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投げキャラVSドラゴン 『読み勝つ』

「わたしは無事です!」


 心配するレスラーの耳に、聞き覚えのある声が元気良く響く。

 シスター・コインは燃やされることなく、光の柱の中にいた。その胸元には、聖遺物である銀の『コイン』が静かにたゆたっている。


「祈りで生み出していた結界が、急激に力を増して……。恐らく聖遺物がわたしを守ってくれたんだと思います。ですから、無事です!」

「ははははは……良し!」


 ロザリオマスクは笑って結界にチョップを一発軽くかます。

 鈍く響く「ゴィン」という音とともに、立ち小パンチは跳ね返された。


「ガッチガチの壁だな。これは冗談ではなく、本当にシスターが俺にとっての画面端になったということか……」

「そんなことより、あなたは無事なのですか……? あなたのことも、この結界が守ってくれればよかったのに……」

「俺かね? 満身創痍だ。もう体力はドットしか残ってない」


 スライムに溶かされた分は一度回復してもらったが、その後のドラゴン戦で炎の息(ファイヤーブレス)をガードして5回の削り、火球の直撃と数回の削り、胸元への噛みつき、そしてつい今しがた全弾直撃の炎の息(ファイヤーブレス)

 とっくに死んでいておかしくないダメージ蓄積だ。立っているのも不思議なくらいだが、ロザリオマスクは「体力がゼロになるまでは問題なく動ける」と豪語する。


「もっとも、ここまで体力が減ってしまえば、もうこれ以上のダメージを受けることも、必殺技をガードすることも……出来はしないがね」


 シスターに広い背を向けて、男は前に向かう。向かう先にいるのは、飛来し地に降りる猛威。

 火竜であった。


「そんなボロボロの状態で、まだ戦う気ですか……!」

「なあに、これ以上のダメージを俺が喰らわなければいいだけのことだ」

「そんな無茶な!」

「無茶でもないさ。むしろこれはチャンス! 戦いで俺のゲージは溜まっている。今度こそファイヤー・ドラゴン・バスターで、投げ飛ばしてやる! 要はつかんで――投げてしまえばいいのだろう?」


 不敵に笑って近づいてくる男に対し、火竜は炎でなく、威嚇の咆哮を浴びせた。しかしロザリオマスクは動じない。

 続けざまに放たれる竜の尾の横薙ぎ。これはガードで体力を削られることもない、通常技の扱いであると、最初に受けた段階で彼にはわかっていた。

 ならばガードで凌ぐか? いいや違う。

 先んじてロザリオマスクは、しゃがんで平手打ちを連打していた。

 レスラーの規格外の力を恐れた火竜は、自分の攻撃のみが届く間合いを保って、長い尾を振って攻撃してきたのだ。

 お互いの距離は10メートル近く離れている。竜の尾はロザリオマスクに当然届くが、男の平手は何もない空を突くのみである。

 だが、これが功を奏した! 竜の尾がレスラーの横っ腹に叩きつけられる寸前に、平手がピシッと尾の攻撃を食い止めたのである。


「攻撃判定の強い技をあらかじめ出しておき、相手の技を出がかりで潰す! これが、『牽制』だ……!」


 ドラゴンはうろたえた。振り回した尾を平手で打ち返してくる相手など、今まで会ったこともないからだ。ダメージはほぼ受けていないが、気味が悪かった。

 尾を振るのは背を見せることになる。未知数の相手に背を向けるのは危険と火竜は判断し、相対して爪による小刻みな攻撃に移った。ロザリオマスクが言い放ったような、まさしく『牽制』とも言える爪の攻撃。

 ところが今度は、この爪の攻撃を下がってかわし、竜の腕をカウンター気味に蹴っ飛ばすロザリオマスク。


「相手の牽制攻撃を下がってかわしてスキを作り、攻撃モーションの戻りにこちらの攻撃を差す。これが、『差し返し』だ……!」


 ぶつぶつ言いながらロザリオマスクは前に進む。ガードをする様子もない。レバーが後ろに入っていないのだ。

 火竜は唸り声を上げた。この唸りは、蹴り飛ばされた爪の痛みより、理解不能の畏怖がにじり寄ってくることへの反応と言ったほうが近い。

 初めて会った時から今に至るまで、常に火竜のほうが有利な状況にいる。ましてや相手は、焼かれて噛まれてKO寸前。負けるはずがないのだ。

 しかし、ことごとく打ち負ける! レスラーは歩きながら、時折しゃがんで手刀を繰り出し、中段を狙って鋭い蹴りを入れる。これが『牽制』として竜の攻撃を止め、スキに『差し返し』てくるのだ。


 口をすぼめて火球を一発放ってみれば、今度はレスラーは跳んでいる。ジャンプパンチで顔面を強打される火竜。

 ことごとく攻撃を読まれている錯覚に陥り、手を出さず様子を見ていると、男は両手を左右に落として構えた状態で歩いてくるのだ。


「ホーリー・オイル・レッグスルー」


 レバー一回転+K。スライムを地面ごと投げ飛ばした歩き投げで、ロザリオマスクは火竜の目前まで堂々歩いてやってきた。

 牽制や差し返しを恐れて技を出さなくなったところを、近づいて投げる。これは投げキャラの勝利における、常套手段である。


 とは言えドラゴンもバカではない。ここまでの戦いを見ても分かるように、この火竜は慎重だ。とっさに危険を感じて翼をはためかせ、空中へと難を逃れた。

 歩いた先の投げるべき標的が宙へ逃げてしまったため、投げスカリポーズで地上で硬直するロザリオマスク。

 ここまで近づいたというのに、またもドラゴンを逃してしまい、彼は今どんな顔をしているのだろうか?

 彼は、笑っていた。思った通りに事が運んだからだ。


 一撃も喰らえない状況での、『牽制』や『差し返し』、火球に合わせてのジャンプ攻撃。

 すべての読みを通しているが、ロザリオマスクは決死であった。ひとつ間違えば敗北確定、その後に待つのはおそらく、死だ。

 それでも威風堂々、焼け野原を歩み続ける必要があったのだ。読みを通すために、不利な戦況を心境でひっくり返すために。

 このレスラーはドラゴンに対し、心理戦を挑んでいたのである。そしてその第一歩が今、成功した!


「ぬりゃああああっ!」


 飛び上がったドラゴンを追いかけるようにしてレスラーはジャンプし、初戦で「ファイヤー・ドラゴン・バスター」の叫びとともに出てしまったジャンプボディプレスをかまし、浮いたドラゴンを迎撃する。

 今回はコマンド失敗のジャンプ大パンチではない。追い詰められて飛んで逃げた火竜を、地面に突き落とすためのあえてのジャンプ攻撃。

 かくして両者は空中でもつれ合って、地面に落ちる!


 密着状態での地上落下。これは完全なる投げキャラの間合いである。急いで起き上がったドラゴンとロザリオマスクは、互いに最速で次の行動に打って出た。

 ここまで近づいたとなれば、投げキャラの取る行動といえば、そう。


「クリスチャンラリアット!」


 ロザリオマスクの選択は、投げではなかった!

 相手を容易につかめる密着状態にまでもつれ込んだにも関わらず、十字の形でグルグルと回る、打撃必殺技を選択したのである。

 かたや火竜が起き上がりに最速で取った選択は、空中への再度の回避。

 離れてしまえばどうということはない対戦相手。空にいれば投げられないのだろう。体力的にもまだまだ自分がリードしている。もう一度距離を取って仕切り直せば、こんなレスラーに負けるはずなど無いのだ。

 ドラゴンのその選択は正しかったはずだ。だが、ロザリオマスクに、読み負けた!


 ドラゴンが飛んで逃げるとこの男は読んで、先んじてクリスチャンラリアットで回転していたのである。

 腕と拳はドラゴンの腹にクリーンヒット。クリスチャンラリアットの転倒効果により、もんどりうってドラゴンは地に落ちた。


* * *


 空中に逃げるドラゴンをボディプレスで落とし、もう一度逃げるドラゴンをラリアットで落とす。

 これで俺は二度の読み合いに勝った!

 だが残念なことに、クリスチャンラリアットでは相手が吹っ飛びすぎてしまうし、回転後のスキも大きすぎる。

 せっかくここまで縮めた距離が、これでまた離れてしまう。

 あともう一度だけ読み合いの機会があれば、投げ間合いに持ち込めれば、俺は確実に勝つ自信があった。なのにその読み合いに行くことが、出来ないのだ。

 俺の技でふっ飛ばされるドラゴンとの距離が、ほんの数歩分のその距離が、投げキャラの俺には遠すぎる……。

 ところがその時、奇跡が起こった!


――ロザリオマスク(談)

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