結婚のご報告 3
ついにアメリカの中間選挙が開票された。
結果はトランプの大敗だったわけだが、これから世界はどう動いていくのだろうか。
いずれにせよ、この選挙が後世において転換点だったと語られるのは間違いない。
良くも悪くも今後のトランプの動向には注目している。
習近平の次くらいに。
「一応…確認しておきたいんですが、イチモツというのはー…?」
「男の魔羅でございます」
一縷の望みをかけた公太郎の問いは、セイバスによって無惨に打ち砕かれた。しかし、だからといって
出せと言われて出すものではない。時と場所、タイム・プレイス・オポチュニティー、TPOってもんがある。…まあ、たとえTPOが許しても出すのは嫌だが。
とはいえ。
────断ったら力ずくで来そうだ…
その時を想像し、公太郎はゾッとした。セイバスは決して筋骨隆々のマッチョマンといった風ではないが、巨人の巨大な手足には相応の力強さがある。というか、巨体であるということは、当然、支える筋肉も発達してるわけで、セイバスがその気になれば公太郎のスーツなど、キューティーハニーが変身する時の服くらいの強度になるだろう。
「お義姉さま、イチモツ…?とか、マラ…?とは、なんですか?」
冷や汗と脂汗を流す公太郎の隣で、話についていけないイリスが、純粋ゆえの答えにくい疑問を投げかける。こんな時ではあるものの、リュナには悪いが、その質問が自分に向けられなかった幸運に公太郎は心底感謝した。自分ではとても、ごまかしたり、はぐらかせそうにもない。遠回しに婉曲に、におわせくらいでなんとかうまく切り抜けてほしいところだ。
だが。
「ちんちんよ」
リュナの直球に、公太郎は石原裕次郎のAAみたいになった。
「ち…ちんちん、ですか?なんで…そんなことを…?」
イチモツの意味を知り、一つ大人になったイリスが頬を赤らめる。
「…まったくだわ。爺、アタシたちは今日、公式の客人としてアニキに招かれてるの。趣味の悪い冗談で恥をかかさないでほしいものね」
先ほどまでの和やかな雰囲気はどこへやら。うんざりという内心を隠しもせず、リュナの目が険しく鋭くなり、声色も冷ややかになっていく。
「冗談などではございません」
しかしその上でも、セイバスは微塵も動じることはなかった。
「このセイバス、かつてリュナ様の教育係であった身。誠に僭越ながら、老骨にとっては手塩にかけた愛娘も同然にございます。ゆえに、リュナ様の御手を取る者となれば、その器、確かめずにはおれませぬ」
「確かめてるのはちんちんの大きさじゃない」
「いいですか、リュナ様。我ら巨人族の言葉には、『男の器は、イチモツで測れ』というものがございます」
「…ハァ。随分タメになる話ね。ありがとう。忘れていいかしら」
ため息交じりに眉間を押さえたリュナに、セイバスはなおも諭し続ける。
「くだらぬ俗説のように聞こえるかもしれませんが、これは概ね真であるとの確信がございます。爺の知る限り、傑物は皆、立派なイチモツを持っておいででした。ですから…」
「それは違いますよ、セイバスさんっ!!」
展開されるセイバスの持論にイリスが真っ向から異を唱えた。
「男の器はち…ちんちんの大きさでは決まりません。心で決まるものです。わたし、知ってますから!ハムタロは心が大きい人なんです!!」
「イリス様、爺もそう思います。男の器とはつまり、心の大きさであると」
「…え?だってセイバスさんは…ちんちんで…」
「爺が申しておりますのは、心の大きな者は皆、イチモツも大きい。心とイチモツは大きさが比例するということでございます。イチモツのみをもって、器を測ろうとしておるわけではありません」
「えぇ…そ、そうなんですか…?」
丸め込まれそうになってるイリスの横で、公太郎は「いや、どんな理屈やねん」と胸の内にツッコんだ。
────たしかにセイバスの論はあ、ある意味では真だろう。そりゃ大きなちんこを持つ男は、余裕と自信を備えてる傾向があるに違いない。ちんこが大きいというだけで、男の生涯における悩ましい問題が一つ消えるのだから。
一方で、その論はちんこが小さいと心も貧しくなるという関連性を説明できていない。というか、たとえちんこが小さかろうと、歴史に名を残した男はいる。有名なところではナポレオンだが…って、なんでこんなこと真面目に考えてんの俺は。
そもそも、「傑物は皆、立派なイチモツを持っておいででした」ってなんやねん。まるで都度、自分の目で傑物とやらのモノを確かめてきたみたいじゃないか。シュールすぎるだろ、その現場。
…などと公太郎が遠い目をしてる間に、イリスはさらに追いつめられていた。
「イリス様は、ハムタロ様のイチモツを目にされたことは?」
「なっ、ないですよ、そんなの…」
「爺はイリス様を疑ってるわけではありません。イリス様のおっしゃる通り、ハムタロ様は大きな器をお持ちなのでしょう。…であれば、イチモツも大きいはず」
「そ、それは…」
「爺はただ、それを確認させていただきたいだけでございます」
「う、うぅ…」
巨人の大きな顔、低い声、その存在感の圧と、なにより年頃の女の子が男のちんこというセンシティブな話題をうまく捌けるはずもなく、イリスはついにあうあうと押し黙ってしまった。
────やれやれ、しかたないな。
これ以上イリスがこんなしょうもないテーマで困るのを見るのは忍びない。主人の代わりに恥をかくのも従者の役割だ。
気乗りはしなくとも公太郎は肚を決めた。
「15センチ、あるかないかくらいですー」
我ながら何を言わされてんだ、そんな感想しかないが公太郎はとりあえず正直な数字を告白した。途端、セイバスがぎょろりと目をむく。
「15…でございますか?」
「じゅっ…15センチもあるんですかっ!!?」
明らかに落胆の色を見せるセイバスと、つないだ手に驚愕の力がこもるイリス。相反する二人の反応の内、この場で重要なのは前者だが、公太郎は主人の素直な驚きに、ちょっぴり男として救われた気がした。
「イリス様、15センチというのは男として決して大きくは…」
「えっ…!?だって、15センチって…わたしが今朝食べたアップルパイくらいもあるのに…」
「この爺ですら老いたりとはいえ50センチはございます。これでおよそ男の平均といったところでしょうな。そう考えますと…」
「ご…50っ!!わ…わたしの身長の半分くらい…っ!!?」
想像してしまったのだろう。あまりのショックにイリスが目を回してたたらを踏む。
────何を教えてんだ、この爺さんは…
これがまがりなりにもリュナの教育係だったのかと公太郎は頭痛を覚えた。ちんこの平均的な長さなど、純真なイリスに変なことを吹き込むのはやめてほしい。
だいたい、巨人と人間のサイズをそのまま比べてもしょうがないじゃないか。そんなのまったくフェアじゃない。スケール比ってもんがあるだろう。
まあ、セイバスの身長を5メートルと仮定すると、チン長はその10%相当だから、かなりご立派なのは認めざるを得ないが…
「ちょっとハムタロ!」
その時、苦虫を噛み潰したような気分の公太郎の袖をリュナが引っ張った。
「アンタ、なんで嘘つくのよ」
「嘘ってー?」
リュナは公太郎の耳元に口を寄せ、他の二人に聞こえないようにささやく。
「…15センチってことはないでしょう!?」
「…えー?そんなもんだよ実際ー。なんなら15すら自信がないかもー…」
自分の長さがどれくらいかなんて、中学くらいの時に定規を当ててみて以来、測った記憶がない。なにせ早々と自分は一生使うことはないだろうと思っていたからだ。
「嘘。アタシね、指を伸ばした手の平がだいたい15センチなの。アンタのはアタシの手より大きかったもの」
「マ、マジでー!?」
リュナの示した根拠に公太郎は浮ついた。巨根主義のセイバスではないが、やはり大きいと言われると満足感が来るのが男の正直な所である。
これは、あれか。この世界に来てからというもの、毎日早寝早起き適度な運動、グリモアの山を登ったり下りたりと超健康的な生活を送った賜物か。おかげさまで、自分でも知らぬうちに伸びてたとかそんなカラクリか。
まあ…長さなど、その時々なのでたまたまかもしれないが。…タマだけに。
────っていうか、測ってたのか…
いつ?…までは無粋すぎるので聞く気はないが、いくつかある心当たりのどこかで密かに手と並べてチェックされてたのかと思うと、なんとも気恥ずかしい。
「…どうしてお義姉さまはハムタロの長さを知ってるんですか?」
「「えっ」ー!?」
獣耳をピクリとさせて不思議そうな顔をしたイリスに、公太郎と今度こそリュナも固まる。
「聞こえたのか、イリスー」
「はい、わたし耳はいい方なので。あっ…もしかして聞いてはいけなかったことですか?」
「そういうわけじゃないけどー…」
いや、そういうわけだろと自分にツッコみつつ、公太郎は迂闊さに頭を抱えた。イリスは自分と手をつなぐ距離で横にいるのだから、耳がいいとか関係なくそりゃ聞こえるに決まってる。これでは結果的にセイバスと同じだ。だがイリスにはこんな話はまだ早すぎる。どうしてごまかしたものか…
「その日の体調を調べてたのよ。大きさでわかるから。そうよね、ハムタロ?」
「…えー?あ、ああー…」
しれっとサラッと言い切ったリュナに、公太郎はほとんど反射的に乗っかった。…まあ、嘘は言っていない。まさか本当のことをつまびらかにするわけにもいかないし。
「へぇ…ちんちんって器だけじゃなく、そんなこともわかるんですね…便利だなぁ」
「…ま、まあねー」
疑いもせず信じてしまったイリスに公太郎の心の端っこがちくりと痛む。そんな体温計みたいな使い方してるヤツ、聞いたこともねえよ。
────…待てよ?
その時、公太郎の脳内で「その時々」「体調で変わる大きさ」というフレーズに閃くものがあった。
「…セイバスさんー、イチモツの大きさと男の器が比例するという話、少なくとも私…ハムタロには当てはまるものではないと、お見せできるかもしれませんー」
「ほう…?どういうことですかな?」
ちんこの話をしてるには妙に不敵な笑みを浮かべた公太郎に、セイバスの目がギラリと輝いた。
TIPS:話してる内容がくだらないので、ここでまとめ切ってしまおうと思ってたのに、力及ばずできませんでした。こっちだって早く終わらせたいんだよ。だっておかしいじゃん、お城の玄関の前で皆でちんこの話してたら。




