第1話 パーティから追放されてしまいました
「ゼノ、今日限りでお前を『銀の刃』から追放する」
ダンジョンから帰還した日の夜。
冒険者ギルドに併設された酒場の席で一人の青年ゼノは、パーティリーダーであるラーズからクビを宣告されていた。ラーズの両隣の席に座るパーティメンバー、マリアとダイアナも異論はないようで、ただ黙ってゼノの様子を窺っている。
モンスター退治を主に請け負う冒険者パーティ、『銀の刃』。当然メンバーは皆、戦闘スキルを持ち戦闘職についていた。
荷物持ちとして同行していた、ゼノを除いて。
「いきなりですね、ラーズ。どうしてでしょうか?」
「穀潰しはいらないって言ってんだ。命懸けで戦っている俺らと違って何もできねぇ癖に、町でもダンジョンでもいちいちノロマで、うざったいんだよ!」
「荷物持ちなもので。しかしその分、私の取り分は少なくしておりましたし、貴方達の負担が減るよう雑務や資金繰りも……」
「屁理屈なんざ聞いてねぇ!」
ダンッ!
ラーズは木樽ジョッキをテーブルに叩き付け、威嚇するように吠える。
「昨日の依頼達成で、俺達のパーティはBランクに昇格した。……ここいらが潮時だろ、ゼノ」
「今後は私達、もっと強いダンジョンに潜るの」
「足手纏いは邪魔なのよねぇ」
「そういう訳だ。いいからとっとと出てけ!」
示し合わせていたように追い立てられ、ゼノは手荷物と共に酒場から締め出された。
外は真っ暗で、ゼノの紫色の髪がよく馴染む。全身を包む黒い服も合わさって、遠目から見れば影法師が伸びているように見えるかもしれない。
そんな生気のない、陰気な雰囲気を持つゼノとは対照的に、酒場は陽気にどんちゃん騒ぎをしている。
「はぁ。私なりに尽くしてきたつもりでしたが……。お払い箱とは、残念ですね」
ゼノは一つ溜め息を吐いた後、酒場から背を向けその場を去った。
『銀の刃』に加入したのは一年前、ゼノが十七歳となった年だ。雑務を何でもやる、とラーズに交渉し、加入を認めて貰った。
なぜ『銀の刃』なのかと言えば、拠点を作らない旅団型パーティだったからに他ならない。
ゼノは生まれ育った町を出て、旅をしたかったのだ。
日本人だった前世の頃に視聴した、ファンタジーアニメの冒険を求めて。
「結局、期待していた高揚感は得られませんでした……」
肩を落としながらゼノは安宿に辿り着くと会計をすませ、共同部屋のベッドに身を投げ出す。
隣のベッドは既に埋まっていて、大男がいびきをかきながら眠っている。不特定多数の集う場では眠れないというマリアとダイアナの訴えで、見知らぬ他人と過ごすのは久しぶりだ。
しかし見知らぬ人間に囲まれることは、前世では日常だった。
──前世のゼノは、新興宗教の教主だったから。
ゼノ自身が望んで教主となった訳ではない。親が教祖で、ゼノを赤ん坊の頃から祭り上げたのだ。教主なのだからと産まれてから一度も外に出されず、金をむしり取られた信者の遺族に殺されるその日まで、隔離された空間で一生を過ごした。
親に隠れこっそり見ていたアニメだけが唯一の癒しで、転生という形で外に出られたゼノは、アニメのような体験ができるのではと期待に胸躍らせていたが……。
(最初は新鮮だったものの、何かが物足りなくて、ずっと虚しい日々が続いていた)
何も魔王を倒すため旅をしているという勇者一行のような、華やかな冒険ファンタジーを望んでいた訳ではない。
ただダンジョンでの未知との遭遇や、街中での一期一会の出会い、パーティメンバーと焚き火を囲んで団欒したりと、ありふれた経験がしたかった。
しかしラーズもマリアもダイアナも、ゼノが孤児で無能だからと見下し、どれだけ尽くしても仲間として扱うことはなく、下っ端としてこき使うばかり。お陰でいつも疲労していた。
それでも芸のない荷物持ちを雇ってくれたのだからと、『銀の刃』に縋り続けた。
しかし結局、追放されるのならばさっさと見切りをつけ、自分から抜けた方がよかったかもしれない。
(とはいえ、辞めたからと言って、これからどうしましょうか……)
今のゼノには、夢も目標もない。
何の意欲も湧かないまま、ゼノは一夜を過ごした。




