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林田藩  作者: 林田力
建部光重
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津城開城

光重は安濃津城を激しく攻めた。

「敵襲ー!! 敵の奇襲部隊です」

安濃津城の見張りの兵の声が戦場全体に響き渡る。それと同時にあちこちから怒号が聞こえてきた。

「何だと!? 一体どこからだ」

「分かりません! ただ、突然現れて瞬く間に我が方の兵を蹴散らしております」

「くそぉ! こんなことならもっと早く知らせるべきだった」

「何を言っている! そんなことをすれば敵に見つかってしまうだろうが」

「ええい! もういい! とにかく迎撃しろ」

「無理だ! 数が多すぎる」

「ならば逃げろ!このままでは全滅してしまうぞ」

「ふざけるな! ここで逃げたら末代までの恥だ」

「そうだ! それに我らの後ろには民がいるんだぞ!!」

「お前達、落ち着けぇい」


安濃津城から富田信高が撃って出た。光重は後退しつつ、信高を包囲した。光重の槍が信高に迫ったが、一人の若武者が前に出て自分の槍で光重の槍を払った。そのまま光重と若武者は槍をかわした。その間に光重は退却し、若武者も退却する。


信高は家臣に若武者のような人物がいたかと不思議に思いながら城に戻った。遅れて戻った若武者を見ると、それは信高の妻であった。妻に命を助けられた信高であったが、後に妻の罪で改易されることになる。妻の甥の宇喜多左門は坂崎直盛の家臣を殺害したが、その左門を匿っていた。


城兵は奮戦したが、津の町も城の建造物も大半が焼失した。安濃津城は木食応其の調停により開城となった。それでも西軍を津で足止めした功績は大きい。もし西軍が伊勢を平定したら、尾張に攻め込むことができる。そうなれば関ヶ原で雌雄を決するという家康の構想自体が成り立たなくなった。


関ヶ原の合戦が東軍の勝利に終わると、安濃津城の戦いで抵抗した信高は加増された。開城しながらも西軍足止めが評価された点は京極高次と重なる。戦略目的があっての戦いであり、「生きて虜囚の辱を受けず」の軍国主義ではない。ひたすら根性で頑張る昭和の精神論でもない。


「富田殿には礼を言わねばならぬと思っておりましたぞ」

「何をですか?」

「伊勢国は西軍に散々に打ち破られてしもうたわえ。それなのに富田殿は最後まで抵抗されておったそうじゃなあ」

「……」

「それが木食応其の調停で突然、開城されたとはどういうことか? 佐助殿は関ヶ原合戦において、最初から勝敗の行方を知っておられたのではないか?」

「……」

「いや、これは詮索するつもりはない」


後の慶長一三年(一六〇八年)に信高は伊予宇和島藩に移封され、津には藤堂高虎が伊予国今治から入る。津藩は伊勢国と伊賀国の二二万石である。大阪城の豊臣秀頼の抑えとして高虎が選ばれた。その後、津藩は三二万三千石になり、幕末まで続いた。


津藩主となった高虎は津城を大改修し、輪郭式平城とした。本丸の東西の堀の中に東之丸と西之丸の郭を設けた。本丸・東之丸・西之丸を取り囲んで二の丸が配された。本丸には丑寅三重櫓、戌亥三重櫓、伊賀櫓、月見櫓、太鼓櫓があった。


津藩は津城と伊賀上野城を持つ。高虎は豊臣方への備えとして伊賀上野城を堅固な城にした。これに対して津城は居城であり、城下町の整備にも力を注いだ。伊予今治より高虎を慕って移った町人は伊予町に暮らした。


津には浅草観音、大須観音と並ぶ日本三観音の一つの津観音(恵日山観音寺)がある。津観音は真言宗醍醐派の名刹である。奈良時代の初めの和銅2年(709年)に開山した。阿漕ヶ浦の漁夫の網に聖観音立像がかかって、これを本尊とした。漁をしていて本尊を発見した由来は浅草観音の浅草寺と共通する。関ヶ原の合戦の安濃津城の戦いで焼失した。


津藩主になった藤堂高虎が津観音を再建した。津観音は津城の鬼門守護の役割も果たし、周辺は門前町として栄えた。「伊勢は津でもつ、津は伊勢でもつ」と謳われたが、伊勢神宮参拝者は津観音にも詣でた。伊勢神宮内宮で祀る天照大神の本地仏と宣伝され、「阿弥陀掛けねば片参り」と言われる程であった。太平洋戦争中の空襲で多くの文化財と大伽藍を焼失した。


本尊は秘仏の聖観世音菩薩。木造の五重塔がある。映画監督の小津安二郎の記念碑もあるす。小津は東京市深川区万年町(東京都江東区深川)生まれの江東区ゆかりの人物であるが、三重県で育った。


安濃津城を落とした秀元軍は決戦の地である関ヶ原に向かう。建部家も一緒に向かった。

「殿、何故、尼崎代官の我らが、尼崎を離れて各地を転戦するのです」

「仕方ないであろう。命じられれば従うしかない」

「ですが……」

「それに、今は急いでいる」

「急ぎですか」

「そうだ。急がなければ間に合わなくなるかもしれないのだ」

「何でしょうか? それは一体?」

「天下分け目の合戦だ」

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