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星を見上げて(4/4)

「これでお話はおしまい」

 パタンと父からもらった大切な日記を閉じる。孫たちはこんな老婆の話をいつも楽しそうに聞いてくれる。今日も無言で集中して聞いてくれていた。

 孫たちが帰り、一人になった私は過去のことを振り返る。あれから色んなことがあった。夜空の下での宣言通り、私は大きくなると父の手伝いを始めた。父の平和を目指す活動は言うなれば戦争をすることが無意味なことに思えるような英雄を生みだすこと。戦争で利を得ようとする者の前に必ず立ちはだかる英雄を作ろうとしたのだ。もちろん簡単にはいくはずもない。英雄のために多くの命が犠牲になった。二クスが重要な情報と引き換えに命を落とした時は、父はとめどない涙をこぼしたし、アウィスが寿命で亡くなった時にはしばらくご飯に手がつかないありさまだった。

 捨てることのできない父は仲間の死に対してとても脆い。


 私は父の間近で父の手の届かない裏側の仕事を行ってきたけれど、父の隣にいつも母がいたように、私の隣にもいつもルクスがいた。あの日、私を守るどころか手を引かれたことが悔しかったらしく、ルクスは誰よりも努力して、いつの間にかに傭兵団でも指折りの剣士になった。そんなルクスと私はいつも二人で父を支えて、自然と私とルクスは恋仲になった。結婚し、子どもも生まれて初孫を見た時の父の喜ぶ顔は今でも忘れられない。


 もう暗くなった窓の外を見る。朝になれば外で遊ぶ子どもたちを見ることができるだろう。苦難の道だったが、父は世界平和をやり遂げた。大陸全ての戦争を止めたのだ。そんな父につけられた二つ名が『終戦の英雄』。人々は剣を捨て、その代わりに互いに手を取り合うようになった。もちろん、その平和はいつまでも続くものではない。父が成し遂げた平和はあくまで一個人の英雄性によるものだ。ならば英雄がいなくなれば人々はまた争いを始める。それを止めるのは父に続く後世の人々の責任。つまり私たちだ。

 晴天騎士団。それが父亡き後、私とルクスが立ちあげた組織だ。父の英雄性を維持しようとするための組織。個で英雄を為すことが無理なら集団で英雄を為してしまおうという考えのもとに生まれた組織だ。その初代のリーダーは英雄の一人娘である私が務めた。その役割も10年ほど前に子どもに譲った。ルクスも数年前に先立ってしまったし、後は私が眠りにつくのを待つ日々だ。

 未来への不安はある。子孫への期待と不安は表裏一体だ。清廉な組織でも時が経てば腐敗する。いずれ大陸に戦火が広がってしまう未来もあるだろう。けれど一度平和がなされた事実は消えない。死者はそれを眺めるだけだ。


 父は、人は死ねば星になると言った。『星の目』を持つ私にしてみれば、それは正しくもあり、間違いでもある。人は死ぬと生者の思い出の中へ行くのだ。そして生者が覚えている限り、死者もまた生者とともに世界を間近で見届けられる。生者が皆死者のことを忘れてしまった時に初めて、死者は星になるのだ。星になって月に抱かれながら遠くから生者の営みを眺めつづけるのだ。

 だから死者のことを決して忘れない父のあり方は死者にとって何よりの救いだった。自分が死んだ後の世界。それをずっと見ることができるのだから。そんな父のことを生者が忘れることはないだろう。父の為した偉業は語り継がれ、語り継がれていく限り、父は生者と共にあり続けるだろう。

 人々が平和を忘れない限りは、父が星になることはないだろうから。


星を見上げて 終わり

空に広がる物語 終わり

これで終了です。拙い文章ながら、ここまで呼んでくださった皆様ありがとうございました。


本文が短いのでちょっとあとがきを。この話は私が最初に考えた物語を短篇連作の形にして短く作り直したものです。元のお話だともっと長いし、傭兵やってるのは一時期だけだし(冒険者とか、狩人とかやってました)、父親との因縁もありませんでした。さらに本作品のヌーベスに当たる人間がハイテンション狂人女研究者という…。

短くしたのは長く書いていると途中で書けなくなるからです。書くことに飽きるというか、キャラクターの変化の途中でどうにも鼻につくようになってしまうもので。(異世界転生チートキャラを書ける人って素直にすごいと思います。自分には書けない)

何はともあれ無事ここまで投稿することができてよかったと思います。気が向いたらまた何か投稿すると思うので、よろしかったらまた見てみて下さい。

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