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あなたのためです〜自由は、失って初めてわかる〜  作者: カトーSOS


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エピローグ ポテト

挿絵(By みてみん)



エピローグ ポテト


 マクドナルドの自動ドアが開く。


 温かい空気が、

 幸子の身体を包んだ。


 油の匂い。


 ポテトの匂い。


 子供の声。


 レジの電子音。


 全部、

 懐かしかった。


 幸子は、

 一歩だけ立ち止まる。


 施設の自動ドアは、

 開かなかった。


 外へ出ようとすると、

 止められた。


『危ないですから』


『ご家族が心配されています』


『ここがお家ですよ』


 でも、

 ここのドアは、

 誰にも止められずに開いた。


────────────────


 店内は、

 夕方で少し混んでいた。


 制服姿の高校生。


 小さな子供を連れた母親。


 ノートパソコンを開く会社員。


 誰も、

 幸子を見ていない。


 ただ、

 普通に過ごしている。


 そのことが、

 幸子には不思議だった。


 施設では、

 いつも見られていた。


 転ばないか。


 勝手に出ないか。


 興奮しないか。


 ちゃんと食べるか。


 ちゃんと薬を飲むか。


 でもここでは、

 誰も幸子を管理していない。


────────────────


 レジの前へ立つ。


 少し緊張した。


 何を頼むか、

 自分で決めていい。


 そんな当たり前のことに、

 身体が慣れていなかった。


「いらっしゃいませ」


 若い店員が笑う。


 幸子は、

 一瞬だけ言葉に詰まる。


 後ろには、

 次の客が並んでいる。


 早く決めなければ。


 でも、

 急かされても、

 今日は大丈夫だった。


 誰にも、

 「危ないので」

 と言われない。


 幸子は、

 ゆっくり言った。


「ビッグマックのセットをください」


「はい。

 お飲み物はいかがされますか?」


 幸子は少し迷う。


 コーラ。


 ウーロン茶。


 オレンジジュース。


 迷える。


 それが嬉しかった。


「……コーラで」


「かしこまりました」


 会計。


 幸子は財布を開く。


 千円札を出す。


 自分で払う。


 その動作だけで、

 涙が出そうになった。


────────────────


 トレーを受け取る。


 重かった。


 でも、

 幸子は嬉しかった。


 窓際の席へ座る。


 外では、

 夕方の車が流れている。


 高校生たちが笑っている。


 親子連れが横断歩道を渡っていく。


 誰も、

 自由について考えていない。


 自由なのが当たり前だから。


────────────────


 幸子は、

 ポテトを一本つまむ。


 熱い。


 塩味。


 油。


 それだけだった。


 でも。


 幸子の目から、

 涙が落ちた。


 施設の食事が嫌だったわけじゃない。


 ちゃんとしていた。


 栄養も考えられていた。


 職員も優しかった。


 でも、

 これは違った。


 自分で選んだ。


 自分で買った。


 自分でここへ来た。


 その味だった。


────────────────


 幸子は、

 窓の外を見る。


 若者。


 親子。


 会社員。


 高校生。


 誰も、

 自由があることを意識していない。


 幸子だけが知っている。


 自由は、

 失って初めてわかる。


────────────────


 幸子は、

 そっと右手を見る。


 鍵が、

 まだ手の中にあった。

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