03話 ここで生きていく
異世界に転移してきて初めて出会った自分以外の
生物。
それは初めての敵対者であり、自らの甘かった考えを捨て去ってくれた出会いであった。
(フゥーッ、フゥーッ)
荒くなることのないはずの息が何故か荒くなり、
自分が目の前の敵、ホーンラビットへ恐怖していることを暗に伝えていた。
(クソッ!!これは現実で異世界で、危険なんて当たり前にあるってわかるだろう...!!)
どこか現実味を感じて無かったのだろう。死を経験したと思いきや異世界へ転移して何の情報も無く、広大な森で1人ぼっちで...、たぶん夢を見ているように思っていた節があったのかもしれない。
(逃げは無い、ステータスで劣っている時点で逃げるなんてできない...)
ホーンラビットのステータスには、タフさで勝ち、素早さ、持久力、果てには攻撃力まで完全に負けている状態だった。
逃げず、真っ向から対峙し、目の前の命を完全に
停止させなければ自分が死ぬことになる。
(やるしか無い、覚悟を決めろ、この世界で生きていくために...殺すんだ...)
生物の命を能動的に奪うなどやってこなかった者が、実際に命を持った相手と殺し合うのだ。
どこかゲームじみていて、気楽に考えてた意識が
間違いであると、ここではっきりと自覚しなければならなかった。
(こんな身体にはなってしまったが、俺はまだまだ生きていたい...。この世界で生きるからには何度も経験していくのだろう)
EXスキル、焚べる者を発動し、掌に己の魂の炎を
纏わせ、目前の敵を糧とする決意を示す。
(どれだけ幸せに生きていたかが今になってわかるとは甘すぎるな..だが、今から変わらなければっ!!)
今までのぬるま湯の人生観を捨て去り、甘かった
思考を塗り替える。
―ドッッ!!― (おらぁぁぁッ!!!)
狙われている場所は予測できていたので、再び左胸に向かってきたホーンラビットを蒼い炎を纏わせた掌で受け止める。しかし、衝撃を抑えきれず、左胸に鋭い角が浅く刺さる。
(クッ!!)
キュィイィィィイィィ!!!
魂の炎が目の前の生物を燃やし尽くすために
ホーンラビットの全身を包むと、その生物は断末魔といえる鳴き声を発し、火達磨と化し、もがき、
動かなくなる。
(ハァッ、ハァッ!!)
命を奪った感覚に不思議な高揚感と、他を殺し、
この世界で生きていく決意が湧いてくる。
傍から見れば、ただうさぎを殺めただけ、
しかし、それは帯戸六郎にとって、異世界で初めてスタートラインに立つ第一歩だった。
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(やった...やったぞ...)
ホーンラビットは蒼い炎に包まれ、やがて動かなくなった。
そうすると、未だ燃えるホーンラビットが自分の顔めがけて飛んでくる。
(うわッッ!!!......何だ..吸収か...)
まだ生きてて、最後の力で一矢報いようと向かってきたと思ったら、ただ魂の灯の焚き木となっただけだった。
(―ッ!!!)
ホーンラビットを吸収した瞬間に、身体の内側に 感じている魂の灯からの熱が体を巡った気がした。
その感覚は一瞬であったが、LPが回復したのだろうか?
(やはり生物はプラスになるかのか...?)
命を持つ相手を焚き木にすればLPが回復するのだろうか?
(今回はなんとかなったが、次にまた魔物と遭遇したら大丈夫だろうか....?)
自分よりも強いホーンラビットを一瞬にして燃やし尽くした焚べる者の力.....それに頼りきりになると
いつかジリ貧を起こす気がした。
(とりあえず、ステータスを確認しよう。)
オビト ロクロウ Lv1
種族:デュラハン
HP:38/50 MP:25 SP:60 DF:46 AT:10 AGI:38(+8)
スキル
鑑定Lv2 瘴気変換 瘴気吸収Lv1 俊敏Lv1 突進
EXスキル
焚べる者〈29〉
(やはり鑑定のレベルが上がっていたか。LPは27だったが29に戻っている..。あの時熱を感じたのはLPの回復だったみたいだな。後は...突進と俊敏が増えてる?)
今のところ焚べる者により、魂の灯の焚き木にするものは生物がプラスになるとわかった。そしてその生物がスキルを持っていたら、自身に取り込む事ができるらしい。かなり強力だな。
(これからも色々と戦っていくとは思うが...)
焚べる者は強力だが、だからといってすべてを相手取れるかというと怪しい気がした。
(スキルの取得で魂の炎一本でやっていくのは後々避けれるかな?)
これからもこの世界にいるからには命のやり取りは否応なく続いていくだろう。
(それじゃ、人里目指して移動しますか)
ホーンラビットとの遭遇は、自分の中でどこか信じれなかった現実を飲み込めるようになったいい出会いであったと言える。
(甘かった考えを捨てて、ここで生きていく...この身体と上手く付き合っていこう)
今度こそ、異世界転移した自分の状況をしっかりと整理できた気がした。




