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星を見上げて(2/4)

「お父さんなんてもう知らない!大嫌い!」

「ステラ!」

 父の手を振り払い、背中を向けて駆けだす。トテトテと走って向かう先は私の秘密基地だ。

「お父さんなんて大嫌い!」

 傭兵団の本拠地の中にある木々の隙間に私の秘密基地はある。木板のクズを組み合わせて作った、幼い私が入るとそれだけで一杯になってしまう程度の粗末な秘密基地だ。だけど私が一番落ち着ける場所はここだ。宿舎には私の部屋もあるけれど、広いから何か嫌だ。狭くて暗いところの方が落ち着く。

「グスッ⋯⋯」

 胸の中に後悔が広がる。何と言うこともない親子喧嘩。私との約束を父が守ってくれなかった。一週間前の私の誕生日に、父はその日を祝ってくれると言っていたのに、その日父は帰ってこなかった。次の日も、そのまた次の日も。今日ようやく帰って来て、お詫びとばかりにたくさんの贈り物をくれたけど、私は父に誕生日の日に一緒にいてたった一言「おめでとう」と言って欲しかっただけなのだ。


 もちろん、それが難しいことは分かっている。父も母も多忙だ。二人は愛龍ディーに乗って大陸中を回り、戦争を止めようと頑張っている。それは幼い私にも分かる。父がやろうとしていることは今まで誰もできなかったことで、それを叶えるには生半可な努力では足りないことも。今日だって相当な無理をして時間を作ってくれたことは知ってる。

「でもでもでも!」

 それとこれとは話が別だ。父や母が恋しい私にとって、たまに会える日は特別で、誕生日を祝ってくれることが何より嬉しい。

「もうお父さん行っちゃったかな⋯⋯そっか。行っちゃったんだ」

「あらあら。こんなところにいたのね。探したのよ?」

 秘密基地で丸くなる私に野太い声がかかる。目の前には大きな体を小さく丸めて、秘密基地にいる私に笑顔を向ける厚化粧の男の人。

「ウィースゥ⋯⋯」

「んもう。泣かないの」

 ウィースが私の頭をポンポンと撫ででくれる。それで私は涙をこらえきれなくなった。ボロボロと涙を流す私にウィースは微笑みを浮かべて寄り添ってくれた。


「カームはもう行っちゃったわ。東部の方が怪しいみたいで、ソウラ一人だと手が足りないみたい」

「うん」

「拗ねるのもいいけどあんまり拗ねてばっかだと後悔しちゃうわよ?」

「分かってるよ⋯⋯」

 本拠地の広場にあるベンチに腰掛けて二人でお話する。今日はいい天気で、いつもは人が一杯なんだけどどうしてだか私の周りだけ人がいない。ウィースの顔を見ると、不思議と皆がどこかへ行ってしまう。

「でもぉ」

「あらあら。強情さんね」

 ウィースにぎゅっと抱きつく。ウィースの体はとっても固くて温かい。まるでお父さんみたい。だけど本当の父はもっと細身で、けれどウィースと同じくらいに固くて一緒にいるとウィース以上に安心できる。

「強情なのはカームと同じかしらねぇ」

「お父さんと同じ?」

「ええ。彼も強情よぉ。ヌーベス⋯⋯あなたのおじいちゃんと同じね」

「うん知ってる」

 そう言うとウィースは不思議そうに目をパチクリさせた。

「それはどういう⋯⋯」

「内緒」


 その後ウィースともう少しお話して本拠地の中を歩き回る。宿舎の近くに植えてある木の下で一組の男女が寄り添いあって眠っていた。

「あれ?トオラとアル?」

 晴天傭兵団副団長で『陽』の部隊長でもあるトオラと、後方支援部隊『地』の部隊長アルだ。二人は幼い私から見てもすごく仲睦まじい夫婦で、二人の間には7人も子どもがいる。トオラもアルもものすごい美形だ。二人とも40歳を過ぎてるのにトオラはますますかっこよく、アルもその美貌が衰えることがない。うらやましいと『地』の部隊にいる女の人たちが言っていた。

「⋯⋯うん。うん。そうだね。うらやましいよね」

 トオラはいつも気を張っていて、自分を偽る仮面を被っている。彼が気を休めることができるのは、アルのそばだけだ。そうなるまで大変だったと、以前アルがこぼしているのを聞いたことがある。

 度重なる仕事で疲れているのだろう。私は木陰で眠る二人を起こさないようにそそくさとその場を立ち去った。


「おや?そこにいるのはお嬢様ではないですか?探検ですか?」

「子ども扱いしないで二クス」

 眠る二人の横を通って団の建物の中に入る。宿舎とは違う仕事場の方だ。入り口でばったり出くわしたのは『鳥』の部隊長二クスだ。

 二クスは黒髪を後ろに撫でつけた目と体の細い男だ。実を言うと私は二クスのことが苦手である。

「いえいえそんな。カーム様とソウラ様の一人娘で在らせられるステラお嬢様に子ども扱いなどするはずがありません。これは敬意です」

 神経質そうな顔に笑顔を貼り付けて二クスは深々と頭を下げる。私に会うといつもこれだ。二クスは父とその周りの人物に過剰なくらいの敬意を表する。悪い人ではないことは分かっているけれど、正直気持ち悪い。

 二クスのこの態度はそのまま父に対する尊敬の念の現れだ。私にとっては行き過ぎに見える態度でも、彼にとっては自然なこと。二クスにそこまでさせる理由を私は聞いたことがなかった。


「⋯⋯ねぇ二クス。どうしてあなたはそんなにお父さんを尊敬しているの?」

「カーム様が私にとっての英雄だからです」

「英雄?」

「はい。ステラお嬢様は私がどのような経緯で晴天傭兵団に入ったかご存知ですか?」

 知らない。私はブンブンと首を振る。

「左様ですか。わたくし実は、今はもう存在しない小国の生まれでして、カーム様はその敵国に当時雇われていました」

 はて。だとするとおかしな話だ。その状況だと父は敵。ならば恨みこそすれ尊敬する理由がない。そんな私の想いが顔に出ていたのだろう。二クスは苦笑する。

「晴天傭兵団という素晴らしい集団に生まれたステラお嬢様には分かりにくいことかもしれませんが、その国に生まれた者が皆、その国に愛着を抱くというわけではありませんよ。特に私の国はひどいところでしてね。民から富を略奪して、一部の富裕層だけがいい汁を吸う。そんな国でした。当時私はその国の兵士。朝から晩までこき使われていましたよ」

「そう、なんだ」

 二クスが生まれた小国を語る表情は険しい。よほど生まれの国にいい感情を抱いていないようだ。

「そこにカーム様たちを雇った別の小国が侵略しに来ました。愛国心など皆無な兵士は戦うこともなく降伏。そうでなくとも相手は当時『蒼穹剣』と言われた剣士カームと『太陽姫』ソウラ。勝ち目なんてなかったのですがね。私も早々に降伏したかったのですが、ついてないことにその時の私は王宮に勤めていまして、トチ狂った王が私たち兵士を魔法で縛り、生きた盾として扱いました」

「ひどい⋯⋯」

「ええ。ひどい話です。その王宮に攻めてきたカーム様とソウラ様は王を前に立ちました。王は『余計な人の命を失いたくないなら今すぐ帰れ』とのたまいました。ですがちょっと冷静になれば分かります。カーム様は敵国に雇われた傭兵で、我々は敵です。魔法で縛られて身動きの取れない我々ごと王を殺すのが当然。しかしカーム様は我々を殺さなかった」

「どうして?」

「さて。カーム様の真意は私には分かりません。ただ転移の使えるカーム様に兵士の壁が機能することはなく、王と宮廷魔法使い筆頭だった王妃は死亡。結果、我々の命は救われました」

 二クスは昔を懐かしむように微笑んでいるが、まだ疑問は残る。それだけなら二クスが父を英雄視する理由がない。それを聞くと二クスは穏やかな顔で微笑んだ。

「私にとってはそれが全てです。あの時私は死を覚悟した。目の前の傭兵は私達ごと斬り殺すつもりだ。そうでなくとも敵兵を生かしておく必要はない。しかしカーム様は私を殺さなかった。長年憎くて憎くてしょうがなかった王を殺して見せたカーム様は、九死に一生を得た私にとってそれこそ英雄に、輝かんばかりのお人に見えたのです。それから私達盾にされた者たちは傭兵団に入り、私はこうして『鳥』の部隊長に見いだされました。⋯⋯今では生き残っているのは私だけですが、誰も後悔はしておりません。私はあの時見た輝きを信じている。そしてそれは間違っていると思ったことはない。カーム様は必ず願いを叶えてみせます。私はその手伝いを影ながら行うだけです」

 じっと二クスの背後を視る。⋯⋯なるほど。確かに二クスの言う通り誰も後悔はしていないみたいだ。彼「ら」からも父に対する深い尊敬の念が伝わってくる。

「ですからステラお嬢様もお父上のことを恨まないであげてください。カーム様は平和を為すことと同じくらいに、あなた様のことを大事に思っていらっしゃいますから」


 二クスの言う通り、晴天傭兵団の仲で父は本当に尊敬されている。桁外れな剣の技量と戦場では無敗という戦歴。だというのに人当たりがよく、下部の傭兵にまで目を向けている。父が部隊長を務める『空』の部隊は二クスのように父を崇拝する者が多いし、おおよそ欠点らしい欠点がないと言われているのが父だ。

 けれど時折父が見せる後悔の表情。背負った屍の数の多さ。大好きで一緒にいたいと願う父だけど、父の全てを理解できているとは言えない私だ。その点母は父が大好きで、私も大切。剣を振るのがご飯よりも好きで、やっぱり父のことが世界一。とても分かりやすい。母は見たままが全てだ。


 父のことを知りたいと思った。私との約束を何度も破る父だけど、それでも父のことが好きだから。好きだから知りたいと思う。私の足は晴天傭兵団団長室へ。アウィスのところへ向かった。

「おう。ステラか。どうした?」

 団長室の扉の取っ手の位置は高い。私が腕を目一杯伸ばして扉を開けると、穏やかな笑みを浮かべたアウィスが黒塗りの机の後ろに座っていた。

「げ!」

「んだよステラも来たのかよ」

 そしてアウィスの膝の上にいるのは赤髪に銀色の瞳の少年。整った顔立ちは両親そっくりで、生意気な態度は両親に全く似ていない。

「ルクス⋯⋯」

 げんなりした表情を浮かべる私にルクスはむっとした顔を見せる。

「なんでお前が後から来たくせにそんな顔すんだよ!」

「こらこら。ルクスもステラもケンカするな。仲良くしろ⋯⋯とは言わんがせめて俺の耳元で大声を出すな」

 呆れた様子のアウィスにルクスはしょんぼりする。齢こそ同じ10歳だが、私と比べるとルクスは少し子どもだ。父は7人兄弟の中じゃ一番剣才があるとは言っていたけど、まだ本格的に剣の修行を初めていないルクスは私にとってただの生意気な弟分でしかない。

 そういえばその話をしていた時父は嬉しそうな、悲しそうな顔をしていたっけ。

「ごめん。アウィス」

「俺のことは団長と⋯⋯まぁいいや。ところでステラ今日はどうした?カームとケンカしたらしいが、慰めてもらいにきたのか?」

 ニッと頬を吊り上げて笑うアウィスに私はぶぅたれる。

「違うよ。お父さんのことではあるけど⋯⋯あのねアウィス。私にお父さんのことを教えてくれない?」

「カームの?」

 ふむとアウィスは無精ひげを生やした顎に手を当てる。

「カームさんの?アウィス!俺も聞きたい!聞きたい!」

「だからうるさいって⋯⋯。それでカームの何が聞きたいんだ?」

「アウィスから見てお父さんはどんな人?」

「どんな人、か。またあいまいで答えにくい質問だな」

「カームさんはかっこいい!それで十分だろ」

「ルクスは黙ってて」

「んな⋯⋯」

 しょんぼりといった風にルクスはへこたれる。かっこいいとか、かっこ悪いとかどうでもいい。私が聞きたいのは父の内面や過去の話だ。後、父がかっこいいのは当然だ。

「カームは責任感が強くて、不器用な男だよ」

「不器用?」

 今まで聞いたことのない父への評価だ。

「ああ。カームは捨てきれないし、割り切ることも苦手だ。他の奴ら⋯⋯俺も含めて当然のように捨ててしまって割り切るものを、あいつは全部抱え込んでる。それ自体はすごいと思う。けど一人じゃ到底無理な話だ」

 だから一度限界が来た、とわずかに目を逸らしてアウィスは言う。

「限界って何だよ。カームさんが無理してるとこ見たことないぞ?」

 意味が分からないという風にルクスは首をかしげる。

「そりゃそうだろうな。なんせルクスやステラが生まれるずっと前。どころかカームとソウラがまだ出会ってすらいない頃の話だ。俺もまだ団長じゃなかったし、カームも15歳の子どもだった」

「お母さんが隣にいないお父さんなんて想像できないな」

「ステラにとってはそうなんだろうなぁ。⋯⋯あんまり俺から言うことでもないが、昔カームにはソウラではない大切な人がいてな、その人をカームは守り切れなかったんだ。少なくともあいつはそんな風に思った」

 ⋯⋯「二人」の感情は後悔と苦笑い。何となく、アウィスの話と「二人」が深い関係にあることが分かった。

「それでカームは一度壊れた。立ち直れたのはソウラのおかげだな。ソウラがカームの抱えている荷物を半分持つと言ったんだ。それでカームは何とか立ち直れた。まぁ、二人が今の立ち位置に落ち着くまでかなり時間がかかったがな」

 しわの増えたアウィスの顔に深い笑みが浮かぶ。⋯⋯見れば二人とも安堵している。アウィスのお墨付きをもらったことが嬉しいのだろうか。

「⋯⋯ところでステラはさっきからどこに目を向けてんだ?そっちは壁だぞ?」

「あ、ううん!?なんでもないよ。ちょっと壁のシミを数えてただけで」

「カームの話をしてほしいって言ったのはステラだろうに⋯⋯」

 なんとか誤魔化せたかな?危なかった。二人のことはできるだけ皆に内緒にしてほしいと、二人に言われているから。このことがばれたら皆が驚くからと。

「でもそっか。ありがとアウィス。お父さんのこと、少し詳しくなれたよ」

 にこっと笑ってアウィスに背を向ける。

「そうかい。また来い。団長の仕事はほとんどトオラに任せてあって俺も暇だからな」

 アウィスの柔らかな声を背に私は団長室を出て行った。 


 今度はどこへ行こうか。仕事場を出て傭兵たちの修練場へ向かう。そこではたくさんの傭兵たちが鬼気迫る様子で剣や槍を振っていた。でもその一角で剣を振っている人たちは素人の私から見ても別格だ。

 父が率いる晴天傭兵団の精鋭『空』部隊。父と母を含めてたった20人しかいない部隊だけど、一人一人が一騎当千の傭兵だ。集団でいるからあまり目立たないけれど、二つ名持ちになるほどの実力者がたくさんいるのだと、アウィスは言っていた。そういえばルクスが将来はこの部隊に入りたいと言っていたような。目の前に広がるのは怒号飛び交う中で何度も叩きのめされる隊員たち。剣の腹で顔面を打たれ、蹴りで遠くに飛ばされている。⋯⋯ルクスではこの部隊に入るのは無理なんじゃないかな。入ったら1日たたずに物言わぬ死体になりそうだ。それに死なれると私の後ろをついてきそうで困る。

「⋯⋯ああ、ごめんなさい。でもルクスがずっとついてくるのはちょっとなぁ」

 私を叱りつける二人にごめんなさいしてからも、しばらく『空』部隊の訓練をぼーっと眺める。父と母がいない『空』部隊の訓練を取り行っているのはマサムネと言う黒髪黒目の男の人だ。1対17の戦いで、マサムネは隊員たちをちぎっては投げ、ちぎっては投げしている。両親ほどではないにしてもマサムネもかなりの実力差だ。実際傭兵団の中で両親と戦いになるのはマサムネだけだろう。


「よし!今日の訓練はこれで終わりだ!最近気が緩んでんぞ!そんなんでカームさんたちを支えられると思ってんのか!」

「はいっ!」

「返事が小さい!もう一回やっとくかぁ!?」

「はいっ!!!」

「よろしい!解散!!」

 マサムネの号令で隊員たちはおぼつかない足取りで修練場を後にする。だけどそんな隊員たちとずっと一人で戦っていたはずのマサムネは涼しい顔だ。また槍を振ろうとして、私と目があった。

「おりょ!そこにいるのはステラちゃんかい?こっちおいで~」

 マサムネは私と目が合うと軽薄な口調で手招きした。

「マサムネお疲れ様」

「はは。可愛いステラちゃんにそう言われると嬉しいなぁ。けどその言葉は10年後に言ってほしいよ。生憎俺はロリコンじゃないからさ」

「ろりこん?」

「ああ⋯⋯いや、なんでもない。俺にしか通じない俺だけの言葉ってやつだな」

 誤魔化すようにマサムネは笑う。⋯⋯この笑いはどこか二人のことを誤魔化す私と似ている。

(そういえばマサムネって変といえば変なんだよね⋯⋯)

 マサムネの背負っているものに形の違うものが二つ。他と違ってはっきりとした形がなく、遠くから来たような、存在感が薄い感じ。ともかく、他の人とは一線を画したよくわからない人。それがマサムネだ。

「ふーん。そうだ。ねぇマサムネ聞いていい?」

「なんだい?」

「マサムネから見てお父さんってどんな人?」

「カームさんか⋯⋯」

 むむむとマサムネは考え込む。

「そうだなぁ。色々言えることはあるけど、やっぱり頼れる人。これに尽きるよ」

「そっか」

 目新しい見方ではなかった。だけどマサムネの話にはまだ続きがある。

「そう。俺はよくカームさんやソウラさんと肩を並べて戦うけど、戦いの中で案外頼りになる人って少ないんだよ」

「そうなの?」

「そうなの。ちょっと気を緩めた時に不意打ちで命を奪われるかもしれない。それが戦場だ。そんな中で基本頼りになるのは自分だけだ。仲間は信じてるけど、最終的に自分で何とかしないといけない。⋯⋯俺みたいにチート植え付けられて強くなった奴ならなおさら自分だけが頼りになる」

 「ちーと」の意味は分からないが、納得できる部分もある。二人の片割れもよく頼りにできるのは自分だけだったとか、そんなことを言っていた。

「だけどカームさんは違う。カームさんがいればどんなに危険な戦場でも安心できるんだああ、この人がいれば大丈夫だって。危なくなったら助けてもらえるって思える。頼ってもいいと思える。そんな人はカームさんとソウラさんくらいだよ。二人もそうなんじゃないかな。カームさんはソウラさんを頼りにしてて、ソウラさんはカームさんを頼りにしてる。お互い信頼してるからあの二人は折れない。曲がらない。そんな人たちだから俺みたいな奴もついていきたいと思ったんだ」

 ニッと笑うマサムネからは両親への深い信頼を感じることができた。


ウィースは父を強情だと言う。

二クスは父を英雄だと言う。

アウィスは父を不器用と言い、ルクスはかっこいいと言う。

マサムネは父を信頼していると言っていた。

 父に対する色んな想いを聞くことができた。想いの形に違いはあるけれど、皆父のことを大切に思っている。なら私は?父のことは好きだ。だけど大事なのはその一歩先。私は大好きな父のことをどう思っているんだろうか。

「⋯⋯」

 二人に目を向けてみるも微笑みを見せるばかりで何も答えてくれない。自分の想いの答えは自分で出せ、ということか。

「後は⋯⋯」

『私に聞いてみるというのはどうかな?』

「うわっ!」

 耳元で急に声がした。振り向くとそこにはうすぼんやりと輝く羽の生えた蜥蜴。ドラゴンがいた。

「デ、ディー!?」

『然り』

「然り、じゃないよ!なんでここにいるの!?お父さんは!?」

『案ずるな。我は幻想龍ゆえに我だけなら想いを通わせるものがいるならどこへでも行けるのさ』

 七色に輝くディーは誇らしげに笑う。ディー。ディーは父が戦い、勝利し、想いを通わせた世界にごく少数しかいない真なる龍だ。世界には真名を持つ龍と真名を持たない竜がいるけれどディーは真名を持つ龍。「ディー」というのも愛称で、真名は父しか知らない。

「そ、そうなんだ」

『然り。とは言え今のこの身は我の分身体だ。我が身はカームを守っているから安心せよ』

「う、うん」

 耳に心地よく響くディーの低い声を聞くと、否応なしに安心させられる。その声を発しているのが蜥蜴に見間違う小さなドラゴンだと思うと、複雑な気持ちにかられるが。

「それでディーはどうしたの?」

『うむ。カームからの伝言を預かってきた。⋯⋯分かってほしいとは言わない。でもごめん。だそうだ』

「うぅ⋯⋯」

 父の言葉に頭が下がる。ケンカをしたと言っても私が一方的に言いたいことを言っただけだ。父が悪いわけでは決してないのに、それでも父はごめんと言うのだ。

『ステラも反省はしておるようだな。ところでどうして今日はカームのことを聞いて回っておったのだ?』

「見てたの?」

『うむ。いつ声をかけようかと思っていったのだが、我も聞いていて楽しかったの』

 蜥蜴の体で器用にウインクしてみせるディー。

「見てたのなら言ってくれれば良かったのに」

『我がいると分かったら、彼らも本音を言わなかったかもしれんぞ?』

 ディーと父は精神的に深いつながりがあることは団の誰もが知っていることだ。かといってディーの見聞きしたことが全て父に伝わるかと言うとそうではない。けれどそんな勘違いをしている人も少なくないのが現状だ。

「そう。⋯⋯ならディーはお父さんのことをどう思ってるの?」

『カームは誰よりも濁りのない、純粋な奴さ』

 ディーはパタパタと私の前まで飛んでくる。

「純粋か。ディーはお父さんのことをそう思うんだね」

『ああ。我はカームに真名を教えることで彼の者とつながりが生まれている。カームの心象世界は混じり気のない大空そのものだ。それはからだが、くうだからこそ、多くのものを詰め込むことができ、混じり合うこともとりこぼすこともなく、存在し続けることができる。ゆえにカームの心のそらはどこまでも美しい。だからこそ我はカームと契約したのだよ』

 10歳の私には難しい話だ。回りくどい。そうでなくともディーの話は回りくどいことが多いけれど。

『理解できなんだか。まぁカームは純粋だということを覚えておけばよい』

 小気味のいい笑い声を上げて、伝言はしたとディーは消えた。

「純粋で、空っぽ」

 父について余計に分からなくなった気がする。だけど気づけば空は夕暮れから夜へと移ろうとしていた。

「夕飯の時間だ」

 食事時を告げる3度の鐘。私は食堂へ急いだ。


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