛇口から暖かい水が出た時、僕は本当に感動しました」

「ありがとうございます」

「ですが、……僕たちには血がない!」

「そうですね」

「魔法は貴族の血がないと使えない。だから、あなた方貴族が作った高価なものを、僕たちは平民は何年も、何十年も金をためて買っているのです。そんなことは、平民でも知る常識です。」


イラついた表情で話す彼としっかりと視線を合わせる。


「魔法とは、使用者の魔力を使った奇跡です。次いで、魔道装置とは、魔法使いが魔法を使い作った装置のことを言います」

「バカにしているんですか?」

「いえ、魔道装置の動力はなんだと思いますか?」

「それは、魔力に決まっています」

「そうです。魔力です。意外と知られていませんが、一般市民向けに作られた魔道装置は、技術上半永久的に動き続けます。言っていることがわかりますか?」


数秒の間の後。目を見開く。


「魔力はどこからきているのですか」

「貴方たちの体の中」


教室内がざわつき、後ろに座っていた騎士たちまでも驚いた顔をする。キミたちが驚くのはいかがなものかと思うが。


「私たちロス家を含めた魔法を扱う一族は、魔道装置の独占化など考えてはいません。何故なら、いくら金を持っている貴族と言えど、国民の数から考えれば、5%にも満たない資産しか持ち得ないからです。本当の意味で、金を稼ぐならば、相手にするのは貴方たち市民です。分かりますか?」

「……、わ、かります」

「つまり近年まで、魔道装置は別に私たちの魔力をとどめるタンクを必要としていました。何故なら魔法は一部貴族しか使えないからです。動力を量産できないものを、一般化するのは不可能です。ですが、最近召喚された聖女マリー様は、この世界に来た時から魔法を使うことができました」

「それは、聖女様だから使えるのは当たり前で」

「そう、皆、当たり前だとそういいました。ですが、ロス家はおかしいと思ったのです」


ばっと手のひらに炎を付ける。


「魔法とは血に魔力が混ざっているから使えるはずだった。異世界から来たマリー様は言ったのです。自分の世界に魔法なんてものはなかったと。その代わりに別の技術が発展していたと。魔法とはどれほど便利なものかわかりますか。炎を作り出すことも、植物を一瞬ではやすことも、大抵のことはたやすい。その技術が発展せず別な技術が発展していたということは、マリー様も元の世界でも魔法は使えなかったはずなのです」


_____では、なぜマリー様はこの世界で魔法を使えるようになったのか。


皆が息をのむ。


「聖女がこの世界に召喚されたとき、契約の儀式として、王族の血を一滴垂らしたワインを飲みます。その儀式がカギでした。何故一部貴族しか魔法が使えないのか。その謎を含めすべてが解けたのです」

「どういう、ことですか」

「魔力とはそもそも生まれた持った人類すべてが持っているものです。だから、魔力タンクなるものは必要なく、魔法使いが術式を組み込んだ装置さえあれば、簡単な魔道装置はどんな人でも起動できます。貴方たちはその中で保有量が多かったために選ばれたにすぎません。その魔力を、魔法として起動できるかどうか、それは血にかかっている。その血とは、王族の血を身体に持っているかどうか。マリー様の元居た世界にはその血を持っている人が一人もいなかったのでしょう。ですが私たちの世界は違う。貴族の中にも、魔法が使える人と使えない人がいるのは、保有量の差です。ある一定以上の保有量がないと起動できない」


一つ息を吸う。


「つまり、私たちロス家を含めた魔法を扱う一族とは、魔力保有量が多い一族というだけです。特別な血を持っているわけではない。魔法とは、王族の血を体内に取り込めば、理論上誰でも使うことができる。それが、近年ロス家が出した結論です」


あんなにざわついていた教室が静まり返る。


「貴方たちには殿下の血を身体に取り込んでもらいます。そして一番簡単な剣へ魔法を込める技術を学んでもらい、魔道剣士となってもらう。もし、魔道剣術が嫌というのであれば、辞めていただいて構いません。どうぞ来年度再受験してください」


彼らは気づいていることだろう。圧倒的な才能の差に。剣術科の生徒達の身体つきは、根本的に違っている。筋肉の付き方、背の高さ、根本的な実力と技術。剣術科に入るには努力だけではどうにもならない、才能という壁がある。


「……魔法を使えば、せ、先生のように線が細く、背が低く、力がなくとも、強くなれるということですか。わ、私は、先日の武闘大会で、先生が戦っているところを見ました。アルベルト騎士団長に勝つ姿を、この目で見ました。私は、アルベルト騎士団長に助けられた過去があり、アルベルト騎士団長の通っていた騎士学校を見て見たいと思い受験をしたんです。記念受験で、なのに、合格してしまって、で、でも、もし、アルベルト騎士団長と同じ王族騎士団に入れる可能性があるなら」

「なれます。強くも、そしてアルベルト部隊長と同じ騎士団に入ることも。夢ではなく現実となります。後ろの騎士団の貴方たちもです。第一騎士団で長い努力を続けてきて、くすぶっていたことを知っています。才能に打ちひしがれることも多かったことでしょう。ですが、私が貴方たちの世界を変えて見せます。この学科の合格は全て私が判断しました。貴方たちには魔法の才がある。それはロス家が認めるほどの魔力量です。腕が細く力がなくとも、魔力で力を増強すればよいのです。剣を打ち込むスピードがなくとも、魔法でスピードを補えばよいのです。もし、重い剣を振りかざされる時があれば、その剣自体を切ってしまう鋭い剣にしてしまえばいいのです。殿下から、1年で最強の部隊を作れと命を受けています。私は過去一度も主人の命に背いたことがありません。必ず貴方たちを強くして見せます」


完璧な研究結果が出ているわけではない。研究を含めた部隊だ。それでも、人を動かさなければならないとき、心を動かすだけの断言をしなければならないのだと、私は殿下から学んだ。上に立つということは、不安や心配を顔に出さず、分からない道を自信をもって進んでいくことなのだろう。


本当に向いていないと、心から思う。


武闘大会は魔法使いの出場が禁止だった。だから、ずるはいけないだろうと思って、そもそも魔法を使っていない。攻撃魔法なんてものは出来上がっていないものばかりで、今ロキたちが必死に作っている段階だ。剣の強化以外の魔法を使った近接なんて3ヶ月前から使い始めたわけで、この国の全員が素人に毛が生えたレベルだと言うのに。嘘ばっかり。何百倍の誇張だ。


そもそも、平民に殿下の血を与えるのだって今回が初めてなわけで、魔法が使えなかったら、どうするのだろう。私は研究に参加していないから、何も知らないのに。


あぁ、不安だ。何もかも。胃が痛い。


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