16話 最良へ向かって
(ありがとう、話してくれて)
「いえ...そんな..」
クエルタム氏族の村へ向かう道中、ミルシャに俺と出会うまでに一体何があったのか。
その事情を尋ねると、ゆっくりとだが、その詳細を話してくれた。
村の一大事に突如としてやって来て、村人達を人質に脅迫し、厄災を鎮める為だという理由でミルシャを生贄にした族長ルエルタ。
偽エルフ達や、無事を約束したミルディア氏族達の誘拐、魔物を従える存在の事を考えると何か怪しい目論見すらも感じれる。
「……ごめんなさい」
(……え?)
知り得たばかりの情報を咀嚼していたら、いきなりミルシャに謝られてしまった。
何かあったかな?と考えていると、
「あの時に私....何もできなくて....婆様がいなくなるのも、護り手の役目を棄ててしまうのも怖くって....アーディ師匠がルエルタへ反抗していた時でさえ、私はただただ見ているだけで...」
ミルシャが弱々しくぽつりぽつりと話していく。
「結局、最後にはルエルタの甘い言葉に乗って生贄になることを認めて...何もかも投げ出して、楽な方へと逃げてしまって...」
抱え込んでいた後悔をゆっくりと吐き出していく。
「祭祀場でロクローに助けられた時、無理やり自分を納得させて諦めるしか無かった事、もしかしたら全部やり直せるんじゃないかって...それでロクローは命の恩人だっていうのに、少しでも私の悪足掻きを成功させる為だけに強引巻き込んで...」
自らの思惑でさえも、包み隠さず吐き出していく。
「今まで...隠していてすみませんでした...」
(ミルシャ...)
「…軽蔑...しましたよね...?不都合な事は隠して、こんな無謀な事に勝手に付き合わせて...」
(……)
ミルシャはかなり思い詰めている...
今まで気づけなかった...いや、気づかなかった。
初めて出会った頃から快活で、護り手としての使命に燃える頼もしい仲間と思っていたが、ミルシャは俺を良いように使う為に行動していたようだった。
……正直、何も思わないとは言えない。
すごく信頼していた仲間に、ただの駒の一つだった言われた様なものだ。
それなら、俺は...どうするべきなのだろう...?
俺はミルシャに何を思う?何をしたいと思う?
大丈夫だよ、とありきたりに慰める?
よくも騙してくれたな、と責め立てる?
それは駄目だ、全部違う。
今、ミルシャに同情して慰めても、感情的に責めたとしても、それはただ逃げているだけだ。
ミルシャに向き合うことから逃げているだけだ。
なら、俺がミルシャにしてやることは決まったな。
(ミルシャ)
「...はい」
(確かに君は、禄に抵抗もできず、ただ相手の口車に乗るしかできなかった)
「...っ、はい..」
(自分の背負う役目も、守りたいと思っている人達も守れず、相手の掌の上で転がされてしまった)
「...っぅ...はいっ...」
(そして俺を巻き込み、その後始末を手伝わせようとしている)
「...ぅ...っはい..」
(そんなミルシャに言ってやりたい事が三つある)
「...ふ...ぅ..はい..」
自分が招いた惨状に苦しみ、無謀だと理解しているちっぽけな抵抗に俺を巻き込み、その後ろめたさに押し潰されてしまった彼女に言ってやりたい事。
(一つ、君は決して悪くないこと。誰かを守るためにした決断を後悔する必要はない)
「....ぇ..?」
(二つ、ルエルタのクソ野郎には未来は無いこと。俺が一発ぶちのめしてやるッ!)
「...ぇ...え...?」
(そして最後に...)
守りたい人達の為に全てを棄てた少女に、俺が今、一番言ってあげたいこと。
(三つ。俺は絶対にミルシャの味方だということ)
「...っ!」
(ミルシャが、どんなに自分を責めようと、どんな問題を抱えていようと、俺が力になってやる)
「ロクロー...」
(ミルシャはこうして生きている。まだ終わっちゃいないんだ、最後の最後まで足掻くなんてのは普通のことだろ?)
「……」
(それに、前にも言ったよな?最後まできっちりと救いきるって。だから俺で良ければ、いくらだって巻き込んでくれ)
「……」
これが、俺の考えたミルシャと向き合う方法。
ミルシャが気持ちをさらけ出したのなら、俺も自分の気持ちをぶつけて応えようと思ったのだ。
「...なん...で..」
うつむきながら、ミルシャが俺に問いかけてくる。
「何で..私にそんなに優しいんですか..?こんな無謀な事に付き合わせてるのに...」
ミルシャは、自分に向けられた過剰と言える善意に疑問を抱いているようだった。
その問いには、深く考えずとも答えにできる。
(さっきも言ったが、救ったからには救いきるっていうのも、目の前で困ってる人をほっとけないっていうのもある。けど俺さ、ミルシャに〝同志〟って言われた時、めちゃくちゃ嬉しかったんだよな)
「え...?」
(右も左も知らない世界に飛ばされて、たった一人で彷徨って、心細かったんだ。そんな時にたまたまミルシャと遭遇して、助けて、こんなどう見たって異形と言える俺を頼りにしてくれて、しかも同志とまで言ってくれた。あの時に、俺はこの世界で独りじゃないんだってすごく...救われた)
この気持ちに嘘偽りはない。
デュラハンとしてこの世界に転移させられて、魔物やモンスターとして扱われてもおかしくない俺に、仲間であると言ってくれた事が深く心に沁みた。
「あれは...ああやって仲間意識が芽生えさせれば、反故にされないだろうと...」
(それでも、あの時確かに俺は救われた。ミルシャにどんな思惑があったとしても、だ。だから絶対に俺はミルシャに力を貸す)
「...こんな...こんな自分勝手な私をロクローは許すのですか?」
(もちろん)
「ッ!...だって...だって...もしかしたら、死んじゃうかもしれないんですよッ!?」
(俺は元から死んでるようなもんなんだし、もし仮に死んだとしたって、ミルシャの為に命を賭けるのなら悪くはないかなって)
「―ッ!?」
(だから、俺もミルシャと一緒に足掻かせてくれ。俺はミルディア氏族も君の師匠もこの森も救う為に全身全霊を賭けるッ!!まぁ、つい最近...ていうか今まで戦いとは無縁だったんだけどね)
「………ほんとうに...すみません...何から何まで...」
(いいんだよ。それじゃ行こうか、一緒にね?)
「っ......はいッ!!」
涙を振り払い、苦悩を越えたミルシャの瞳に覚悟が宿る。
自らが招いてしまった現状を早く挽回しようとしていた時の焦りは消え、この大森林を、守りたい人達を救う者として、元凶へと向き合う。
互いの結束が強まるのを感じて、始まりの大樹へと歩みを進めた。




