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龍神の花嫁 八俣遠呂智編(ヤマタノオロチ)  作者: 霜月 如(リハビリ中)
1章 夏休み クローンオロチ
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1 謎の少女と天叢雲剣

龍神の花嫁修行の続きですが、此方から読み初められても問題無いよう、説明が入っております。

花嫁修行を読まれた方は、説明が二度手間に成ってしまいますが、お付き合い下さい。


オロチの頭は、花嫁修行の方で、八つの内、二つまで解き放たれて居る状態です。


斎藤正哉君視点の方も出来ていますが、八俣遠呂智編の7話がリンクする為、7話投下時に短編で行こうと思います。


K都府某所


7月末日の猛暑を越えた、酷暑の日々にもかかわらず。その場所は、寒いぐらいの冷気を放って居た。


平安時代の貴族を彷彿させる屋敷の奥で、御簾の向こうに鎮座する御仁へ、報告に伺う執事風の男が首部を垂れる。


純和風の建物に、洋装の執事の風体ではあるが、全くのミスマッチではなく、何処と無く溶け込んでいるのは、この男が持ち得る漆黒オーラが、そうさせているのであろう。


「『晴明(はるあき)』様。瑞樹の神佑地へ入った、オロチの頭は、龍神湖での一件以来、目立った動きを見せていません。如何致しますか?」


その報告に、『晴明(はるあき)』と呼ばれた御仁はニヤリと微笑むと


「そうか、再封印されて居らぬなら、それで良い。━━━━小笠原の封印は、どうなっている?」


「はっ! そちらの方は滞りなく……既に本土へ上がって居る頃かと……」


「ふふっ、此れで参頭目(さんとうめ)か……面白くなってきたな」


そう思うであろう? と、晴明が誰も居ない空間へ、言葉を投げ掛ける。


『窗(まど)ろこしい真似を━━━━』

何処からか、返答が返って来た。


「くっくっく、余興は楽しまねばな。瑞樹の龍神に、動きがあったら報告せよ」

そう執事風の男に命を下す。


「承知致しました」

執事風の男は畏まって、深く御辞儀をすると、部屋を出ていった。


「水神の龍神か、一体……何処まで遣れるかな?」

くく、はっはっはっは! と晴明(はるあき)の高笑いが木霊した。



そこへ、見た目20代半ば程の、狐耳が頭にある巫女が現れ━━━━


「晴明(はるあき)様、お茶が入りました。」

お茶の入った湯飲みを渡すが……


「なあタマちゃん。付け合わせが和菓子じゃなく、ケーキなんだからさ、コーヒーか紅茶にしてくんない?」


眉1つ動かさずに狐巫女は━━━━

「……それでは、ご用の際はお呼びください」

失礼します。と笑顔のまま去っていく


「無視か!!……仕方の無い奴め! て、フォークも無いじゃん!」


結局、晴明(はるあき)自身でフォークを取りに、行く事に成るのだった。





◇◇◇◇





処変わって、北関東の瑞樹神社境内。


国津神(くにつかみ)就任から、約二ヶ月経った7月末日のこと



「ほら、怖くないよ~。おいで~おいで~」

そう囁きながら、境内に入り込んだ猫に、ゆっくりと近付く、角と尻尾の生えた巫女の姿があった。


その巫女……訳あって。人間から、この神社の御神体(龍神)にされてしまった瑞樹千尋(みずきちひろ)(16歳)は、無類の猫好きである。


「にゃ~ん。にゃ~ん。秋刀魚だよ~」


警戒する猫の前に、秋刀魚を載せたお皿を御供えすると、心を開いた猫が一歩前に出る。


「おい! それは、俺の朝飯だろうが!」


その大きな声に吃驚したのか、猫が逃げ出してしまった。


「もう、セイの大きい声で、逃げちゃったじゃないか!」


セイと呼ばれた長身で青髪、白衣に青袴姿の男は、瑞樹神社の元龍神であり、千尋を龍神にした張本人でもある。


「ああん? 猫と俺の朝飯とどっちが大事だよ!」


そんなの決まってる。


「猫!」


「即答かよ!」


「あのな、僕が猫好きなの、知ってるだろ?」


「だからと言って、旦那のオカズを猫に遣るか? 自分の分くれてやれよ」


「僕のは、もう食べちゃいました。誰かさんは、散々起こしに行っても、2度寝、3度寝……確か、7回まで起こしに行ったけど、起きて来ないから要らないのかと……」


「馬鹿野郎、7回で諦める奴があるか! 9回の裏で満塁ホームランが出れば逆転だろ」


野球ならな。


かの有名な、伏龍『諸葛亮(しょかつりょう)』だって。3回呼びに行った時には出てきたと言うのに、コイツは……



僕はスマホを取り出すと、画面が見えるようにセイの前に突き出す。


「今、何時と表記されてるか見てみろ」


「11時6分……」


「これが、朝御飯と言えるのか?」


「言える! まだお昼の時報鳴ってないしぃ~」


……コノヤロウ


「僕が、朝早くから、七輪で炭火焼きにしてやったと言うのに……」


「むう、冷めてるじゃないか! もう一回焼き直せ! ダメ嫁め」


ほう……僕のせいですか?



「分かった。もう一度焼いてやる。真っ黒に成っても文句言うなよ」


僕はそう言って、缶のガスバーナーに火を着ける。


「千尋、ちょっと待て! それ、どっから出した!」


「ん? 今朝、七輪の炭を着火させる時に、便利で使ったんだよ」


ライターで、炭へ直接は着けずらいし。かといって、キャンプとかしないから、便利道具も持って無い。


え? 龍なんだから火を吹けば良いって?


処が僕は、恵みの雨と五穀豊穣の水神の龍神にされた為、水は操れても、火は無理なんだよね。


「何だよ、ちゃんと炭で焼いてくれても良いだろ」


「あのなぁ、僕も忙しいの! そう毎回、炭で焼いてられません」


「忙しいって、夏休みだろうが」


「学園はね。でも、夏祭りの用意があるんだよ」



僕の言葉を聞いて。セイは、やっと今日が何日か、分かったようだ。


「そうか……もうそんな時期か。通りで暑いわけだな」

そう言って、遠くに積乱雲のある、夏の空を仰ぎ見るセイ。


「お前な、もう龍神では無いからと言って、気を抜き過ぎだぞ。暇そうだし、少しは夏祭りの用意手伝ってよ」


「残念でしたー。俺も、年に2回の大祭があって、忙しいんだ」

年に2回の大祭……


ああ、サマー フリマ アニメ コミックの事か


一般的には、頭文字を取って『SFAC』と呼ばれていた。


所謂(いわゆる)、大型の同人誌即売会である



「何々? 一般参加すんの?」


「ふっふっふ。聞いて驚け! 赤城ん処の龍神とサークル参加する」


マジか!? そうかぁ、赤城の龍神さんと……


━━━━て、赤城の龍神さん。遂にソノ道へ染められたか!?


確か、最初逢った時は、アニメや漫画に興味の無い、ごく普通の龍神様だった


お隣、赤城の神佑地に神社を構え、そこの御神体であり。龍の雌(おんなのこ)と成った僕に求婚まで迫ってたのに……


瑞樹神社(ウチ)の元龍神(セイ)から、漫画やアニメ円盤を借りてるだけだと思いきや……今では作る方に成るとは……


人生……いや、神生どう転ぶか、分からないものだ。



しかし、僕もアニメや漫画が嫌いじゃないから━━━━


「くっ。正直羨ましい……最近、部屋に籠って何を遣ってるかと思えば、同人誌作ってたのか」



良いなぁ、僕だって、薄い猫耳本が欲しいのに……(健全なヤツ)


祭りの用意が無ければ、一緒に着いて行きたい位だ。


でも、同人誌即売会は、凄い人混みなんだよなぁ。最近、人混みは苦手に成ってしまった。


何故かと言うと、尻尾を踏まれてしまうからである。


霊感と言うか、霊力のない普通の人には、角と尻尾が見えないため、よく踏まれてしまうのだ。


だからと言って、踏まれないよう尻尾を上げすぎると、スカートが持ち上がり、お尻が丸見えになってしまうと事から、絶妙な高さを維持しなければ成らない。



「ま、そう言うわけだから、神社の祭りは千尋に任せた」


「むう……すっかり人間の娯楽の虜になってからに……」


ずっと、神社の敷地から出れなかったので、見るもの全てが珍しいのも分かるけど、漫画やアニメに填(は)まり過ぎだろう。


折角、神社の敷地から、自由に出入り出来るようになったんだし、他のモノにも興味を出せば良いのに……僕も漫画とか、嫌いじゃ無いから良いけどさ。


だからこそ羨ましい。こっちは、石段下から境内まで、提灯吊るしたり、町内会との打ち合わせをしなきゃ成らないのに。


まあ、町内会の方は、婆ちゃんが打ち合わせに行ってくれるけどね。



と言うか、一緒にサークル参加する、赤城の龍神さんは、自分の神社の祭りの用意とか良いのか?


まあ、向こうは、龍の巫女である、神木(かみき)先輩が居るから大丈夫とは言え、御神体無しでは……と思ったが


よく考えたら、頻繁に瑞樹神社(ウチ)へ遊びに来てるし、宮司さんや巫女さんがしっかりしてれば、大丈夫なのかもね。



ウチなんか、両親が既に他界していて、婆ちゃんと二人きり。


元御神体だった龍のセイが、役に立たないので、人手が足りてないのが現状だ。


僕が御神体なのに、巫女を兼任して居るから、何とか成っているものの……


もう良い歳の婆ちゃんに、提灯取り付けみたいな、高所作業はさせられないので、結局殆どの作業を、僕がやるしかなくなっている。


神社の隣に住んで居る幼馴染の香住に、助勤(バイト)をお願いしたい処だが、昼間は演劇部の衣装を作りに、学園へ通っている為……


来てくれるとしても、夕方からだろうなぁ。


取り敢えず、提灯が破れて無いか? とか、灯りがちゃんと点るか? とか、道具の状態を調べるのが先だ。


僕が夏祭り迄の指針を考えていると、セイの奴が秋刀魚を突きだして


「早く焼き直してくれよ、昼飯に成っちゃうだろ」


「お前は……自分で焼こうと、思わないのかよ!」


「俺が焼いたら、炭になるの分かってるし、なぁ焼いてくれよ」

コイツは……祭りの用意の手伝いもしないくせに……


「じゃあ、焼いてやるけど、セイは秋刀魚食べ終わるまで、お昼抜きだからな」


「別にいいぞ。どうせ、お前の和食だろうから、なんでも同じだ」

セイのその言葉に、僕はニヤリと微笑むと


「甘いなセイ、お昼は出前なのだ」


「なんだと!! 汚いぞ千尋! 俺にも食わせろ!」


「駄目だね。セイは、この秋刀魚を食べた後じゃないと、あげないよーだ」



僕とセイが、そんなやり取りをしていると━━━━


「お前ら、相変わらずだな……」

と言いながら、寿司桶を重ねて持った、オロチの壱頭が現れる。


オロチの壱頭とは、日本神話に出てくる八俣遠呂智(ヤマタノオロチ)の8本の頭の一つで


最初に出逢ったので、オロチの壱頭と呼んでいる。


他に頭が居ないときは、面倒なのでオロチとだけだ。


何で、こんな奴が野放しかと言うと、日本神話では須佐之男命(スサノオノミコト)により、8本の首を全部切り落とされ、退治された事になっているが


実は、首を切り落とした後も、死んではおらず、再生しようと悪足掻きをしたらしい。


悪足掻きの再生を止めさせるべく、本体の方を切り刻んだ時に尻尾から、宝剣『天叢雲(あまのむらくも)剣(のつるぎ)』が出てくるが、それでも再生は止まらず。


仕方なく、屈強の男共がオロチの頭を一つづつ持って、まだ未開拓の日本各地へ散り散りに成っていき━━━━


全ての頭を封印して着たのだと言う。


本体の方は、心臓だけに成っても、まだ生きていて。頭達は元の身体に戻ろうと、心臓を探し求めるらしい。


過去数度、天変地異のせいで、頭の封印が解けた時があったらしいが、その時はどうにか復活を阻止できたとの事。


一時的に、頭の封印が解けて、分かった事は。オロチの心臓も、一ヶ所に置きっぱなしだと、探知されやすいとのことで、10年~20年位、もしくはオロチに見付かった時は、他の神佑地へ移動すると決決めたらしい。


そして、7年前。


今は亡き、僕の両親が、心臓の管理を託された時に、本来大型トラックに積む大きさの心臓を、龍の鱗で造った勾玉へ封印した。


お陰で、持ち運びは便利になったものの、オロチは現れるわ、身体は先祖返りするわ、龍神湖が決壊しそうになるわ、散々な目に遭っている。


まあ、龍の鱗で出来た勾玉と、オロチ達が『心臓は大きいはず』と言う先入観のお陰で、こうして目の前に来ていても、気付かれないのだけどね。



え? さっさと再封印しろって?


このオロチの壱頭が、封印されてた場所が、ロシア領になってるせいで、再封印出来ないんだ。


ロシアに、危ないモノ持ち込むな! と言われちゃったらしい。


現在、神社本庁のオロチ対策係である西園寺さんが、別の封印場所を探しているので、それまでは悪さしない限り、野放し状態なのだ。



そのオロチは、さすがに真夏なので、出逢った時みたいにパーカーは羽織って無いが、ジーンズにTシャツと言ったラフな格好に、捻り鉢巻き姿だった。


蛇の癖に、Tシャツに蛞蝓(ナメクジ)のプリントとか……被虐(ひぎゃく)願望でもあるのか?



「何しに来やがった!」

セイが声を荒げて威嚇する。


無理もない。龍神湖決壊寸前事件で、死にかけたんだし


まあ、あの時は、目の前のオロチじゃなく。もう一匹オロチの頭……弐頭目が居て、ソイツが決壊を引き起こしたらしいが……


僕は見てないんだよね。赤城の龍神さんは、ウチ制服を見たと言っていたけど、真相は分からず終いだ。


「何しに来たって、寿司を出前しに来たんだ。頼んだだろ?」

オロチはそういって、寿司桶をポンポンと叩いた。


「確かに頼んだけど……なんで出前の配達してんのさ」

どこの世界に、神話の化物が寿司の配達してる、寿司屋があるんだよ


「いやな、心臓がこの町に在るのは、分かってるんだ。だがよ、一向に見付からねーから、腰を据えて掛かろうと思って、公園で寝泊まりしてたら、人間の……『けいさつかん』って言うのが五月蝿くてよ」


「お前……まさか、警察官を食ったりしないよな?」


「あったりめーだろ! 人間の女ならまだしも、男なんか筋ばっかで美味くねーし」

そこは神話通り、娘を食うんだ……


と言うか、蛇だから丸呑みか?


「まあ、公園じゃ寝てらんねーから、『あぱーと』? って奴に住だしたんだけど……『やちん』とか『しききん』とか『れいきん』とか必要だって言うんで、『あるばいと』って奴をしてるのよ」


オロチが生活の為にアルバイトとか、凄いことに成ってるな……


「でも、よくアパートを、戸籍も無く貸してくれたね」


「それがよ、たまたま入った酒処で、『かうんたー』とか言うの? で呑んで居た、大家のおっさんと意気投合してな。住むとこ無いなら、空き部屋あるって言うんで、翌月払いで良いからと貸してくれたんだよ」


おいおい、あの八俣遠呂智(ヤマタノオロチ)に部屋を貸すとか、正気か? 大家さん。


まあ、見た目は人間に化けてるから、普通の青年にしか見えないんだけどね。



「しっかし、こんなに沢山頼んで、見た目小さいのに、よく食うな」


「いやいやいや、この後町内会の人達が来て、お祭りの段取りを決めるんだよ。後見た目小さいは余計だ」

龍神の雌にされたときに、背が縮んだんだから仕方あるまい。


その時、セイが寿司桶に手を伸ばそうとしているのを、発見し叩き落とす。


「いてて、何すんだよ」


「セイは秋刀魚を食べ終わるまで、寿司は食べちゃ駄目!」


「そんなの、『スタッフが美味しくいただきました』ってテロップ出しときゃ良いだろ」


あんなに焼き直せって、五月蝿かった癖に……コノヤロウ


僕は、チベット砂狐のような眼差しでセイを見続けると、分かったよ! と秋刀魚を丸呑みかした。


オロチと、どっちが蛇だか分からんな。


そんな僕とセイのやり取りを見て、オロチが言う

「本当、似た者夫婦だな、お前ら」


な!?


「コイツと一緒にすんな!」

と、僕とセイの声がハモる


「ほらな、息も合ってる」


「うっさい! ほらお金……」


「あいよ、丁度だな。どうもスパシーバ」

このロシア帰りのオロチめ。


北方の島に封じられていたらしく、ロシア語も少し話せるらしい。


お金を払った後、寿司桶を受け取ると、嬉しそうに居間へ向かうセイに


「全部は食べるなよ、町内会の人の分もあるんだから!」


と釘を刺しておくが……全部食いそうな予感。



「じゃ、空桶はまた夕方取りに来るから」


そう言って、オロチは去っていこうとするが


一人の少女によって、阻止された。


少女の剣撃を、飛び退いて避けたオロチは、即座に体勢を立て直し少女を睨む。


「ふん! よく今のを避けられたな……」

そう言って来る、少女の手で振りかざされた剣は━━━━


紛れもなく、宝剣天叢雲(アマノムラクモ)剣!(草薙(クサナギ)剣とも言う)


間違いない! 僕とセイが檀ノ浦で見た剣と瓜二つだもの。


一体、この少女は……何者なんだ……




作中の『SFAC』は、コ○ケの事です。名前自体に商標登録されているので、変えてあります。

だいたいは、『同人誌即売会』と無難に書いちゃいますけどね。


初回2話立て続けで行きます。

3話はお昼予定。

4話は……ス思案中です。


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