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能無し勇者は知恵とLV1魔法でどうにかする  作者: (^ω^)わし!!!


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名前のない石

今年は毎日アメリカの大統領を目にするけど、本当は毎日習近平が見たいよ。

 ドワーフの協力を取り付けてから数日が経った。抜けるような青空の下、公太郎が初めてイリスの領地に足を踏み入れた地点の周辺、グリが整えて真っ平な土地にトンカンと建築作業の音が響き渡っている。


 イリスの転移魔法によってまとめて引き連れられたドンズたちドワーフは、差しあたり作業者の拠点づくりに取り掛かっていた。曰く、仮住まいと作業の指揮所を兼ねる詰所だが、仮といっても見てる公太郎が舌を巻くほどのクオリティーで、あれよあれよの内に完成間近となっている。


 「だ…団地だー…」


 公太郎は出来上がりつつある計三棟の五階建てに、見たままの感想を述べた。こういう建物が、昔、社会の教科書に載ってた記憶がある。戦後の高度成長期に日本のいたるところに造られた、たしかニュータウンだかなんだかにそっくりだ。


 …といっても、使われた建材は鉄筋コンクリートやモルタルではなく、木と石と漆喰とそこに掛けられた付与魔法なので、似てるのは見た目だけだろうけど。


 「これ…何棟つくるんだろー」


 公太郎は地面にへたり込みながら、団地を見上げた。団地の建設に使われた木材は、公太郎が種から魔法で育てたものであり、1棟あたり何本の木を用意しただろうか。詳しい数は定かではないが、とにかくもう体内マナが底をついてへとへとなのだ。


 「仲間が要るなー」


 街づくりの人手が欲しいと公太郎が一人ごちる。できれば魔法…それも回復魔法が使えたらありがたい。現状のイリス麾下では、回復の心得があるのは公太郎とゼナくらいで、ゼナには別件を担当してもらっている。それに彼女は夢見の関係上、稼働時間に制限があるため、少なくともあと数名は魔法人材の確保が急務だった。


 とはいえ、別に魔法が使えないなら必要ないなんてことはない。街にはもっと住人が必要だし、人手だって全く足りてないのだ。建設現場にはイリスの村の獣人たちにも入ってもらっているが、ヒト・モノ・カネなんてものはいくらあってもいい。


 「なかなか、前途洋々とはいかないねー」


 ふっと息を吐きつつ、公太郎はポケットを探ってミカンをひとつ取り出した。一昨日くらいに魔法で育てたものだ。土地が回復してきたとはいえ、まだ豊かとまではいかないので、果実は手のひらに収まるほど小さいものしか採れなかった。だが皮をむいて口に放り込んでみると、実のつまった果実が甘くみずみずしく、うまい。


 「しみるなー…」

 

 公太郎は疲れがわずかに癒えた気がして、知らず知らず笑顔になった。


 しかし…まさかこんな異世界くんだりで、団地を目にすることになるとは。まあ、詰所をつくるという話になった時、「箱型のものをいくつか」とオーダーしたのは自分なのだが。


 だけどそれは、建築現場に接地される簡易的なプレハブのようなものをイメージしたのであって、こんなガチなものがつくり上げられるとは、ドワーフのものづくり技術たるや、あな恐ろしやといったところだ。


 「おぉーい、あんちゃん!!ちょっと来てくれぇ!!」


 物思いにふけっていた公太郎が頭上からの大声に見上げると、ドンズが団地の最上階のバルコニーから手を振っている。


 「今、行くー!」


 公太郎はドンズに応え、ミカンの皮をポケットに突っ込んでから団地の階段へ速足で向かった。ドンズには団地の設備について頼んでたことがあり、呼びかけはその準備ができた合図のはずだ。


 「あ、ハムタロっ」


 人が二人行き来できるごく普通の幅の階段に公太郎が足をかけた時、足をブドウの果汁でべちゃべちゃにしたイリスとちょうど出くわした。


 「イリスー、今日の『魔王酒』づくりは終わりかー?」


 現在、イリスにはゼナと共に、現場近くで酒を造ってもらっているのだ。


 「はい。おばあさまがお休みになられたので。それで…お湯を出してもらえるとありがたいんですが…ドンズが呼んでましたよね?…やっぱりわたしは川にでもいってきます」


 イリスは階上を見上げて少し考えてから、立ち去ろうとした。今のこの現場に井戸はまだないので、足を洗うなら近くの川ということになる。


 「待って待って、イリスー」


 幸い川までの距離はそこまでないが、肌寒くなってきた時期に行かせるのは気が引けて、公太郎はイリスを呼び留めた。


 「いいよー、先に洗っちゃおう。LV1火魔法、水魔法、並列起動ー」


 さっきまで情けなくへたりこんでいたが、ミカンを食べたおかげで多少マナが回復した感覚がある。公太郎は手早く魔法を混合してお湯を生成し、イリスの足を流しはじめた。


 「うふふ、ありがとうございますハムタロ。温かくて気持ちいいです」


 「熱かったら言ってくれよー?」


 ホカホカした湯気が立ち昇り、イリスがほっこりして微笑む。ドンズには悪いが、ちょっぴり待っててもらおう。

 

 その後、大方洗い終えたイリスは階段に腰掛けると、懐から布を取り出して足を丁寧にふき、愛用の靴を履いた。


 ちなみに『魔王酒』というのはドワーフの地下城塞に手土産として持ち込んだ、イリスたちが踏んで公太郎が魔法で熟成させた例の酒のことだ。正直、出来栄えは素人の造った酒ということもあり、とても褒められたものではなかったが、意外にもドワーフたちには好評で、誰が呼びはじめたのか、いつの間にやら魔王酒の名で親しまれている。


 それもそのはず、ドンズらは何十年も地下で暮らしていたので、そこに育つイモ由来のものしか長らく口にしていなかったからだ。そのイモ由来の酒は、なんと当のドワーフすら「まずい」という品質の有様で、結果、誰もが次の魔王酒の完成を今か今かと待ち望んでいるのだった。


 ドワーフに働いてもらうには、カネよりもまず酒が必要であり、おかげでイリスは毎日毎日ブドウを踏み続けるハメになってるのだが、本人は楽しそうにやってるので、まあ…いいのだろう。


 「おばあさまも、もう少し手伝いたいのだけど…とおっしゃってました。ごめんなさいね、とも」


 「ゼナさんには十分すぎるほど力を貸してもらってるさー」


 踏んだ果汁を酒へと熟成する回復魔法は、公太郎が他で手一杯のため、現状はゼナに請け負ってもらっていた。夢見の睡眠サイクルがあるため実働時間は短いが、公太郎としてはずいぶんと助かっている。


 「そうだ、イリスも一緒に来てくれないかー。ドンズのとこで見てほしいものがあるんだがー」

 

 「わたしに、ですか?なんでしょう?」


 キョトンとしたイリスを連れ立って公太郎が最上階まで上がると、ドンズが一室の開けっ放しにされた玄関扉に背を預けながら、ぼんやりと立っていた。


 「すみませんドンズさんー、お待たせしましたー」


 「かまわねぇよ。それより、あんちゃん。こんなもん何に使うんだ?」


 ドンズが怪訝そうに懐から取り出したのは、ビー玉より一回り小さい透明な石ころである。


 「これが…ドワーフが付与術に使う石ですかー。名前はなんというんですー?」


 公太郎はドンズから透明な石を受け取ると興味深そうにしげしげと観察してみた。…とはいえ、見たところは透明であるところ以外、別段目を引く特徴のようなものは無い。丸く削ってその辺に置いてあればラムネ瓶に入ってるガラス玉にでも思うだろう。


 「名前なんかねぇ。俺らぁが本気で付与術を使う時は、もっと上等なのを使うんだ。そりゃあ(その石は)、岩を掘ればいくらでも出てくる、むしろ邪魔なくらいの、珍しくもねぇゴミみたいなもんだぜ」


 「でも、付与術はかけられるんでしょうー?」


 「かけられるけどよぉ、簡単な魔法しか付与できねぇな。例えば、()()()みたいなのは無理だ」


 ドンズは腰に差していたナイフを革製の鞘から抜くと、刀身を公太郎たちの前に掲げてみせた。


 ボッ。


 ガスコンロに着火した時のような音を立て、赤い炎が刃を包む。


 「わぁっ、すごいっ」


 目の前で手品を披露された子供のようなイリスの反応に、ドンズが満足げに鼻の下をかいた。


 「このナイフは俺が火の付与術を施した紅玉が柄に仕込んであるんだ。自慢じゃないが、鉄だって溶断できる結構イイ魔法なんだぜ」


 「…話に聞いたことはありましたが、実物を見たのは初めてです。ドワーフの魔法剣ですね。こんなに燃えるんだ…」


 よほど驚いたのだろう。イリスはこれまでドンズの前では、かたくなに魔王モードを崩さなかったのに、そんなことなど忘れて炎を帯びたナイフに見入っている。だがその気持ちには公太郎も同意だった。


 「俺も初めて見せてもらった時は驚いたよー。見事だよねー」


 ゲームなどではよくある火属性のナイフだけどだが、実際に目の前にあると、放射される熱と光も相まって、なんかもう…圧倒される。


 「そうか、ハムタロはこれを見せたかったんですね!うん、これは村の皆にも見せてあげたいなぁ。ジルガなんてすごく喜ぶと思いますし」


 「あ…いや、そうじゃないー。それはこれからこの透明な石を使うのさー」


 合点がいったというイリスに、公太郎はドンズがゴミとまで称した石を差しだした。


 「石…ですか?」


 「あんちゃんにはそんな石じゃ、この(ドンズ)が付与術を使っても、火なんか出ねぇって言ったんだがなぁ。せめてもうちょっと大きくなけりゃあよ。そりゃあ…多少は熱くはなるだろうがよ」


 ため息交じりに肩をすくめたドンズを見れば、ドワーフにとってこの石がどれほど価値がないとされるのか察するものがある。


 しかし。


 「火が出ない…大変結構じゃないですかー」


 公太郎はとんでもないお宝を手にしたように、石を大切に握りしめた。この石は、ある意味、山ほどの金銀財宝より価値がある。


 「イリス、俺が君に本当に見せたいのはー…」



 ────文明だ

TIPS:紅玉とはルビーのこと。火属性と相性がいいので効果の高い火魔法を宿すキャパシティーがある。同様にサファイアなら水、エメラルドは風と相性が良い。


なお、ドンズのナイフは鞘に納めるとちゃんと火が消えて熱くもなくなる。抜いて「使う」という意思が石に伝わると炎が出る仕組みなのだ。

そうでないと鞘が燃えちゃうし。


おそらくこれはドラクエなんかでも同じだろう。

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