0 プロローグ
日本の天津神たちが住まう高天ヶ原
まだ人間から龍神に成り立ての瑞樹千尋は、正式な認可を貰うために、高天ヶ原まで就任のあいさつに御参りしていた。
高天ヶ原の主宰神である、天照大御神様にお目通りを願い、認可を頂ければ晴れて龍神として認められるのだが……
お歴々の古神達が並ぶ、御前で挨拶とか……滅茶苦茶緊張する。
「この都度、瑞樹の神佑地を継ぐ事になりました。瑞樹千尋と申します」
僕が頭を下げたまま答えると、天照様の隣におわする銀髪の神様が巻物を広げ、僕のプロフィールを読み上げ始めた
「瑞樹千尋、16歳、独身。元々は男子学生であったが、瑞樹の元龍神により雌の龍にされ、今回世代交代をした模様。無類の猫好きであり、猫耳の雌が好きとありますが……雌龍にされてからは、猫耳の雄でもイケル模様」
ヤメテー、人の性癖を読み上げないで!!
だいたい、その情報必要なの!?
泣くぞ、コンニャロメ!! 古神達の前で、公開処刑かよ!!
僕は涙目になりながらも、グッとこらえると、更に続けて読み上げられる。
「現在は、元龍神と婚約関係にあり、女学生として通っている学園を卒業するまで、祝言を延期している模様。先祖は…………ん!? あの淤加美神ではないか!!」
そこまで読み上げられた後、僕の中から淤加美様が出て来て
「左様! 千尋は妾の子孫じゃ」
淤加美様のその言葉に、古神達から響きが起こった。
「なんと、あの淤加美殿の……」
「それなら納得ですわ……」
「これは瑞樹を治める龍神として、認めても良いのでは?」
どの神も、就任を認める声が上がるが……1柱だけ異議を唱えたものが居た。
「果たして、そうですかな? このような元人間の小者に、神佑地の管理を与えるなんて、我は反対です」
そう言って前に出る男の神様。
僕はそっと淤加美様へ念話を飛ばして
『淤加美様、あちらの御方は?』
『あれは、天忍穂耳命。天照殿の倅じゃ』
天照様の息子さんか……と言う事は、瓊瓊杵尊のお父さんって事に成るのか……
「このような、猫耳ケモナー好きな、元人間の成り上がり者に、どれほどの力がありましょう」
そう天忍穂耳様が古神達に訴えると――――――
「確かに、淤加美神の力は知っているが、その子孫が必ずも強いとは限らんな……」
「あの若でケモナーとか……酔狂な」
「元人間に、神佑地を治める程の力があるとは思えませぬ……」
反対意見も出始めた。
というか、猫耳フェチは関係ないよね?
「では、瑞樹千尋に力を示してもらおうではないか!! 勝速日と言われる我から、1本とって見よ!」
マジか……天照様の息子に勝てるわけ無いじゃん
そこに、淤加美様から念話が来る。
『チャンスじゃ千尋よ。向こうは、御主が元人間と言う事で、侮っておる。それに勝つ必要はない。1本取れば良いのじゃ』
『簡単に言ってくれますね』
『出来なければ、地獄の特訓じゃぞ』
うぁ、それは勘弁願いたい。
「では、瑞樹千尋よ。武器は何を所望する。弓か? 剣か? それとも槍か? 高天ヶ原にある神器は、どんな種類でもあるぞ」
「ならば、お水を1杯いただきたいです」
「緊張で喉が渇いたか? 水はくれてやる。だが、早く武器を選べ」
「武器は要りません。水だけで十分です」
「ふっ、舐められたものよ。ならば我も神器ではなく、普通の鉄剣でよい」
なんか、謀らずとも。神器ではなく、普通の鉄剣にさせることが出来た。
これなら、勝てなくも1本取ることは出来そう
天照様の御前で、金の器にいれられた水を渡され、天忍穂耳様と向き合う
「では! 二人とも始めよ!!」
銀髪の男神がそう合図を掛けると、天忍穂耳様が
「水がこぼれる前に、飲んでしまった方が、良いのではないか?」
「御忠告ありがとうございます。でも、このままで良いのです」
「ふっ、まあいい。そちらが来ぬなら、こちらから行くぞ!!」
天忍穂耳様が、その言葉を言いきると、僕の視界から消える。
さすが、先代旧事本紀で書かれている勝速日。
名は体を表すとは、良く言ったものだ。実際、その速さは尋常じゃない。
あっという間に、間合いを詰められ、剣を薙ごうとしているが
どんなに速かろうと、攻撃の瞬間は重心をのせる為、足が止まる。
そして、僕が元人間と侮っていることも、相まって、余計に隙が出来るのを見逃さない。
僕は、手にある金の器から水を操り、細く強い水刃を創る。
その水の細剣を使い、天忍穂耳様の踏み込んで来る突進のエネルギーも利用し、カウンターで鉄剣を切り飛ばす。
キン! と乾いた金属の音を立てて、刃が地面に落ち、鉄剣は真横に切り飛ばされたのだ。
その様子を見て、銀髪の神様が声を上げ
「そこまで!! 勝者、瑞樹千尋!!」
古神達の中から歓声の声が上がる。
僕は、天忍穂耳様に
「手加減をしていただき、ありがとうございました。お使いの武器が鉄剣ではなく、神剣であったのならば、飛んでいたのは僕の首だったと思います」
そう言って、深々とお辞儀をする。
ここで、プライドを傷つけ、恨みを買うのは得策ではないからだ。
実際に、神器ではなく鉄剣を使うなどして、加減してもらったしね。
「確かに、元人間と侮りすぎた。良い国津神になるがいい」
天忍穂耳様はそう言って、僕の肩を叩いて笑ってくれた。さすが器も大きい
「ありがとうございます。精一杯頑張ります」
「他に異議を唱える者は居らぬな? では、姉上締めくくりを……」
銀髪の男神が、天照様に締め括りを求めると
「うむ、ここに、国津神として、瑞樹千尋を瑞樹の神佑地を治める様、申し付ける」
「謹んでお受けいたします」
こうして、正式に龍水神の国津神として、瑞樹の神佑地に籍を置くことになったのだ。
だが、龍好きの天照様が……
「ところで、千尋よ。お主……妾の眷族に成らぬか?」
「はい? 眷族ですか?」
「妾は、鶏の神使やら龍の神使を沢山抱えておってのぅ。千尋……お主も眷族に成ってみぬか?」
「まだ婚約者と祝言も上げていませんし……直ぐにお返事は……」
「なんと! 断る気かえ!? 嫌じゃ! 嫌じゃ! 嫌じゃ!」
え~、どうしろと?
「姉上!? 皆の者!! 姉上がご乱心だ!! 取り押さえよ!!」
銀髪の神様がそう声を上げる
「こら離さぬか月読!! 千尋を妾の眷族に出来ぬなら、岩戸に籠ってやるぞ!!」
「天照様、どうかご容赦を……」
そう言った大男の神様に担がれて、天照様は奥へ連れていかれた。
なんか凄い事に成ってるな……
月読と呼ばれていた、銀髪の神様が戻ってきて
「瑞樹千尋よ、姉上を抑えている今のうちに、地上へ帰るがよい」
「は、はぁ……分かりました」
瑞樹の地を頼んだぞと言われ、解散になったのだが――――――
……なんちゅー、グダグダな就任式だ。
なんかこう……就任の証とか……そう言うの無いのかな?
僕は、月読様に言われた通り、寂しく瑞樹神社へ帰る事になる。
こうして、元人間の成り上がり龍神として、神様と認められたが、果たしてやって行けるのか?
それは、この先のお話で、語られることである。