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林田藩  作者: 林田力
建部寿徳
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小牧の戦い

織田信雄・徳川家康と羽柴秀吉の間に小牧・長久手の戦いが始まる。信雄は秀吉と一緒になって兄弟の信孝を滅ぼしたが、その後になってようやく秀吉が自分の家臣にならないことに気付いた。浅はかである。秀吉は信雄を安土城から退去させた。これによって信雄と秀吉の対立は決定的になった。


信雄には三人の家老がいた。津川義冬、岡田重孝、浅井長時である。秀吉はこれら三家老を懐柔した。

「殿では天下を獲れませぬ」

三家老は信雄を見限った。この決断には信雄も驚いた。だが、その驚きはすぐに怒りに変わった。

「何故だ! 父上(信長)の子である余の方が猿よりも優れているではないか」

「殿は天下人の器量にございません」

「なんじゃと!」

「某が見たところ、丹羽様や池田様に匹敵しましょう。しかし、それだけでございます。織田家を支えているのは丹羽様や池田様なればこそです。もし、丹羽様や池田様がいなければ、織田家は何度も滅ぼされておりまする」

「そんなことはあるまい」

「いいえ、間違いなく滅んでおりました。それが証拠に尾張一国すら治められていないではありませんか?」

「それは……」

確かにそうだ。

「殿は天下人になる器量はありませぬ。それ故に、殿を傀儡として担ぎ上げようとする輩が現れるでしょう。そうなってしまえば、殿の身の安全は保障できかねます。それに、殿が傀儡となってしまえば、家臣である我らにも害が及びます。ですから、どうかお考え直し下さい」

「だが、わしには他に道はないのだぞ」


信雄は天正一二年(一五八四年)三月六日に三家老を秀吉と内通しているとして長島城で処刑した。三家老の処刑は秀吉の出兵の大義名分になった。信雄は秀吉と戦うために三河の徳川家康に援助を求めた。家康は一万五千の兵を率い、清須城へ入った。


信雄は打倒秀吉を宣言した。自分が宣言すれば織田家の武将は従うと能天気に考えていた。ここで織田家宿老の恒興の去就が注目された。家臣は信雄に味方するか、秀吉に味方するか、中立を保つか意見が割れた。恒興は迷わずに秀吉に味方した。恒興はカリスマ性を持った信長に忠義への忠誠心を持っていたが、織田家というだけで忠誠心がある訳ではなかった。


恒興は信雄の領土の尾張国に侵攻し、三月一三日に犬山城を攻略した。

「者どもかかれーっ」

恒興が大声を上げる。池田勢は一斉に攻めかかり、犬山城は落城した。秀吉は犬山城攻略の恩賞として尾張国を与える予定と伝えた。


後に恒興の子の輝政は関ヶ原の合戦の前哨戦となる岐阜城の戦いで先陣として活躍した。この時の岐阜城主は三法師が成人した織田秀信である。池田氏は織田家に引導を渡す役回りになっている。


織田・徳川連合軍は自分達の領土を守るだけで精一杯の状況に追い込まれてしまう。家康は犬山城占拠に対抗するため、清須城から出陣し、小牧山に陣を敷いた。犬山城には恒興の娘婿の森長可が援軍に入った。長可は本能寺の変で討ち死にした森蘭丸、坊丸、力丸の兄である。鬼武蔵と呼ばれる勇猛な武将であった。長可は小牧山攻略を目指して近くの羽黒に陣を張った。しかし、その動きは家康に察知されており、酒井忠次の奇襲によって撤退を余儀なくされる。これが羽黒の戦いである。


家康は小牧山を防衛拠点として陣地化した。小牧山は過去に信長が城を築いた場所であり、頂上からは尾張を一望できる軍事上の要衝である。羽柴秀吉が大軍を率いて到着するも、羽柴軍と徳川軍はにらみ合いを続けていた。双方が周囲に堅固な砦や土塁を築き、容易に攻撃できない状態になった。戦況は膠着状態に陥った。

「くそっ! どうすればいいのだ!?」

秀吉は苛立ちを募らせた。

「殿、ここはいったん退きましょう!」

寿徳は撤退を主張した。しかし、秀吉には退く気はなかった。

「ならぬ! ここで退けば天下人の面目が立たぬではないか」

秀吉は信長の後継者としての立場を失いつつあった。

「わしは負けておらぬぞ」

秀吉は主張した。

「ならば、このままでよろしいのですか」

「うむ……」

秀吉は返答できなかった。

「では、一旦退いて体勢を整えましょう!」

寿徳は再度進言した。

「ええい!うるさいわ!!」

しかし、秀吉は怒鳴った。

「……申し訳ございません」

寿徳は黙り込んだ。

(なんという体たらくだ)

寿徳の心の中にどす黒い感情が芽生えた。


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