第1話 千年の都
快走していた新幹線のぞみ号は、トンネルの中で速度を落とした。
軽いGを感じた綴は目を覚まし窓を見やるが、見えたのは眠たげな自分の顔と暗いトンネルの壁だけだった。
♪♪♪♪・・
『まもなく、京都です。東海道線、山陰線、湖西線、奈良線と近鉄線、地下鉄線はお乗り換えです。今日も、新幹線をご利用くださいましてありがとうございました。京都を出ますと次は終点、新大阪です』
「ふうーっ」
間もなく列車はトンネルを抜けた。急に周囲が明るくなる。車窓を流れる家々の屋根を眺めながら、綴は伸びをした。通路側に座る母親は、既に荷物を下ろすために立ち上がっている。
「着いたねー、お母さん、千年の都」
「何を観光客みたいなこと言ってんの。今日からそこに住むんだからね」
「なんかさ、京の都には魑魅魍魎がいっぱいってみんなが言ってたよ」
「なにそれ。って部外者目線だとそんな気もするけどね。ほら、あんたの荷物は自分で持ってよ」
母は小型のキャリーケースを綴に下ろした。淡いパープルのお気に入りである。本来は修学旅行に使うつもりで買ったものだが、まさか引越しに使うとは思ってもみなかった。しかも目的地が同じ京都である。
西條 綴はスマホをリュックに仕舞って腰を上げた。のぞみ号のブレーキがカクンと強まる。
おっと。前の座席の背もたれに手をついて、そして思った。
そこいらの観光客と違って、あたしたちはもう帰らないんだ。これからここで暮らすから。幼い頃から幾度となく訪れたおばあちゃんち。横浜のマンションとは全然違う路地に面した日本家屋。あそこに住むなんてピンとこない。いつもはホテルに泊まっていて、最初に挨拶に訪れるくらいだった。何しろお店をやっているから、のんびり滞在なんて出来なかったのだ。あそこってちゃんと生活出来るのかな。
それから…、明日から新しい高校ってもっと信じられない。昨日まで通っていた友桐高校、楽しかったな。今度は女子高。見当もつかない環境だ。京都のお嬢様だらけなんだろうか。みんな『そうどす』とか言うのだろうか。あたし、まじでやっていけるのかな。不安と心配しか出て来ないや…。
「綴、行くよ」
ぼーっとしている綴に声を掛け、母の西條 美筆はいそいそと通路に出て行く。綴は慌てて後を追った。のぞみ号は更に減速し、京都駅の13番ホームに滑り込んだ。




