投げキャラVS魔法使い 『すかし投げ』
一瞬の暗転の後に十字の光が上がったことは、祠から離れた村からも見て取れた。
執事はそれを、紅茶片手に窓より眺めている。
「どうやら間違いないと思われます、お嬢様。異世界からの戦士が来たことは」
「ついにこの日が……あわわ」
「その慌てる口ぶり、いくつになっても直りませんねえ」
困った様子で茶をすする執事と、美しい顔を崩さないまま「あわわ」とつぶやく女騎士。
彼らは知らなかった。その異世界からの戦士が、ドラゴンを倒した上で、新たな挑戦者と相対していたことを。
「異世界くんだりまで来たかと思えば、開幕五連戦だぞ。こんな代わり映えのしない焼け野原で何度も戦わせやがって。トレモか!!」
ドラゴンの腹の上で、威勢よく声を上げるロザリオマスク。だがこれは虚勢であった。
相次ぐ激戦で、投げキャラの体力にも、とっくに限界が訪れている。
火傷、裂傷、打撲、流血。ドラゴンを超必殺技で投げる前に彼が言っていた言葉に従うのであれば、もうドットしか体力は残っていないはずだった。
突然現れた、まだらのローブの魔術師が、何者なのかはわからない。しかしロザリオマスクのことを警戒するかのように、離れた場所からヤツはこちらを見ている。
手に持つねじれた木の杖を掲げると、魔力が形成した火球が生み出され、ゆっくりと解き放たれた。
ファイヤー・ドラゴンが倒され、あちらこちらの炎の勢いも弱まりつつあるこの地にて、新たに一発打ち込まれたファイヤー・ボール。
「根性値ぃ!!」
自らを奮い立たせるために頬を両手でピシャリと叩き、ロザリオマスクは前に跳んだ。炎を避けて攻撃を喰らわせるために。
シスター・コインはそんな彼を見て、もう止める言葉をかけることすらなかった。おそらく彼は、止まらない。それはわかった。ならば、祈りだ。
五度目の戦いに赴くレスラーに対して施した、治癒の祈り。わずかばかりの時間しか祈れず、どの程度の回復効果が見込めたかはわからない。
しかしこのわずかな体力が、ロザリオマスクの奇跡の呼び水に、なるかもしれないのだ。
対戦相手を前にしたロザリオマスクは、後ろを振り返ることはなかったが、背後のシスターに感謝をしていた。
彼女の祈りで、自分にはまだワンチャンスがあると、信じることが出来たからだ。
ところがであった! 信じられない出来事が、直後この男を砕く!
火球の魔法を放った魔術師は、これを飛び越えてくるレスラーに対し、杖の頭をぐいと向ける。
するとねじれた木の杖はぐんぐんと伸び、ジャンプ中のロザリオマスクを、遠距離から空中で叩き落としたのだ!
しゅるしゅると縮んで魔法使いの手に戻り、即座に元のサイズになる杖。
すると今度はこの魔法使い、杖にまたがってふわりと宙を舞った!
驚異的なジャンプ高度は、ロザリオマスクのものと非常に似ている。違っていたのは、その緩やかさだ。物理法則を無視したゆるふわ加減である。
かと思えば今度は、杖の先端をロザリオマスクに向けて、ぐるぐるとドリルのように回転しながら魔術師は急降下してくる。
変幻自在のトリッキーな動きで、まだらのローブがひらりとめくれ、魔法使いのその顔が明らかになったのだが。
あらわになったその面構えは、意外にも幼女の如きあどけなさであった。
有り体に言ってロリである。
より特徴的なのは、頭部に生えた獣の耳であった。まだら模様の猫科の動物を思わせるこの耳をローブで覆うことにより、小さき体を大人の身長に見せかけていたのであろう。
そんな愛らしい耳もいっしょにくるくると回りながら、ドリルステッキで魔術師はロザリオマスクに攻撃を仕掛けてくる。
跳んだところを伸びるステッキで迎撃され、起き上がりにジャンプドリルで追い打ちをかけられ。
とっさに立ってガードしてこれを防ごうとしたのだが、急降下のドリル攻撃は、レスラーの目前にすたっと着地する。
「何っ!? ジャンプすかしだと?」
驚くロザリオマスクの頭を、幼き獣人はむんずとつかみ、覆面の顔に対して手持ちの杖で折檻のような連続打撃!
「のじゃっ! のじゃっ! のじゃっ!」
「ぐっ、ぐおっ、ぬあっ、ぐあーっ!!」
獣人幼女は独特の叫びでレスラーの頭を何度か叩き、なんと……。
ロザリオマスクを倒してしまったのである!
KOされて気を失い、為す術なく地を這う大男。その上に立つ、魔術師幼女。
「困ったものなのじゃ。聖遺物をぶっ壊すために遣わせたのに、結局こんな厄介な男を呼んでしまうとは……」
「聖遺物を壊すために……遣わせた……?」
まだらのローブの獣人幼女の言葉に、疑問を感じるシスター・コイン。なんでも疑って理解しようとするのは、彼女の性質なのかもしれない。
その声に反応した魔法使いは、びっくりしてその場で垂直ジャンプ。やはりロザリオマスクと同じような、高い跳躍力である。
まっすぐふわりと浮かぶさまは、バーチカルのじゃロリ獣娘マジックユーザー。
ジャンプ頂点からシスターに対して杖を向けると、またもやしゅるしゅると伸びて遠くから襲い掛かってくる。
「きゃっ!」
しかし杖は、聖遺物の『コイン』の結界に跳ね返された。
ロリ獣人も「のじゃー」と驚きを隠せない。
「聖遺物はやっぱり厄介なのじゃ……。今から取り上げるのは難しそうだし、仕切り直しなのじゃー。超必殺技一発でやられるとは、火竜もまだまだ弱っちいのじゃ」
「もしかすると、あなたは……。火竜を操る魔術師ですか? 聖遺物を破壊するために、このドラゴンを遣わせたということですか……?」
シスターは、ロザリオマスクの行動や言動に驚きすぎて、他にも気になっていた問題については、戦いの間ずっと棚上げしていたのだ。
例えば何故、聖遺物を入手する直前に、火竜がこの地を焼きに来たのか。
オーガに率いられたかのようなゴブリンが、集団で襲ってきたのか。
魔法生物のスライムが、突然焼け野に現れたのか。
火竜が再び舞い戻り、レスラーを倒そうとしたのは。何故なのか。
「あなたが、わたしたちを、狙って……!」
「のじゃっ」
コインの言葉に答えることなく、魔法使いは杖に向かって一声発した。
するとロリ獣人はテレポート。倒れた火竜の首の上へと、瞬時に移動していた。
そのまま今度は、杖で空間をごにょごにょとかき混ぜる。別空間に移動するための穴が、広がっていくのがわかった。
「でっかい穴を作るのは大変なのじゃー。ロザリオマスクごときに負けなければ、背中に乗って飛んで帰れたのに……。やれやれなのじゃ」
「おい、待て……!」
文句ばかりのロリ魔法使いに呼びかけたのは、倒された大男である。
意識を取り戻した、ロザリオマスクであった。
だが彼は、どんな攻撃を受けても即座に立ち上がっていたこの男は、今回は起き上がることすらできなかった。
戦う力が、まだ回復していないのだろう。これほどの連戦の後だ、当然である。
ロザリオマスクは地に這ったままで魔法使いを睨み、質問を投げかけた。
「お前、俺を『投げ』たな……? 空中からの攻撃をガードしようとした俺を、ガードの上から、『投げ』た……! ガードを『投げ』で崩せると、何故知っている」
「……そっか。聖遺物を手に入れるためには、待ち構えたほうが良いかもしれないのじゃ。じゃー、いろいろ知りたければ、追って来ると良いのじゃ。火竜といっしょにダンジョンの奥で待っているのじゃー」
「ふざけるなこの野郎! 何者だお前は、名を名乗れ!!」
振り絞ったロザリオマスクの声に対し、拍子抜けするような調子で、魔法使いの獣人幼女は答えた。
「ノージャガー」
広がった転移の大穴は、魔法使いと火竜を飲み込み、テレポートで姿を消した。
* * *
俺の開幕五連戦は、こうして幕を閉じた。
ダンジョンまで追ってこい、だと……?
いいだろう、ノージャガーとやら。こっちだって投げられっぱなしではいられない。
ダンジョンだろうがなんだろうが、全部投げ飛ばしてやろうじゃないか!
――ロザリオマスク(談)
* * *
これにて、異世界転移開幕五番勝負編、終。
そして次回、異世界二回転!! 新章突入!!
対戦者、『その辺にいる』チンピラ!!




