第7話:逆襲の老婆
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「どけえー!どけえー!」
まるで漫☆画太郎の様な老婆が、裸の様な姿で一直線に走っていた。
警察がそれを止めようとするが、
「邪魔じゃあー!どけえー!」
警察の制止を振り払い、真っ直ぐに突き進む。
「どけえー!どけえー!」
そんな漫☆画太郎の様な老婆の前にいたのは……
蟹と蠍を同時に兼ね備える巨大怪獣を踏み潰すRisquemaximumであった。
Risquemaximumに関する答えが未だに出ない強田。
「気になる様だね?奴の事が」
翔太に声をかけられてドキッとする。
「奴って誰だよ!?」
慌てて否定しようとするが、翔太にはお見通しであった。
「何ってRisquemaximumの事だよ」
改めてドキッとする強田。
「ななな何語だソレ!?意味解らんわ!」
そこへ夏芽までやって来て、
「それって、1番強いって言われてる巨大怪獣の事ですよね?」
本当は認めたくない強田だが、流石にこうなると白状するしかない。
「……こんな弱音……口に出して言いたかねぇんだが……」
それに対し、翔太はあっけらかんとしていた。
「なら、気にしなきゃ良い」
強田は、翔太の言ってる意味が解らなかった。
「は?お前ら魔法少女はあのデカブツを倒すのが仕事だろ?」
だが、夏芽も翔太に近い事を言う。
「確かに、いずれはRisquemaximumも倒す事になると思いますが、今は殆ど上陸せず、大半が海底で暮らしてるんです」
「え?」
「つまりだ。Risquemaximumは出現した時だけ対処し、それまではもっと厄介な巨大怪獣の方を倒してながら力を蓄えろって話」
翔太は、もう話が終わったとばかりに強田が未だに抵抗を感じる部屋に入って行った。
「いやぁー、ひさしぶりだなぁー。今までは授乳だったから、搾乳は久しぶりなんだよ」
「抵抗無しかよ!?」
「何を今さら。それに、我慢は体に毒だよ?」
確かに、尿意の様なモノが強田の乳房を襲っているのは事実である。
だが、それを認めてしまったら、大切な何かを失う気がして怖いのだ。
そんな中、夏芽がある事に気付く。
「そう言えば私、強田と一緒にお風呂入った事がありません」
「マジで?君って、意外と……まさか」
翔太が強田の股間に触れ、女性としてあるまじき物を確認した。
「お前ぇー!まだそんな諦めの悪い物をぶら下げているのか!?」
強田が強気で反論した。
「うるせぇ!今はこんな格好になっちまったけど、俺は男を辞めた事はねぇし、辞める気も無い!」
翔太が珍しく真顔で言い放つ。
「本当に切除しなくても良いのかい?Risquemaximumの事と言い、まだ切除してない事と言い、あの婆さんの様に泥沼にはまって抜けなくなるぞ」
強田が首を傾げた。
「泥沼?」
と、ここで、翔太の過剰男性愛が疼いた。
「でも……太くて大きいー♡」
夏芽がちょっと引いた。
「これって……セクハラ?」
強田は、叩達が乱入した際に最初にRisquemaximumに斬りかかった魔法少女に出会った。
「見ない顔だな?新入りか?」
強田は恥ずかしそうに答えた。
「それもあるが……Risquemaximumから逃げたと言われてもおかしくない事をしてたからな」
魔法少女は鼻で笑った。
「あんな人の苦労を知らない馬鹿共の事か?」
強田が力無く首を横に振った。
「いいや……その馬鹿を口実に逃げたのさ。Risquemaximumから」
そして、珍しくしおらしい事を言う。
「俺達がその馬鹿共をボッコボコにしてる間、アンタがあのデカブツ共を足止めしてくれたんだよな?」
だが、強田の心を読んだ魔法少女は、怒りを表す様に槍の石突を地面に突き刺した。
「黒幕はあの変態か?」
翔太の事だと思い、強田が仕方なく首を縦に振った。
「……ああ、あの変態男だ」
強田は、あの後翔太にある魔法少女の過去を聞かされた。
エメラード・クライアス。
彼女は元々、親元を離れてドイツに移り住んだ娘達と別居していたフィンランド人であった。だが、それが彼女とその娘達との運命を分けた。
なんと、そのドイツに巨大怪獣が上陸してしまう。
エメラードは、周囲の制止を振り切って1人でドイツに向かった。一心不乱に。
「どけえー!どけえー!」
まるで漫☆画太郎の様な老婆姿になってまで、一心不乱にドイツに向かったエメラードが見たモノは……
娘達と孫達の亡骸と……
「まーーーてーーー!まーーーてーーークソガキぃーーー!」
ドイツに上陸した巨大怪獣を成敗して、満足気に海に帰って行くRisquemaximumの姿であった。
そこからエメラードは変わった……
娘達と孫達を失った彼女は、自分のできる範囲内で巨大怪獣の事を調べ、魔法少女の超能力が非常に有効だと知り、年甲斐も無く魔法少女に志願した。
例の隕石との相性検査に合格し、前髪ぱっつん、サイドテール、金髪縦ロール、ジト目が特徴の魔法少女となり、巨大怪獣を次々と容赦なく殺していった。
だが、
「何時になったらRisquemaximumを殺させてくれるんだ!?」
娘達と孫達の仇であるRisquemaximumに未だ近付けない事にイライラしたエメラードの怒りの訴えに対し、当時の役員はこう答えるしかなかった。
「まだ命令が無いのです。それどころか、Risquemaximumの上陸回数も激減しており、下手に刺激してRisquemaximumを怒らせるのは悪手だと判断する者も出始めているのです」
この言葉は、憎しみに取り憑かれたエメラードを魔法少女管理委員会から追い出すのに十分だった。
MIA(戦闘中行方不明)を装う形で魔法少女管理委員会を無断退職したエメラードは、自分のできる範囲内でRisquemaximumを探し求めた。
エメラードの生存を知っていた管理委員会であったが、既にコントロール不能と判断して黙認したのだ。
「で、現在に至るか?」
強田の言葉にエメラードが舌打ちをした。
「あの悪戯好きめ!」
だが、強田は台詞を止めない。
「で、アンタのゴールはどこだよ?」
エメラードが呆れながら答えた。
「決まっているだろ。Risquemaximumをこの手で殺す事だ」
悔しそうに拳を握るエメラード。
「で、ゴールを決めた後はどうする?」
憎しみと怒りに完全に取り憑かれてしまったエメラードは、本当にそこまで考えていなかった。
「無いのかよ?」
「老い先短いババアが相手だぞ?」
この図星によって、強田とエメラードとの間に一発即発の空気が流れたが、
とここで、この空気の元凶である翔太にとって嬉しい誤算が発生した。
「御2人さーん!ちょっと手伝ってくれると嬉しんだけどぉー!」
レスキュー隊員が何かに向かって命令口調で叫ぶ。
「この手を放すなよ!絶対に放すなよ!」
それには一応理由があった。
鷲と蝙蝠を同時に兼ね備える巨大怪獣の羽ばたきのせいで発生した強風が、小さな子供を遠く彼方に吹き飛ばそうとしていたからだ。
「ママァー!ママァー!」
「この手を放すなよ!絶対に放すなよ!」
だが、レスキュー隊員の命令口調も虚しく、子供はとうとう吹き飛んでしまった。
「ちくしょおぉーーーーー!」
でも、魔法少女達が瞬間移動で先回りしていたので、吹き飛ばされた子供は無事に保護された。
「もう大丈夫!お母さんに逢わせてあげるからねー」
とは言え……鷲と蝙蝠を同時に兼ね備える巨大怪獣の羽ばたきのせいで発生した強風がまだ吹き荒れ続けていた。
「元凶であるあいつを倒さないと、この風は終わらないみたいね?」
翔太に呼び出され、現場から少し離れた場所に瞬間移動した強田とエメラード。
「あーあ。まるであいつの手の平みたいで嫌なんだけど……」
悪態を吐く強田に対し、エメラードは何かを思い出すかの様に額に青筋を浮かべた。
「どけえー!どけえー!」
まるで漫☆画太郎の様な老婆が、裸の様な姿で一直線に走っていた。
警察がそれを止めようとするが、
「邪魔じゃあー!どけえー!」
警察の制止を振り払い、真っ直ぐに突き進む。
「どけえー!どけえー!」
「あのガキ、気の利いた魔法少女がいなかったら―――」
強田の悪態を最後まで聞く事無く、エメラードは既に飛び出していた。
「……言うまでもなかったか?」
手にした槍からビームを放って巨大怪獣を攻撃するエメラード。
巨大怪獣は激しく羽ばたいて強風を発生させようとするが、その時既に背後に回り込んでいたエメラード。
「生憎、わしはわしより大きな動物は大嫌いなんじゃ」
エメラードの殺気に満ちた笑顔を見て少し怯える魔法少女達。
巨大怪獣が体を回転させながら翼でエメラードを殴ろうとしたが、その時既に巨大怪獣の頭頂部に槍を刺していたエメラード。
「消えろ。目障りじゃ」
巨大怪獣の頭頂部に突き刺した槍からビームを放って巨大怪獣を攻撃するエメラード。
「巨大怪獣、超能力許容限界値を突破します!」
そして、ガラスの様に砕け散る巨大怪獣の中からエメラードが出て来た。
殆ど出番が無かった強田は、
「うっひょー!流石は百戦錬磨!伊達にババアしてねぇわ!」
戦いを終えたエメラードがこのまま飛び去ろうとしたので、翔太や夏芽が慌てて停めた。
「ちょっと!?どこへ行くんですか!?」
「そんなつれない事言わないで!」
だが、エメラードは素っ気無い。
「役目は終わった。これ以上、時間を無駄には出来ない」
そこへ、強田がやって来た。
「お目当てのRisquemaximumがいないからか?」
エメラードは無言のまま去ろうとするが、強田は更に台詞を加える。
「でもよ、倒すべきデカブツはRisquemaximumだけじゃじゃねぇだろ?」
魔法少女達が下を見ると、先程吹き飛ばされて救助された子供の母親が、お礼を言う様に会釈した。
これを視て、エメラードは何を思ったのか?
娘を失った事への後悔か?
娘を奪ったRisquemaximumへの怒りか?
娘を守れなかった自分への叱咤か?
子供を失わなくて済んだ母親への嫉妬か?
が、他の魔法少女達はどれにも当てはまらなかった。特に強田は。
「硬いぜ婆さん!ああいうのは、素直に受け取っておくものだぜ!」
しかし、エメラードにとっては無意味であった。
そんな物を受け取っても、娘や孫は戻って来ない。
それならば、さっさとRisquemaximumを殺した方が正しいのではないか?
でも、
「それによ婆さん、Risquemaximumは何時何処に現れる?」
エメラードにとって1番痛い所であった。
兵器推進善業による軍事クーデターの時にRisquemaximumを攻撃できたのも、ただ運が良かっただけなのだ。
「だからこそ!時間が惜しいのだ!」
既に図星を突いたと悟った強田は、ここぞとばかりにツッコむ。
「手あたり次第かよ?そんなんじゃ、命が100ダース有っても足りねぇよ」
図星を突かれて赤面したエメラードは、強田に対して強い口調で言い放つ。
「そこの若造!お前はとっくに魔法少女なんだから、そんな醜い物を未練がましくぶら下げるな!そっちの方が逆に女々しいわ!」
エメラードが言っているのが局部の事だと理解した強田は、さっきまでの様な嬉々とした態度から一変して怒り出した。
「うるせぇー!誰が好き好んで切り落とすか!?」
と言って、ふと翔太の事を思い出してしまう。
「……いたわ……アレを望んで切り落とす、救い様が無いアホが……」
「そこで何で僕を見るのかなぁー?」
その隙に、エメラードが瞬間移動でこの場を離れた。
「あっ!しまった!?」
だが、強田は夏芽の方を止めた。
「やめときな。アレは誰かさんの言う通りの泥沼だ」
「だったら―――」
強田は残念そうに首を横に振る。
「あの様子じゃ、もう無理だ。多分、自分自身ですら止められない。そこまで追い詰める何かが有るんだろうよ?きっとな」
そんな強田とエメラードが心の底から共闘出来る日は来るのか?
その鍵を握るのは、Risquemaximumか?魔法少女管理委員会か?
それとも……




