第八十六話 『計画の主』⑮
「……っ、まさか……」
不意に出された第二王子の名前に思わず緊張が走る。彼は将来この国の国王を担う存在だからだ。
本来ならばマルセイ第二王子が国王になることはない。だが彼は兄である、ルイズ・ハーバレント第一王子が愚行を犯した。先日行われた、卒業パーティーで無実のリベリーナを貶めた件である。それによって第一王子は『王太子』の任を現国王陛下から解かれた。過去に前例があるかは分からないが、元王太子が『王太子』に返り咲き国王に即位することは絶望的である。
第一王子はそれだけのことを行ったのだ。
ルイズ・ハーバレント第一王子はイリーナに唆され婚約者である、リベリーナ公爵令嬢を大衆の面前で婚約破棄を行った。更には偽証や不十分な証言や証拠品で、リベリーナを貶め断罪をしようとしたのだ。
加えて、俺が介入後の数々の失言の山。それは卒業パーティーに集まった多くの貴族たちから、王家への不信感と憤りを抱かせるには十分過ぎる内容だった。それ故に第一王子の『王太子』解任は妥当だといえる。そうしなければ、王室の存在を揺るがし兼ねない大事件に発展した可能があるのだ。
これだけの事態を引き落とした第一王子は、再び『王太子』にも次期国王という夢も抱くことは出来ない。王位継承権を破棄の上で、廃嫡は免れないだろう。そうでなければ、臣下たちに示しが付かない。国外追放か、僻地にて監禁生活かどちらにしても自業自得である。リベリーナを信じず。黒幕の駒であるイリーナの操り人形になった愚者の末路というのは、憐れである。
第一王子の愚行により『王太子』を担う人物が居なくなった。一般に公開されている王族には、子どもは第一王子と第二王子しか居ない。第一王子は除外すれば、マルセイ第二王子一択となるのだ。つまり『王太子』経て、次期国王になるのはマルセイ第二王子だけである。
彼ほどハーバレント国に必要な人物はいないだろう。
第二王子は知恵者であり、リベリーナを断罪する不穏な計画を事前に察知していた。学園内の状況にも目を配る視界の広さ、そこから良からぬ計画を知り国王と宰相を呼ぶという機転も利く。優秀な人物である。
加えて、リベリーナに関して『心の底から愛しています』と豪語していた。今後のことを考えると、リベリーナを任せられるのは第二王子ぐらいである。才覚があり、柔軟な対応をすることが出来るのだ。マルセイ第二王子が将来の国王ならば安心をすることが出来る。
それと同時に王族に向けられている、悪いイメージを払拭するには適任者だ。若く才能がある第二王子ならば、貴族たちから喜んで受け入れられることだろう。何よりも第二王子は学園の二年生であり成人前であるが、そのことを忘れさせる程の王者としての風格がある。
国の将来とリベリーナの今後を考えれば、マルセイ第二王子が『王太子』を経て国王に即位することは望ましいことだ。だがそれを望まぬ人物が居る。
「未来がないマルセイ第二王子よりも、私に付いた方が懸命な選択だと思うが?」
黒幕であるクロッマー侯爵は自信のある声で、第二王子に未来がないことを告げた。




