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メトゥス  作者: 髪槍夜昼
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十四人目


アルブスのとある公園は、レプスにとって思い出の場所だった。


雪みたいに真っ白な木が中心にある、そんなに広くもない公園。


アルブスの人間でも知らないような小さな公園でも、幼いレプスの一番の遊び場だった。


大好きだった姉と、もう一人の友達と一緒に色々なことをして遊んだ。


レプスにとって最も幸福な時間だった。


「………」


聖堂に軟禁されていたレプスがその場所へ来たのに、深い理由はない。


その日は珍しく夢見が良くて、つい幸福だった過去を夢見てしまった。


それで思わず、懐かしい場所まで足を運んだと言う訳だ。


無言で公園を歩くレプスは、引き寄せられるように真っ白な木へ向かう。


三人で何かをする時は、いつもここに集まっていた。


特に姉は、その下に宝物を埋めるのが好きみたいだった。


「………」


持ってきた道具を使って、レプスは木の根本を掘り始める。


ほんの数分掘り進めただけで、目的の物は見つかった。


それは土で汚れてボロボロになった、一冊の『本』だった。








「………」


騎士団に追われるようになった経緯を思い出しながら、レプスは本を撫でた。


全てはこの本が原因だった。


思い出の公園で見つけた本。


これを手にした瞬間、レプスは騎士団に追われ、命さえ狙われるようになった。


外見はただの古びた本。


自分と姉と一人だけの友人しか知らない秘密の場所に埋めてあった物。


一体これが何だと言うのか。


騎士団はどうしてこんな物を求めるのだろうか。


考えながら懐に本を戻す。


ふと、周囲を見渡すと深い緑が広がっていた。


考え事をしながら散歩する内に、村周辺の森まで来てしまったようだ。


そう言えば、騎士から逃げていた時もこの森を通ってきたのだったか。


「見ぃつけたぁ」


その時、近くから声がした。


女性的な甘ったるい声の主を探し、レプスは周囲を見渡す。


しかし、どこにも人影はなかった。


「上よ。木の上」


言われるままに木の上を見上げる。


木の枝に止まった黄色い鳥が人語を発していた。


「な、何コレ。人面鳥!?」


「失礼ねぇ。顔は人じゃないわよ」


驚くレプスを余所に鳥は地に降り立った。


鳥の小さな足が地に付いた瞬間、そのシルエットが大きく膨らむ。


「な…な…な…」


膨張は止まらない。


ミチミチ、と生物として不可思議な音を発てて膨らむ。


レプスと同程度まで膨らんだ段階で遂に限界を迎えたのか、


鳥を模した『皮』は風船のように弾けた。


「いたたた…やっぱり、自分より小さな物に化けるのは窮屈ねぇ」


正体を現した派手な衣装の女は肩を揉みながら言う。


顔に付けた狐面も相俟って、舞台から降りてきた役者のような容姿だった。


「私はウルペース。騎士団所属と言えば、要件は伝わるかしらぁ?」


「騎士団ッ…!」


ウルペースの激変に呆然としていたレプスはその言葉で我に返った。


目の前の女は、自分を狙う騎士の一人だ。


あの本を手に入れた時から命を狙ってきた敵。


「騎士団所属のアニマ寄生者なんて…」


「別におかしくないわよぉ。私の目的と騎士団の目的は一致しているからぁ」


クスクス、と笑いながらウルペースは言った。


レプスの疑問を予想していたような口ぶりだった。


「騎士団はアニマ寄生者を化物扱いしているのよ」


「…そんなの、他の人間も一緒よ。結局の所、私達を理解できるのは私達だけなのよぉ」


少しだけ固い声でウルペースは言う。


何かの感情を押し殺しているようにも聞こえた。


「でも、騎士団が憎むのは『アニマ』なのよねぇ。私達じゃなくて」


破裂してボロボロになった『皮』を拾いながらアニマ寄生者は言う。


「どういう意味?」


「つまり、私達が人間に戻れば皆がハッピーってことよぉ」


独善的な騎士団も、人間を虐殺したい訳じゃない。


化物染みた力さえ取り除いてしまえば、その後の彼らにまで手は出さないだろう。


少なくとも、ウルペースにはそう約束した。


「でも、私達が戻る方法なんて…」


「たった一つだけあるわぁ。それが騎士団があなたを執拗に狙う理由」


スッとウルペースは細い指でレプスを指さした。


それが意味することは…


「…私?」


「そう、この呪いを解く鍵はあなたに秘められているのよ」


訳が分からなかった。


そんなことがレプスが狙われ続けた理由だと言うのか、


手の中にある本ではなく、


レプス自身も知らない力が、


「騎士団長曰く、一人目のアニマ寄生者の『力』によって私達は呪いをかけられた。呪いを解くには一人目の持っていた『力』が必要なの」


しかし、一人目は十年前の大火災で死んでいる。


故にその『力』は永遠に失われた筈だった。


「呪いをかけられた私達は一人目と似た能力を持っていた…だから、一人目の持つ『力』に代わる能力を発現する可能性を考えたのよぉ」


二人目、三人目とアニマ寄生者は騎士団に確認された。


そして、その『力』は六人目のレプスに宿っていると確信したのだ。


「どうして、私なの…?」


その質問にウルペースは当然のように、答えを言った。


「だってあなた、一人目の実の妹じゃない」

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