33話 信用は誰に
更新が大幅に送れてしまって大変申し訳ありませんでした。
次週からは土日のどちらかで投稿できるようにしていこうと考えております。
今後ともこの作品をどうかご贔屓に。
アーディはどうしても俺を信じきれないらしい。
俺が実はルエルタが遣わしたスパイなんだと言ったほうが信じられるとまで言うほどに...
だが、アーディの思っているように部外者でかつ、出自だって怪しい俺を簡単には信用できないという気持ちは全く理解できない訳じゃない。
自分でもこんな見た目してるやつ怪しいと思うし。
……だが、それはそれとしてこのまま何も言わずにいる事はできない。
ここまでやってきた俺の尽力は信じられない....と、俺の今までの行動は騙す為の行動だ、と。
正直、イラついている。
俺が背負った覚悟、誓い、そして約束...その全ては嘘だと否定された様でものすごくイラついている、もうキレていると言っても良い。
(……おい、てめぇよぉ...俺がどんだけ必死こいてここまできたかわかってねぇのか?)
「―ッ..!」
「ちょっ..!ロクロー!!」
俯くアーディに詰め寄り、凄んでみせる。
彼女の方が若干背が高く、視界はやや上を見ることになっているが、頭が無いのでそこは気にしない。
(俺はこの森を救うと、ミルシャの頼みを叶えると誓った!事情を説明した時言わなかったか?)
「……」
(俺をどうやっても信じないって事はだ、俺の信念を否定するってことだ、それは流石に文句の一つも言わせてもらうことになるぞ?)
「………」
アーディはずっと俯いたまま黙り込んでいる。
(そのままでいるつもりか?聞いてんのかよ!?)
何も反応を示さないアーディの襟元を乱暴に掴む。
「―ッ!ロクロー!!それは少々やりすぎでは―」
(いいや、俺のあの覚悟が嘘だと言われてるんだ、それを黙って見過ごす訳にはいかない!)
ミルシャが慌てて俺を止めに入る。
少し攻撃的になりすぎているかもしれない。
だけど、ミルシャが犠牲になってしまったあの時に掲げた覚悟を蔑ろにされているのは我慢ならない!
(アーディ、あんたは俺のしてきた事は嘘っぱちでどうしても信じれないんだろう?!)
「………あぁ...」
「師匠...!」
(俺はこの大森林を救おうって本気で行動してる、もちろん命だって賭けてな!)
「……」
(なぁ..何があんたをそこまで縛る?)
「……」
「何でこうも頑なになってる?何があってあんたをここまでさせてるんだ!?」
口をついて出たのは疑問だった。
こんな意固地に認めないのははっきり言って異常。そんな彼女に気づけば質問を投げかけていた。
「……ロクロー殿....私は...怖いんだ...」
(怖い..?)
先程から俯いていたアーディがやっと口を開く。
「ロクロー殿を信頼して、戦線を共にすることが....どうしようもなく..怖い..」
アーディから出てきた質問の答えは、恐怖だった。
俺と一緒に戦うことが....怖い..?
「もし仮にだが、ロクロー殿と元凶たるルエルタを追い詰めれたとして、もしその場で貴殿に裏切られでもしたらこの大森林は一体どうなる?我々エルフの民は、先祖より暮らしてきたクエルタム大森林はすぐに滅亡してしまう..!」
(そんな..こと...)
「十分、あり得てしまうことだ..!」
……確かに..アーディの言うことは...わかる。
魔物側として行動しているらしい氏族長ルエルタ。
加えて魔物を使役する存在がいるかもしれないことを考えると、本来は自然災害の様に突発的に起き、本能で動く魔物達が、一目散に護り手を狙うことで引き起こされる現象...厄災が人の意思で先導できてしまう可能性があるということ。
そうなってしまえば、ただでさえ厄介な厄災が手のつけられない脅威になってしまう。
「他の氏族のエルフ達は皆、この始まりの大樹の中に幽閉されてしまっている!今こうして動けるのは私達だけなのだ..!最悪私はどうなっても構わない、しかし、護り手のミルシャがやられたら魔物は浄化できずにこの地はやがて魔物共に飲み込まれる..!」
(…………)
魔物側に寝返っている氏族長のルエルタを倒す事は最優先事項だが、それ以上にミルシャの生存は確かに大事だ、護りの要だからな。
もし護り手がいなくなれば、瘴気を浄化する手立てがなくなってしまう。
そんな土地に待っているのは災神復活の基盤として魔物達に乗っ取られる未来...
アーディが抱える不安は到底理解できないものでは無かった。
「……これが、私が恐れている事態だ..」
(………)
「過酷な道を歩むと思うが、ロクロー殿は同行せずに護り手のミルシャ、導き手の私2人で敵陣である始まりの大樹に乗り込もうと考えている」
「師匠..!?」
(…そうかよ...)
アーディの考える道筋。
単独でミルシャを守りきり、道中予想される妨害を全て乗り越えつつ、氏族長ルエルタを倒し囚われたエルフ族を救出して残った厄災を消し去る。
………無謀だ、どれほどアーディが強者であろうが無理な計画だ...
(……本気か..?)
「そうだな、それが詰みの状況を徹底的に排除し、か細くも唯一残った道だと思っている」
これは....看過できない、ほっとけば全て終わる...
(…駄目だ、本気でそんな策で行くなら俺も絶対について行く)
「いや、ロクロー殿にはここで別れてもらう」
「そんな...師匠..!?」
「ミルシャ...エルフ族の存亡がかかっているのだ、完全に信用できない者を連れる訳にはいかない..!」
「考え直してください師匠!ロクローの力は絶対に必要です!!ルエルタは精神操作系の魔法を得意とすると聞きました、ロクローであればそれを無効化できます!」
「その力の有用性は当然承知している、だからこそロクロー殿に裏切られた場合に私達は容易に一巻の終わりになってしまうのだ」
「…あり得ません!ロクローが裏切るなんて絶対にあり得ません!!」
ミルシャが必死に弁明してくれている。
そうだ、俺は裏切るつもりなんて一切無い!
今言わなければ....今伝えなければ..!
(アーディ!!)
「―ッ!..何かな?ロクロー殿」
(ロクロー...)
このまま立ち去るのは簡単だ。
ただもう俺の役目は終わったと潔くなれば良い。
だが、そうすると俺の誓いはどうなる?
必ず護ると決めた少女を見殺しに、少女との約束は叶えず仕舞いなる。
(俺も大樹へ行く!連れて行ってくれ!)
「それは許容できないと―」
(俺はッ!!)
アーディに伝える。
頭の内にこびりつくというその疑念を吹っ飛ばし、立てた誓いも約束も果たす為に、今の俺がどれほどこの森を救う覚悟を決めているか一発言ってやる。
(確かに俺はこの世界出身じゃない、それはそれは遠すぎるくらいに無関係な奴だ)
「………」
そうだ、今の俺ほど無関係のくせに命まで差し出すくらいお節介に精を出してる変わり者はいないだろう。
(しかも、元いた世界じゃ特に何かを頑張るなんてしてもこなかったし、ただ日々を惰性に生きて突然ぽっくり逝っちまっただけのちっぽけな男だ)
当たり前に過ぎていく日常を享受し、無感情に家と職場を行き来して、時々娯楽を楽しみながら人生を消費していく。
そんな取るに足らない人間の1人だった。
(だけど、そんなつまらん男にある偶然が起きた。不幸にも死んでしまった後、女神様に喚ばれて厄災を止めろと言われた)
何故、俺が選ばれたのか今でもわからない。
最初はなんとも思わなかったが、段々とあの女神が薄気味悪い存在に思えてきている。
(そして、その女神様に新しい身体、身に余る力を貰ってこの世界に降り立ち、当然右も左もわからずに孤独に彷徨った後、一つの転機が起きた)
俺の生きる意味、存在理由を示してくれた出会い。
(ミルシャと出会った。そこから俺は、クエルタム大森林を救う為にと行動し続けている)
無意味に生きてた俺が初めて生きがいを見つけた。
俺が誰かの役に立てる、初めてのチャンスだった。
「………」
(俺の生い立ちを全て信じる必要はない、あんたはただ俺の力を利用すれば良いだけだ!)
正直に言えば、アーディに心の底から認めて貰おうなんて思ってない、俺の目的を果たす為に同道するそれだけだ。
(俺を信じれないならミルシャを信じろ!それなら良いだろ?)
「…ミルシャを..!?」
(そうだ!!あんたは俺の力に賭けるんじゃない、俺に大森林の未来を任せてくれたミルシャに..大森林の護り手に賭けろ!!)
「…ッ!」
俺を信じられないなら、俺を信じてくれた弟子なら大丈夫だろう?
「………」
「アーディ師匠...」
「ミルシャ...」
導き手と護り手が見つめ合う。
ミルシャに見つめられたアーディは、少しの間葛藤する様子を見せると、ぽつりと口を開いた。
「…わかった...ロクロー殿、貴殿の同道を認める」
「―ッ!師匠!」
ミルシャが明るい笑顔でアーディに抱きつく。
アーディは困ったような表情をしながら、胸の中の愛弟子の頭を優しく撫でる。
(ありがとう)
感謝の意を込め、右手を差し出す。
「……ルエルタはとても強大だ、どうか全身全霊を持って望んでほしい」
(当たり前だ)
アーディも応えるように右手を差し出し、お互いに固く握手を交わす。
紆余曲折したが、ついに敵本陣に乗り込める。
いざ決戦の地、始まりの大樹の内部へ!!




